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佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」

コラム

患者の4割が誤診・誤診疑い経験

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 NPO法人「地域精神保健福祉機構」が毎月発行するメンタルヘルスマガジン「こころの元気+」をご存じだろうか。多方面で活躍する精神医療関係者らの連載だけでなく、患者の手記が数多く盛り込まれていて興味深い。表紙には、患者モデルのポーズ写真を必ず使うこだわりようで、プロカメラマンが時間をかけて撮影する様子を私が取材し、夕刊「こころ面」の記事にしたこともある。

 2015年2月号の特集は「病名はどうやってつけてるの?」。私も関連記事を書かせてもらったが、患者の切実な体験談に囲まれるとかすんでしまう。茨城県の女性は、診断基準にない病名もどきを押しつけられ、親子関係まで悪化した経験を振り返り、「安易で画一的な診断はこりごり」と思いをつづった。誤診のせいで医療機関を何度も変えた経験がある神奈川県の男性は「迷惑するのは何よりも患者です。精神疾患の確実で客観的な診断法の早期確立を強く求めます」と訴えた。

 2014年11月下旬から12月初めにかけて、地域精神保健福祉機構がインターネットで行った患者調査「診断アンケート」の結果も収録され、示唆に富む内容になっている。統合失調症、双極性障害、うつ病、発達障害、パニック障害、神経症、てんかん、摂食障害などと診断されている人を中心に、計250人(20歳代~70歳代)が協力した。回答者は主に、この雑誌の購読者や執筆者なので、自分の病状をしっかり把握し、状態が安定して社会で活躍する人も目立つ。それでも、現在の精神医療に様々な不満を抱いていることが分かる。

 「これまで誤診を受けた(診断が間違っていた)ことがあると思いますか?」の質問に、「誤診の経験はない」と回答した人は38%にとどまり、「誤診の経験がある」が15%、「誤診ではないかと感じた経験がある」が24%となった。実に患者の4割が、誤診、あるいは誤診の疑いがあると感じた経験を持っていたのだ。

 実際に病名が変わった経験を持つ人は、回答者の54%。多くは、病院や担当医が変わったタイミングで病名が変更された。「医師によって病名がコロコロ変わる」という精神科の昔ながらの特徴は、「科学的根拠に基づく精神医療」を掲げるようになった現在も、やはり変わらないようだ。

 病名が変わった回数は、1回50%、2回18%、3回15%、複数回9%、4回5%と続き、5回以上の患者も3%いた。正しい診断にたどり着くための病名変更だったとしても、患者の人生を大きく左右しかねない病名が、これほど軽く扱われて良いのだろうか。

 正確な診断を行うためには、初診に時間をかけるのは当然だが、担当医の診断に先立って医療スタッフが行う問診「予診」も重要になる。だが、初診時に予診の面接が「あった」という人は33%にとどまり、「なかった」が47%、「覚えていない」が20%となった。

 診療に関する質問でも、担当医から今後の治療方針や選択肢などの説明を「しっかり受けた」という人は24%にとどまり、「まったく受けていない」人がほぼ同数の25%となった。患者にきちんと対応する医師が一定数いることは救いだが、患者の思いをくみ取らず、診察を一方的に進める医師も一定数いる。こうした医師たちが、精神医療の質を著しく低下させているのだろう。


活用できないセカンドオピニオン

 このような現状では、ただでさえ確定が難しい精神疾患の病名について、患者や家族が疑問を抱くのも無理はない。そこで、別の医師のセカンドオピニオンが重要になるが、今回の調査では、セカンドオピニオンを「受けたことがある」人は26%と少なかった。診断や医師の説明に不満を抱く患者は多いのに、セカンドオピニオンの受診に踏み切れないのはなぜなのか。

 「今の主治医の機嫌を損ねたくない」という思いは当然あるだろう。以前に朝刊連載「医療ルネサンス」などで指摘したが、精神科医の中には、セカンドオピニオンの希望を伝えただけで、「信じられないのか!」「もう来るな!」などと逆上する人が少なくないので、患者の気持ちは理解できる。私も、複数の精神科教授にいきなり逆上された経験がある。「日本の多剤大量処方を改めるにはどうしたらいいのか」と尋ねただけで、「そんなことは大学教授の私に聞くことじゃない!」と急に怒り出すのだから始末に負えない。責任ある大学教授だからこそ聞いてみたのだが、製薬会社主催の講演をよく引き受けている手前、アンタッチャブルな話題だったのだろうか。

 だが、頻発する「精神科医の逆上」よりも問題なのは、精神科の治療成績がほとんど公開されていないことだ。がん手術後の5年生存率など、医療機関ごとの治療成績公開が進む現代においても、精神科の患者や家族は、どこに行けば今よりマシな診療が受けられるのか分からない。これでは、セカンドオピニオンにも二の足を踏んでしまう。精神科の情報公開の問題は、後日、詳しく取り上げたいと思っている。

 「こころの元気+」2月号では、セカンドオピニオンで状況が好転した患者の体験談も紹介されている。症状や薬の影響に苦しむ中、飛行機に乗って会いに行った医師から「ありのままに生きなさい」と言葉をかけられ、自分を受け入れられるようになったという愛知県の女性は、今の診療に悩む患者たちにこう呼びかけている。

 「大切なのは、自分を取り巻いている医療が納得のいくものであるのかどうかということ。医師の意見主体ではなく、自分が主体となることだと思います。自分のことですから」

 患者主体の精神医療を広く実現するためには、家族や支援者だけでなく、患者自身が主体的に発言し、動き始める必要がある。「こころの元気+」のように、患者の声を社会に届ける活動の拡大が欠かせない。

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佐藤光展(さとう・みつのぶ)

読売新聞東京本社医療部記者。群馬県前橋市生まれ。趣味はマラソン(完走メダル集め)とスキューバダイビング(好きなポイントは与那国島の西崎)と城めぐり。免許は1級小型船舶操縦士、潜水士など。神戸新聞社社会部で阪神淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、2003年から医療部。日本外科学会学術集会、日本内視鏡外科学会総会、日本公衆衛生学会総会などの学会や大学などで講演。著書に「精神医療ダークサイド」(講談社現代新書)。分担執筆は『こころの科学増刊 くすりにたよらない精神医学』(日本評論社)、『統合失調症の人が知っておくべきこと』(NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ)など。

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