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こころ元気塾

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蛭子能収さん(2)「その『絆』、必要ですか?」

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 ――震災後、絆の大事さが強調されましたね。

 「『絆』とか言われて、寄付も何度もやった覚えがあります。でも、みんなが寄付したお金が、誰のために、どう使われたのかは全然わからない。そこが報道されないのはいつもすごく疑問に思います。赤十字などにはいっぱい集まったと金額は出ているのかもしれない。でもどんな人がどう助かったのかわからない。それって本当につながっているのかな、絆ができたのかなととても疑問に思います」


 ――そうかもしれません。しかし一方で、家族や家を失った人が、近所の人や支援に行った人に助けられたということもたくさんありました。一人ではないことで助かった人や励まされた人がいましたよね。

 「命が大変な時に助けないということはおかしいことで、いくら他人同士であっても、人命が危うくなったり、困ったりしていたら助けるべきですよね。でもそれと、普段の友達とかつながりとかは別だと思います。大変な時に助け合うというのは、わざわざ強調しなくても、人間なら普通にやるべきことですよね? なにも声高に絆とか強調しなくても…。そういうこと言われると、こっぱずかしくなっちゃって、かえってそういうのに関わるのは恥ずかしいよ、という人もいると思うんですよ。個人的に少し寄付したからもういいよとか。キャンペーンとしてそういうふうにやるのは恥ずかしいなという気持ちが俺にはありますね」


 ――圧力を感じました?

 「圧力だとは思いませんが、それに俺は乗っからない。でも、それに乗っからないからと言って、批判を浴びることはないと思うのですが、震災に限らず、そういうキャンペーンに乗っからない人を、『日本人としてどうか』『協調性がない』『もう少しお前なんとかしろよ』と価値観を押しつけてくる人はいると思います」


 ――絆とかつながりとか強調されすぎて、最近それに疲れちゃったよ、という揺り戻しが起きているようです。蛭子さんに続いて、孤独とか一人でいることを見直す新書が続々出ていますし。つながりに疲れを感じていた人は蛭子さんの本を見て、ほっとしたみたいですね。

 「いや、そんなに影響力はないと思いますよ」


 ――なんでこれほど受けているのだと思いますか?

 「受けているかどうか…。感想も言われないし…。値段が良かったんじゃないですかね。1000円でお釣りが来るし。ポケットにも入るかも。いや、入らないか(笑)」


 ――ところで、「一人がいい」と書かれていても、「良い孤独」と「悪い孤独」があるとおっしゃられて、悪い孤独は自身をむしばむともおっしゃっています。自身の前の奥さんを亡くされたことに触れられていますね。

 「いくら孤独がいいと言っても、家族は必要だと思っているんです。だから家族ありきのひとりぼっちを笑うな、です。家族というのはその人が何をしても許されるというような存在であって、でもその中でも家族のルールはあるので、それを守りつつということですかね。家族は俺にとって安心してひとりぼっちでいるために必要なんです。嫁さんを亡くしたのはすごく悲しかったですよ。一度も結婚したことがなければそこまで寂しく思わないかもしれないけれど、一度結婚するとそれを亡くすのはとても寂しく思いますよ。本当に。家で寝ていても寝られないほど寂しくて。もうとにかく女だったら誰でもいいから、一緒になってくれないかなと思うぐらいでした」


 ――そういう孤独は人をむしばむんですね。

 「そうですね。だから、慌てて次の嫁さんを探したんですけれども。まあ人それぞれ、考え方があると思いますが、俺はそれで良かったと思っているんですよ」


 ――ただ、今一生結婚しない人も増えているので、家族ありきと言われるとつらいこともあるかもしれないですね。

 「ああそうですね。家族を作れない理由は色々あると思いますが、とにかく必死に探せば、見つかると思うんです。おれもものすごく必死に探したんです。見境なく(笑)。そしたら色々な人に断られますけれども、中には何人か一緒になってくれる人がいるので、妥協する。いや妥協って言ったらだめだなあ(笑)。あの後妻業とか、ああいう人たちに捕まらないようにしないとだめですね。あの結婚してはじいさんが全部死んじゃった事件あったじゃないですか。それはちょっと用心したほうがいいですね」


 ――だから全くのひとりぼっちを勧めているわけではないんですね?

 「自分と同じ趣味の人で気楽につきあえる人がいたら、そういう人と付き合えばいいし、気楽っていうのはその人が何かしようと言っても、断っても怒らない人ですよね。家族がいない人も、結婚できない人もいますよね。俺はたまたま芸能人とかしていると、やっぱり見つかりやすいんですよ。普通の老人だったら、なかなか見つからないと思いますけれども、その人たちも好きなことが何かしらあるはずです。例えば、マージャン好きならマージャンでもいいですけれども、結構女性の人もいるんですよ。そういうところで知り合うこともできるし、そこに行くだけでも寂しさを解消できる。その人たちもたぶん、旦那を失った人ですよ。互いに連れ合いを失った人同士が、今度一度ご飯にでも行こうとデートして、一緒にまたマージャン行ったり、そういう発展の仕方もあるかもしれないですよね。競艇は一人一人バラバラでいるから難しいかも。マージャンは4人ずつ必ずいるからすごく親しくなりやすいですよ。俺も一人になったら、用賀のマージャン荘に入り浸ろうと思っているんですよ」


 ――そんな、せっかく再婚されたのに、もう一人になった時の計画を(笑)。

 「あそこに行ったら寂しくないなってね(笑)」

続く

蛭子能収(えびす・よしかず)さん

 1947年、長崎県生まれ。ちりがみ交換、会社員などを経て、33歳で漫画家デビュー。タレントとしてもテレビ番組「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」(テレビ東京)などで活躍中。

 
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