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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

近藤誠さんが流行る深層(終)医療にも地道な相互理解・思いやりが大切

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 今年最後の更新になりました。

 近藤誠さんが流行はやる深層をこれまで論じてきました。

 これが最終回になります。

 近藤さんが流行った原因の補足と対策の後半です。


【補足と対策】

★世代間による情報入手経路の格差

 インターネットを使える世代と、紙媒体やテレビが中心の世代の格差も感じました。

 この記事も始め、近藤さんの言説の誤りを指摘するものがインターネットには豊富にあります。一方で、紙媒体やテレビはそうでもありません。書店では勢いのある極論本が優勢です。

 講演に行くと、主に年配の方から、「近藤さんの論は正しいのか?」と尋ねられます。反対する意見を聞いたことがないという方もいらっしゃいました。それだけ近藤さんの本や近藤さんを扱う情報の「量が多い」ということでもあります。インターネットの情報も、もっとそれにアクセスしない世代にも届くと良いということを感じました。しかしどの媒体でも怪しい情報は飛び交っていますから、ヨミドクターのような信頼性のおけるメディア等を中心に情報を収集し、また本しか読まない方にもこのようなサイトの情報をコピーして手渡しするなどの方法があるでしょう。


★「説得力」がくせもの

 医療になかなか満足が得られにくいのは、医師や製薬会社が悪いなどと単純、単一の原因にらないことをこれまでお伝えしてきました。

 一つの事象を、なるべくありのままに描こうとするとかくのごとく、文章は長くなり、読解する側も大変です。近藤さんの文章は、自身の結論に合致する論文を一つ探して来て、あるいは加工して、結論を導くものですから、わかりやすくて当然で、一方で反論する側はその誤りを指摘するために文章が長くなりがちです。

 近藤さんを支持されている方は、しばしば近藤さんの文章の説得力を超えるものがないとおっしゃいますが、説得力と正しさは別問題です。説得力が非常にある間違った言説もあります。あるいは説得力があっても中身が乏しいことがあります。

 「単純化」「善悪論」「陰謀論」は、説得力自体は高いことが多いのです。だから例えば、演説でも多用されます。わかりやすく、感情を刺激し、答えをはっきり指し示してもらえることですっきりとします。

 ただ、その「単純化」「善悪論」「陰謀論」が要注意なことはこれまで警鐘を鳴らしてきた通りです。


【おわりに】

 最近、近藤さん自身にも、医療不信・医師不信の気持ちが強すぎて、本来効果がありそうなもの、信じても良さそうなものにまで、批判を加えていることを、直近の子宮けいがん検診の話や強すぎる表現・言葉に感じております。

 極論がゆえに、冷静かつ良識的な医師まで反発し、それがご自身の医師への否定的な思いを強めているという悪循環の側面はないでしょうか。患者さんもそうですが、不信の気持ちが強すぎれば、判断が極端に振れ、結局その方の生活の質が下がってしまうことがあります。近藤さんのできるお仕事は、効果があることや、信頼のおける医師まで旺盛に否定することではないはずです。不信を必要以上にかき立てることではないはずです。

 これからの医療現場には、これまで見てきた通り、思いやりが必要になります。お互いの立場を理解しなければ、現状の構造のもとに互いへの不信が募り、誰もが幸せになりません。近藤さんが強めた、しばしば過当な医師・医療不信の言説は、それに感応して舌鋒ぜっぽうを強める支持者と、それに遺憾の意を唱えて語気が強くなりがちな医療者の、厳しい攻撃的な言葉を生み出しました。

 過激な言語表現や極論を用いて、絶え間ない攻撃の起点となる近藤さんのそこが最大の問題点の一つであると私は考えています。「単純化」「善悪論」「陰謀論」は、人の攻撃性をかき立て、誰かを悪者にして、その誰かが倒れることで問題が解決されるとの幻想を人に植えつけます。その先に待っているのは、闘いだらけで誰も救われない世界です。

 近藤さんに限らず「単純化」「善悪論」「陰謀論」の使い手はいますし、これからも同様に、メディアの力を借りて、複雑なことをわかったようにさせたり、「あの存在が悪いのだ」とささやく人が出て来るかもしれません。その誘いに屈しないことが重要であり続けるでしょう。

 未来の医療現場を良くするのは激しい応酬よりも、相互理解とそのための良質なコミュニケーションにあります。その点で、冷静に見守り行動してくださる一般の皆さんのお力は引き続き重要なものであり続けると思います。


 医療現場は変わっていっています。

 少しずつ、良いものは良い、良くないものは良くないと、冷静に判断する環境は、まだ不十分ですが、育っていることを感じます。

 これからの医療は、患者さんやご家族、医師や医療者が、それぞれの立場がゆえになかなか理解しがたい点もあるところを、「理解し合える」との気持ちのもとに、忍耐深く相互理解を深めてゆく必要があります。そして現実問題、患者さんやご家族の動きやご助力もなければ、とりわけがん医療や終末期医療においては「望むような医療」「満足する医療」など難しい状況にあります。

 不信をあおっても、多くの人は幸せになれません。負の感情にとらわれず、「人は他者を理解することは真に大変なことだ」との認識のもと、これからの医療が忍耐深い各立場の努力のもとに育まれていくことを願いながら本稿の筆を置きたいと思います。

 長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。



 今年もお読みくださりありがとうございました。

 年末年始はご家族とゆっくりお過ごしください。そしてせっかくの機会ですから、来し方行く末をよく話し合って頂ければと思います。

 来年もよろしくお願いいたします。良いお年を。失礼します。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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