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りんくう総合医療センター 感染症対応

深化する医療

(上)エボラ疑い 懸命の封じ込め

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 世界で最も影響力を発揮した人物を紹介する米誌タイムの「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」。2014年は、自らの危険を顧みず、アフリカでエボラ出血熱の治療に尽力する医療関係者らが選ばれた。

 患者が出ていない日本にも、エボラなどの危険な感染症に、常に臨戦態勢で対峙たいじする医師や看護師たちがいる。その拠点の一つが、関西空港の対岸にある「りんくう総合医療センター」(大阪府泉佐野市)だ。

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エボラ出血熱の疑いのある患者を受け入れた時のことを防護服姿で説明する倭(やまと)さん(りんくう総合医療センターで、守屋由子撮影)

 昨年11月7日夕。ドバイからの便で関空に降り立ったギニア国籍の20歳代女性に、38・3度~37度台前半の発熱が確認された。女性はその前日、エボラ流行地のギニアを出国していた。

 「エボラ疑いの患者が出たので用意をお願いします」。感染症センター長のやまと正也(48)に、関空検疫所から連絡があったのは午後5時15分。すぐに医師や看護師、検査技師、事務方など約30人を集め、患者の受け入れ態勢を整えた。

 手術衣の上に、原発事故の復旧作業でも用いられる全身つなぎ服「タイベック」と、足元まで覆う感染防止用ガウンを重ねて着用。頭部は清浄な空気を送る電動ファン付きの防護具をかぶり、3重の手袋と長靴で手足を防護するフル装備で臨んだ。

 午後9時5分。全体を透明ビニールで密封した感染症患者用の特殊な車いすで女性が運ばれてきた。

 りんくうセンター4階の感染症病棟(計10床)に至る出入り口やエレベーター、通路は、すべて一般患者用とは別だ。通路には4重の扉が設けられ、病棟内は空気が外部に出ないよう、気圧を低くしてある。

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 女性が入ったのは、最も厳重な感染症対策を施した「高度安全病室」だ。倭は、看護師と検査技師ら計5人でチームを組み、検温や血圧測定、採血、胸部レントゲン撮影などを行った。

 「一番緊張したのは採血だった」。血液は直接的な感染源になる。針刺し事故で医療者が感染する危険もあるため、主治医の倭自らが行った。「3重の手袋で血管の位置が分かりにくかったが、何度も訓練していたので平常心を維持できた」と振り返る。

 エボラウイルスの有無を解析するため、血液を国立感染症研究所(東京都)に送る準備をすると同時に、マラリアとインフルエンザの簡易検査を実施。これらの感染症の初期症状は発熱や悪寒で、見分けがつきにくい。「それだけに簡易検査は重要。うちにはエボラとの区別に必要な簡易検査キットがすべてそろっている」と話す。

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 午後11時15分。マラリアの簡易検査は「陽性」と出た。

 「マラリアだと国が発表し、世間は一息ついたようだが、全く安心できなかった」。マラリアとエボラの両方に感染した恐れもあるからだ。現地では重複感染も多く、米国で治療を受けた患者でも同様の例がある。

 女性にマラリア治療薬を投与すると、翌朝には熱が下がった。もし重複感染なら熱は下がらない――。徹夜で朝を迎えた倭は、その時初めて少しほっとした。

 女性の血液を解析していた感染研から「エボラ陰性」の連絡があったのは、翌日の昼過ぎだった。

 女性は、マラリアの中でも特に症状が重い「熱帯熱マラリア」だったが、感染初期に治療を始める形となったため、回復も早かった。入院から丸2日たった9日午後9時30分、女性は退院した。厳重な監視下におき、女性に極度の緊張を強いたことが気になっていた。「大変なご苦労をおかけした。隔離状況でよく頑張ってくださった」と話しかけると、ニコリと笑ってくれたという。

 「中東では飛沫ひまつ感染するMERS(中東呼吸器症候群)が流行し、ついこの間、マダガスカルでペストが出た。エボラばかりに固執しないよう警戒している」

 世界中の渡航者が行き交う24時間空港に、いつどこから持ち込まれるか分からない感染症。倭の視線は全世界に向けられている。(敬称略、萩原隆史)

最高レベル機関 3施設のみ 

 感染症法では、細菌やウイルスなどの病原体が引き起こす病気を、感染力や重篤性などに応じて1類~5類に分類している。未知の感染症は「新感染症」として、厳重な対応を取る。

 新感染症に対応できるのは、最高レベルの封じ込め対策を講じた「特定感染症指定医療機関」の国立国際医療研究センター病院(東京都)、成田赤十字病院(千葉県)、りんくう総合医療センターの3施設だけ。

 1類のエボラ出血熱は「特定」に次ぐ「第1種」(45施設)でも対応可能だが、りんくうセンターによると、「日本にとっては新しい感染症のため、『特定』施設の責務は重要だ」という。

 エボラ疑いの患者が入った同センターの高度安全病室(2床、各15平方メートル)は、3重フィルターと殺菌用の紫外線照射器を備えた排気設備、高圧蒸気で滅菌する排水設備を設置。血液分析などを行える検査室が隣接するほか、撮影画像を無線送信できるレントゲン装置を導入するなど、外部との接触を最小限に抑える工夫が施されている。

 

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