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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

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似て非なる麻薬と覚醒剤(2)倦怠感に使用されていたリタリン

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 リタリン(薬物名メチルフェニデート)の処方医が限られたのは2008年からでした。

 実はそれまでは、このリタリンはホスピス・緩和ケア病棟でしばしば患者さんに用いられていました。

 なぜかというと、リタリンが、がんの高度進行期になると出て来る全身倦怠けんたい感(だるさ)を和らげる作用があるとされているからです。また多い量となると眠気を誘発しがちな医療用麻薬使用中の患者さんに眠気の改善目的でも用いられていました。

 科学的根拠に基づいた医療のために運用されているイギリスのコクランセンターが提供している系統的レビューにおいても、メチルフェニデートががんに関連する倦怠感を有意に改善することが示されています(Minton O, 2010, CD 006704)。

 今となっては不正使用防止のために処方できる医師に制限がかかり、メチルフェニデートをがんの高度進行期の患者さんに使用するのが困難となっています。

 しかし私がちょうどホスピス医としてホスピスに勤務していた2005~2008年の間は、制限がかかる前であったので、メチルフェニデートをしばしば用いて倦怠感の緩和を行っていました。

 ここからはあくまで私自身の感想ですが、アンフェタミン(覚醒剤指定)類似ということもあり、その眠気に対する効果にはめざましいものがありました。またステロイドによる倦怠感の改善効果も、推定余命が1~2週間となると大幅に失われるのが常ですが、余命日単位になってもメチルフェニデート投与にてなお活発に動ける事例があるのには驚きました。

 一方で中枢神経を興奮させるがための、混乱状態や、時には一般の表現で言えば言動ともに「ハイ」になっているように見える事例もあり、考えさせられました。

 確かに、メチルフェニデートが使用しにくい現況では、患者さんは次第に衰弱して亡くなられます。メチルフェニデートを使用することで、死の前日まで動けていた方もいます。一方で精神的な、あるいは行動的な落ち着きのなさや興奮状態は、自然さからやや遠くも感じたことは事実です。

 もちろん全員が全員、そのような人為的に心身を持ちあげているように見える例ばかりではないのですが、そのようにアンフェタミン類似の物質を使用して人を死の直前まで活性化させることには様々な葛藤があったことは事実です。

 それでもぎりぎりまで動きたい、そんな方はいるでしょう。

 いや、そんな経過は自然ではない、用いないで自然な衰弱が良い、そんな方もいるでしょう。

 正解のない問題です。

 しかしいずれにせよ、法規制があって、がんの余命数週あたりから患者さんを大きく苦しめ得る倦怠感をメチルフェニデートで改善することは難しくなりました。

 けれども従前は、医療の他分野と同様に、使える手段をどこまで行うのが倫理的に是なのか、それを考えさせられるのがこのがんの高度進行期のメチルフェニデート使用でありました。

 さて読んでくださった皆さんはもうおわかりのように、医療用麻薬と、治療に使う覚醒剤に類似した薬剤は、正反対の中枢作用を示したように、麻薬と覚醒剤はまったく異なるものです。覚醒剤の話題が出ても、誤解をして医療用麻薬を遠ざけるということがないようにどうかお気をつけくださいね。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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