文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

いのちに優しく いまづ医師漢方ブログ

yomiDr.記事アーカイブ

初午で思う風習の大切さ…科学の分野も同じ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 初午はつうまは、2月の最初の午の日のことをいいます。今年2015年は、2月11日が初午にあたります。春の農事を始める前の豊年祈願の祭りの意味があったと言われています。京都の伏見稲荷大社の神が降りてきたのが2月の最初の午の日だったことから、稲荷神社や稲荷のほこらで祭礼が行われ、神棚に、油揚げや団子を供えて祈願します。

 初午には春団子を作る習慣があったことが、1939年(昭和14年)に、柳田国男がまとめた「歳時習俗語彙ごい」に書かれています。この本には、地方によって初午の祝い方が違っていたことも書かれています。例えば、飛騨の高山では、初午の日には、お茶を飲まないという慣習があり、肥前では大麦、小麦、稲わら、木炭、髪の毛など七種を紙に包んで、川へ流すと髪の毛がよく伸びるという言い習わしがあったそうです。

 では、稲荷神社ときつねは、どうやって結びついたのでしょう。

 農耕や食物をつかさど倉稲魂命うかのみたまのみことまつったものが、稲荷神社と言われています。稲荷神社は、農家の豊穣を祈る神様で、都市では商売繁盛の神様として信仰を集めています。

 倉稲魂命は、大宜都比売神おおけつひめのかみとも言われます。大宜都比売神の「けつ」から「御尻みけつ」、そして「三狐みけつ」となり、「大狐姫おおけつひめ」の字をあてたことから、稲荷神社と狐が結びついたと考えられています。狐は油揚げが好物だということから、油揚げを使った寿司すしが、いなり寿司となりました。

 各家庭で、いなり寿司の作り方はいろいろあると思いますが、東日本と西日本では、いなり寿司の形が違うそうです。東日本では米俵の形、西日本では狐の耳に似せた三角だそうです。そんな中で、わたしがいつも美味おいしくいただくいなり寿司は、油揚げが裏返してあります。裏返しのいなり寿司は、1875年(明治8年)から続く老舗寿司屋「おつな寿司」のオリジナルだそうです。創業以来、つぎ足して使われている秘伝の汁で炊きあげた油揚げは、酢飯との絶妙なハーモニーです。裏返しいなり寿司は、いくらでも食べられます。みなさんも、ぜひ、一度、味わってみてくださいね。

 わたしは、初午のような昔からの習わしを大切にして、日々を過ごしていきたいと思います。忙しい毎日の中では、どうしても忘れがちになっている習慣や言い伝えなど、ひとつひとつ、立ち止まって考えてみるのもいいかもしれません。みなさんはいかがでしょうか。

 わたしが学んだ外科学は、近代科学の集まりでした。しかし、手術の時は、先輩から教えていただいた心構えを大切にし、手ほどきを受けた手順をひとつひとつ守っていました。先輩たちの経験と知恵には、科学的理論ではなく、習慣や言い伝えに近いものもありました。しかし、その経験と知恵に助けられたことは一度ではなく、わたしにとっての財産になっています。

 同じように、漢方医学にも、現代科学では解読できないことがあります。しかし、それはこれからの科学が証明してくれると信じています。その日が来るまで、わたしは、漢方医学も大切に守っていく必要があると思っています。

 立春がすぎ、もうそこまで春がやってきています。どうか、みなさんも寒さに負けないように、いなり寿司を食べてからだを大切に過ごしましょう。みなさんが元気で健康な毎日をお過ごしになりますように、心からお祈りしています。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

いまづ医師の漢方ブログ_顔120

今津嘉宏(いまづ よしひろ)

芝大門いまづクリニック(東京都港区)院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。

日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

いのちに優しく いまづ医師漢方ブログの一覧を見る

1件 のコメント

稲荷は高価な食べ物でした

埼玉のシニア

山形の貧乏田舎で育った私には、子供の頃いなり寿司を食べた経験がありません。油揚げが買えないほど生活が緊迫していたのかと想像します。子だくさんでし...

山形の貧乏田舎で育った私には、子供の頃いなり寿司を食べた経験がありません。油揚げが買えないほど生活が緊迫していたのかと想像します。子だくさんでしたから。

なので、あまり食べたいと思った事がありませんが、笠間稲荷の稲荷寿司は本当に上手いのです。東京でも食べましたが、味が違います。甘く、ジューシイーで、大きさも手ごろで、私にはクールな発見でした。

食べ物は、同じ名前の物でも土地により違いますし、その土地の空気がなせるものか、とも思いますが、東京ではスモッグと一緒に食べているみたいで、オブラートに包まれた食べ物のような気がします。

子供の頃東京から来た親戚の子供が、水を飲むのに「水道はどこ」、と聞いていましたが、私には井戸水で育っていましたから、どこが汚いのかと不思議に思いました。もう、70年も前の事です。

寿司はやはりお酢の効いたものが、矢張り私には有っていますね。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

最新記事