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新しい挑戦と医療倫理…群馬大病院問題を考える(1)命を預かる覚悟と矜持

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 群馬大学病院で患者8人の死亡が明らかになった肝臓の腹腔鏡ふくくうきょう手術は、安全性が確認されていない保険適用外の手術だった。しかし、病院の倫理審査を通さず、患者へのインフォームド・コンセント(説明と同意)も不十分だった。医療の新しい挑戦と倫理の問題が改めて問われる中、患者を守るために必要なことについて聞いた。

天皇陛下の手術執刀 天野 篤 順天堂大教授

あまの・あつし 順天堂大病院副院長。一般病院で実績を積み、心臓手術の第一人者に。2002年から順天堂大教授。12年、天皇陛下の手術を執刀した。59歳。

 群馬大病院で腹腔鏡手術を受けた後、あれだけの患者が亡くなったことでまず頭に浮かんだのは、患者個々の病気の状態や年齢、体調が手術に適したものだったのだろうか、ということだ。手術の安全性を担保するには、そこをしっかり評価する必要がある。

 保険適用外の手術を保険診療として診療報酬を請求したり、患者へのインフォームド・コンセントが不十分だったりという問題もあったようだが、いずれもあってはならないことだ。

 手術の前、私なら、手術以外の選択肢も含めてよく説明し、一般的な手術成績の後に自分の成績も話したうえで同意を得る。利点だけでなく、マイナス面を隠さず言うことも大事だ。

 説明の仕方として、医学用語を並べて相手をけむに巻き、「わからないからお任せします」という言葉を導き出す医師もいる。しかし、患者と家族という「受け止める側」の言葉を使い、理解して同意してもらわなければ、十分とはいえない。

 手術中でも、事態に変化があれば、その都度、患者の家族に説明することにしている。手術では、予測できないことが起こる場合もある。誤解を生まないためにも必要なことだ。

 私は十数年前、心臓を動かしたまま冠動脈バイパス手術を行う「オフポンプ手術」に挑戦した。天皇陛下の手術でも採用した方法で、今では広く普及しているが、その頃は人工心肺を使い患者の心臓を止めて手術するのが主流だった。

 当時は、現在ほど厳しく医療行為に科学的根拠が求められる時代ではなかったので、大規模な臨床試験としてではなく、海外からの報告と経験を頼りに新しい手術を行っていた。今となっては、倫理的に本来あるべき姿ではなかったと思う。

 ただし、患者には、新しい手術方法であることはもちろん、自分たちの経験から得た情報を詳しく説明し、手術中に問題があれば人工心肺を使う方法に切り替えるなど、慎重に行ったのは確かだと言える。

 手術をするに当たり、私は、手術中の判断ミスで患者が2人続けて亡くなれば、心臓外科医を辞めると自らに課した。緊張感を伴う決めごとだが、今もそれを守っている。人の命を預かる手術という医療行為は、それほどの覚悟と矜持きょうじで臨まなければならない。

 手術で患者を亡くすことは、外科医にとって、とても大きな問題だ。もしも、それを大したことと考えず、いわば成長の中の一ページくらいにしか思わない外科医がいるとしたら、極めて残念だ。(医療部 高梨ゆき子)

群馬大病院の腹腔鏡手術問題

 2010年12月~14年6月、第二外科による肝臓の腹腔鏡手術を受けた患者92人のうち8人が術後約3か月以内に死亡したことが昨年11月に発覚した。腹腔鏡手術は、おなかにカメラと操作器具を差し入れて行う手術方法で、8人が受けたのは保険適用外の高難度手術だった。病院側は、診療内容を検証し、最終報告書を今年度中にまとめる予定。同科では、開腹手術でも09年4月以降、84人中10人という高い割合で患者が死亡したことがわかり、病院が調査を始めた。

 
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