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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

「早期からの緩和ケア」が受けられない実態

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 ある方からのメッセージを紹介します。Kさんです。

 Kさんは40代で、進行がんと向き合われています。

 全国的には医療者が不足し、緩和ケアへのアクセスが非常に困難な地域が少なくありませんが、Kさんの過ごされている地域、県が相対的には緩和ケアの先進県であることに注意が必要です。そのような県でも、下のような現状があるということを今一度皆さんに知って頂きたいと思います。

 大津先生からすると耳の痛い話題かもしれません。

 自身も緩和ケアにかかれないかと、現在通院中の病院(がん診療連携拠点病院に指定されています)でも何度か話はしてみましたが……やはり終末期がメインで行われているようです。

 住んでいるX市には、他にも緩和ケアを行っている病院がありますが、問い合わせをしたところハッキリと終末期のみとは言いませんが断られました。

 自分の近くには、他にも緩和ケアを行っている病院はあるのですが(他の地域より多いと思います)、2件断られた時点で諦めの気持ちが強くなりました。

 現在の抗がん剤も来年には使えなくなりそうです。

 そうなると終末期での緩和ケアを視野に入れて考えなくてはならないのではと思っています。

 現状では治療初期からの緩和ケアは病院によってはハードルが高いのかもしれません。

 自分の世代では初期からの(抗がん剤治療中でも)緩和ケアは難しそうですが、どうか緩和ケアに携わる先生方が積極的に情報を発信していただき、緩和ケアに関する意識を変えて頂けたらと思います。そして自分の子供の世代には、がん=抗がん剤=緩和ケアで、がんは怖くない病気になっていることを願います。


 平成24年に出されたがん対策推進基本計画にて、重点的に取り組むべき課題として4つ挙げられています。

放射線療法、化学療法、手術療法の更なる充実とこれらを専門的に行う医療従事者の育成

がんと診断された時からの緩和ケアの推進

がん登録の推進

働く世代や小児へのがん対策の充実



 そして概要が記載された文書には、下の全人的苦痛を表現した図が掲載されています。



 苦痛が「身体的苦痛」だけではないことが明示された図です。

 緩和ケアの専門家の数は少なく、すべてのがんの方にがんと診断された時からの緩和ケアを緩和ケアの専門家のみですのは不可能であり、だからこそすべてのがん診療に携わる医師が基本的緩和ケア(一次緩和ケア)を実践し、それでも苦痛緩和が不十分ならば専門家に紹介する(専門的緩和ケア)というのが現実的な解であり、少しずつその構築が進んでいるという状況です。

 上記の概要に記されている考えに照らし合わせてみると、非常に残念なことですが、

 「まだ緩和ケアをする時期ではないので、受診できない」
 「身体の苦痛がないので、受診できない」
 「気持ちの問題がメインならば緩和ケアでは対応できない」

 などの理由で、緩和ケア外来の受診を断られてしまったという嘆きが、私のもとにはよく届きます。がん診療の要となる病院である、がん診療連携拠点病院にかかっている方の中にもそのような方がいらっしゃいます。

 しかし、「まだ緩和ケアをする時期ではないので、受診できない」という言葉は、基本的にはありません

 なぜならば「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」と国全体の重点課題に挙げられているからです。緩和ケアをする時期とかしない時期とかはなく、基本的に全期間にわたって緩和ケアは為されねばなりません。

 一次緩和ケアで全期間にわたって支え、難しいケースは遅滞なく専門的緩和ケアで支える、というのが正確な表現になるでしょう。

 またがん診療連携拠点病院や中~大規模の病院にて稼働している「緩和ケアチーム」には、精神科医が配置されるようになっています。従って、がんを患っていらっしゃる方の不安や病気との心理的向き合い方などの気持ちの問題が一次緩和ケアでも改善されなければ、緩和ケア外来にて身体症状担当の緩和ケア医もしくは精神症状担当の医師(上述の精神科医等)により対応されなければならないと考えます。

 したがって

 「身体の苦痛がないので、受診できない」
 「心の問題がメインならば緩和ケアでは対応できない」

 という言葉もふさわしい言葉とは言えないでしょう。

 身体の苦痛のみならず、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインにも緩和へのアプローチがされることが必要です。

 Kさんからのメッセージの、「自分の子供の世代には、がん=抗がん剤=緩和ケアで、がんは怖くない病気になっていることを願います」

 という言葉に、私は心を打たれました。

 本当にその通りです。

 より奏効するがん治療薬が使用できるようになり、そして抗がん剤治療中でも、もちろんがんならばすべて、イコール緩和ケアとなること、それが未来の世代にはどうか与えられてほしい、Kさんの思いはそこにあります。

 Kさんは治療中であり、がんと真剣に向き合っていらっしゃいます。

 そのような方々の気持ちをも早期から支えられることができる、QOL(生活の質)を改善するアプローチが全期間において為される、絵に描いた餅ではない「早期からの緩和ケア」が求められていると改めて思いました。

 このコラムをご覧の皆さんは、緩和ケアが終末期医療と同義語ではないことはよくご存じだと思います。どうか皆さんの周囲に正しい情報を提供することに、お力をお貸しいただきたくお願い申し上げます。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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