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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

医療とお金(21)国保料などを滞納したらどうなる、どうする

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 市区町村が運営する国民健康保険の保険料(自治体によっては保険税)の滞納が、以前から問題になっています。

 一部でも滞納のある世帯の割合(全国平均)は、2008~2010年に3年続けて20.6%だったのに比べ、少しずつ改善されてきましたが、それでも2014年6月時点で17.2%(360万世帯)にのぼっています。

 大きな要因は、勤め人が加入する健康保険や共済に比べ、国保の保険料がかなり高いことです。それに加えて、公的年金の受給者以外は天引きでなく、自分で納めないといけません。生活費に余裕がないから、ほかに優先すべき支払いがあるからなどと、後回しにしがちな人がいるわけです。

 滞納が続いて悪質と判断されると保険証を取り上げられ、いったん全額自己負担しないと医療を受けられなくなります。財産を差し押さえられることもあります。しかも滞納すると、納期限の翌日から延滞金がつきます。

 介護保険料や後期高齢者医療の保険料を滞納したときも、おおむね同様の扱いで進行します。

 もちろん、経済的な余裕があるのに保険料を納めないのは、許されません。

 けれども低収入、失業、事業不振、病気などで生活に困っていたら、あるいは借金を抱えていたら、どうしたらよいのでしょうか。

 督促状などの連絡を、気が重いからと思って放置していると、まずい事態を招いてしまいます。試みる手だてはいろいろあるので、早めに対処しましょう。

短期保険証、資格証明書とは

 国保の財政難を理由に、滞納に対する制裁を強める自治体が多くなっています。

 滞納したときの流れを、もう少し詳しく見ておきましょう。

 納期限までに保険料を納めないと、役所から督促状が届きます。それでも滞納が続くと「短期保険証」に切り替えられます。有効期間は6か月のことが多いようです。この段階では、従来通りに保険診療は受けられます。

 そのあと、特別の事情がないのに滞納期間が1年を超えると、今度は保険証を取り上げられ、「被保険者資格証明書」が交付されます。すると医療機関の窓口では、医療費を全額負担しなくてはなりません。領収書を持って役所へ行けば、数か月後に保険給付分(7~9割)は戻るのですが、実質的に「無保険状態」です。体の調子が悪くても、なかなか医療にかかれなくなります。

 滞納が1年半を過ぎたら、保険給付差し止めになることがあり、保険料を納めないかぎり、後からの保険給付も行われません(あるいは給付するときに滞納保険料を差し引く)。

 昨年6月時点で、短期保険証は114万世帯、資格証明書は26万5000世帯でした。

ありのままを伝え、特別の事情を認めてもらう

 「督促状」「特別の事情の届け出書」「弁明の機会の付与」などの書類が届いたら、ありのままを自治体の担当者に説明して、相談することです。

 国保料は前年の所得をもとに計算するもので、自治体は「現在の生活状況」を把握していません。失業・退職・休廃業・営業不振・病気・死亡などで収入や出費の状況が変わったり、災害や犯罪の被害を受けたりしたときは、申請によって納めるべき保険料が減免されることがあります。減免制度は自治体によって差があり、収入の急減のない低所得世帯も減額の対象にしている自治体もあります。延滞金の減免も申請できます。

 減免にならなくても「特別の事情」と認められれば、資格証明書の適用除外になり、保険証を取り上げられずに済みます。保険料の納付の猶予、分割払いなどの方法もあります。

 「特別の事情」として挙げられているのは、次のような場合です。

・災害、火災、盗難で損害を受けた
・病気またはけがをした
・事業の休廃止や著しい損失を受けた
・以上に類する事由があった

 具体的な判断は自治体にまかされています。保険証の取り上げは本来、悪質な滞納者が対象ですから、しかたのない事情なら、しっかり説明しましょう。

 本人が気力・体力の低下や、知的能力の問題、精神的な問題を抱えていて、督促に対応できないこともあります。自治体側は機械的に手続きを進めるのではなく、実情をよく把握して、必要なら福祉的な支援をするべきでしょう。

高校生以下の子ども、公費負担医療の患者は、保険証を取り上げない

 親が滞納して資格証明書になっても、高校生の年代以下(18歳になった年度の3月末まで)の子どもは資格証明書に切り替えず、6か月以上有効な短期保険証にとどめることになっています。資格証明書への切り替えによって無保険状態になった子どもが多数いることが問題になり、法改正が行われたからです。

 公費負担のある医療を受けている人や、高額長期疾病(人工透析・血友病・HIV感染)の制度が適用されている患者も、資格証明書発行の対象外です。つまり保険証の取り上げは行われません。ここでいう公費負担医療は次のようなものです。

 障害者の自立支援医療・療養介護、難病医療、母子保健法による養育医療、児童福祉法による小児慢性特定疾病・療育・障害児医療、被爆者医療、精神障害・麻薬中毒・感染症による措置入院、予防接種被害、医薬品副作用被害、生物由来製品感染被害、石綿健康被害、B型肝炎医療など

法的な対処を考えるべきケースも

 滞納が続くと、保険証の扱いとは別に、預貯金、不動産、動産などの差し押さえを受けることがあります。国税徴収法のルールに沿って自治体が行う滞納処分で、一般の民事執行よりも強力です。

 ただし財産状況をよく調べてから行う必要があります。生活必需品、生業や学習に欠かせない物、給料のうち一定の生活費、生活保障・援護のための公的給付、災害等の補償など、差し押さえが禁止されているものもあります。自治体が行き過ぎた差し押さえをするケースもあるようです。

 一方、差し押さえを免れるために財産を隠したりすると、滞納処分免脱という犯罪になるので、やってはいけません。

 保険証の取り上げや差し押さえに不服があれば、審査請求や行政訴訟で争うことができます。

 滞納から抜け出すには、滞納の原因を解決することも大切です。

 収入・資産が生活保護の基準を下回っているなら、生活保護を受けるのも手段になります。

 収入があっても、借金をたくさん抱えていて保険料に回せない場合は、法的な債務整理を考えるべきです。ギャンブル依存症のせいなら、並行して依存症の治療支援も欠かせません。

 法的な対処は、弁護士か司法書士に頼まないと困難です。費用がかさむと思い込んでいる人が多いのですが、経済力のない人には法律扶助の制度があります。知り合いの法律家がいなければ、生活困窮者の支援団体などから紹介してもらってもいいし、公的な法的支援窓口として設けられている「法テラス」(0570・078・374)に相談する方法もあります。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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