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群馬大病院 術後死…手術申請、医師任せ

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倫理審査なし 組織チェック、不能

 

腹腔鏡手術問題で、改善策について記者会見をする群馬大学病院の野島美久病院長(右)と永井弥生・医療安全管理部長(19日午前、前橋市の群馬大学で)=松田賢一撮影

 群馬大学病院(前橋市)で、腹腔鏡ふくくうきょうを使う高難度の肝臓手術を受けた患者8人が死亡した。一般的に広く行われている開腹手術でも多くの死者を出しながら、必要な倫理審査も死亡例の検証もなしに続けられた先進的な手術。

 なぜ、もっと早く止めることができなかったのか。患者への説明が不十分だったこともわかっており、倫理面の課題が浮き彫りになった。

■問題意識の欠如

 

 「執刀医には、死亡事例を検証すべきだという認識がなかったんじゃないか」

 群馬大病院が今月19日に開いた記者会見。野島美久よしひさ・病院長は、第二外科(消化器外科)が患者8人の死後、経過の問題点を検証する死亡症例検討会を一度も開いていなかった背景についてそう説明した。診療科のトップである教授にさえ問題意識はなく、病院の聞き取りに対して「判断が甘かった。検討会をやるべきだった」と話しているという。

 死亡症例検討会は、手術や治療の後に患者が死亡した場合、診療科の医師らが問題点を検証して次の治療に生かすもので、大学病院などでは行うのが基本だ。群馬大病院は「8人のケースは詳細に検証すべきだった」との認識を示した。

 同科の腹腔鏡手術を巡っては、2010~14年に手術を受けた92人中58人が保険適用外の高難度手術で、うち8人が死亡。8人の手術はいずれも同じ助教が執刀した。手術と死亡の因果関係は不明だが、病院側は、8人の手術で、肝機能が手術に耐えられるか調べる術前検査が行われず、患者へのインフォームド・コンセント(説明と同意)も不十分と認めた。

■開腹の教訓生きず

 

 同科では、それ以前から行っていた肝臓の開腹手術でも、過去5年間に手術を受けた84人中、この助教が執刀した10人が死亡していたことが新たに分かった。うち5人が、腹腔鏡手術が導入される直前の09年度中に亡くなっている。にもかかわらず、同科は新しい高難度手術に手を広げることを許した。診療科として、問題点をチェックする機能がなかったことになる。

 腹腔鏡手術の死亡患者8人が受けたのは、有効性や安全性が十分確認されていない手術。本来、事前に病院の倫理審査委員会で承認を受ける必要があったが、審査の申請はなかった。

 倫理審査委員会は、新しい医学研究や医療行為が倫理的に問題ないかチェックする機関で、名称や形態は様々だが、全国の大学病院に設置されている。ただ、申請は医師や診療科の判断次第で、「きちんと申請してくれないと、病院は把握できない」(野島病院長)というのが実情だ。

 さらに、群馬大病院には、事故など医療行為の中で発生した問題事例を安全管理部門に報告するシステムもある。しかし報告はなく、病院が問題に気づいたのは今年6月。8人が亡くなるまで不適切な手術が漫然と繰り返された。結局、当事者の認識が甘ければ、組織もノーチェックとなり、患者は知らぬ間にリスクにさらされていた。

■改善策も未知数

 

 病院は、倫理審査委員会の審査対象を明確化するなどの改善策を打ち出しているが、申請は医師の考え方次第という面は残り、実効性は未知数だ。

 同様の問題は今年4月、千葉県がんセンターでも発覚した。腹腔鏡を使う膵臓すいぞうなどの高難度の手術が倫理審査や十分な説明なしに行われ、患者が相次ぎ死亡した。現在、この件を調査している第三者の検証委員会でも、倫理面の課題が議論されているという。

 検証委の会長を務める多田羅浩三・大阪大名誉教授(公衆衛生学)は「医学は新しいことへの挑戦により進歩してきた。しかし、患者にリスクを押しつけることがあってはならない。丁寧なインフォームド・コンセントはもちろん、患者は常に弱い立場にあるという認識のもとに、別の医師の意見を聞くセカンドオピニオンの制度化など、患者の安心を保障する仕組みが必要だ」と指摘している。(医療部 高梨ゆき子、前橋支局 鈴木希)

 

遺族「腹腔鏡の説明 利点だけ」…リスク低いと認識

 

 世界医師会が1981年に採択した患者の権利に関する「リスボン宣言」は、「患者は自分自身の決定を行ううえで必要とされる情報を得る権利を有する」としている。

 しかし、群馬大病院の問題では、遺族の証言や残された文書からも、インフォームド・コンセントがおざなりだったことが明らかになった。

 胆管がんで手術を受けた男性の同意書には、手術日と手術名のほか、合併症として「出血」「胆汁漏」「縫合不全」など名称が列挙されているだけ。合併症の頻度や死亡率といったデータの記載はなかった。

 遺族によると、手術の説明は1~2時間かけて行われた。「傷が小さく回復が早い」と、体に負担の少ない腹腔鏡手術のメリットが語られた一方で、「デメリットは聞かなかった。反対に、開腹手術のデメリットは話していました。傷が治るまで大変ですよって」と男性の妻(60)は振り返る。

 この男性が受けたのは、肝臓の左半分を切り取るのと同時に、胆管を切除し、小腸とつなぎ合わせる手術。肝臓手術に詳しい外科医は「開腹でも難しい手術で、完全に腹腔鏡手術で行うのは技術的にかなり難易度が高い」と話す。しかし遺族は、「傷が小さく体に負担が少ない」という説明から、「リスクの低い手術」と受け取っていた。

 ほかにも、「腹腔鏡手術以外に方法はないのかと思っていた」と話す遺族や、手術が腹腔鏡を使ったものかどうかさえ明確な認識がないという遺族もいた。(前橋支局 上村健太)

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