文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

ダイエットの達人・ドクター川村のスマート健康塾

yomiDr.記事アーカイブ

なぜ顔が動かない…顔面神経麻痺の恐怖

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 医学部5年の時、体に異変を感じました。

 夕食を食べた後、1時間ほどしてから、熱いものを飲んだ時のような舌の違和感が出現し、少し時間がたつと右目だけ涙が少し出てくるようになり、ビリビリするような頬の違和感が出てきました。

 そのうちまぶたを閉じにくくなり、抜歯の際の麻酔がかかったような違和感が出てきて、顔の筋肉を動かしにくくなってきました。

 これは顔面神経麻痺まひだと思い、「なんで自分に」「顔面神経麻痺が出てくる病気には何があるのか?」と考えながら教科書を調べてみると、下記のように書かれていました。

顔面神経麻痺:Facial nerve palsy
 顔面神経は種々の原因により障害される。顔面神経の 末梢まっしょうは解剖学的に表面近くに存在するので、圧迫、外傷により障害されやすい。頭蓋内においては、脳幹部腫瘍、動脈りゅう、髄膜炎、白血病、骨髄炎、帯状疱疹ほうしん、Paget病、骨肉腫、炎症性神経炎、ライなどで麻痺をきたす。これらに対し、原因不明で末梢性顔面神経麻痺のみをきたすものをBell麻痺と呼ぶ。(中山書店:内科学書 新訂第三版)



 翌日に神経内科を受診してよく見てもらうことにしようと布団に入ったのですが、頭の中をよぎるのは、悪い原因疾患ばかりで、結局満足に眠れませんでした。

 神経内科を受診したところ、「末梢性の顔面神経麻痺は神経内科ではなく、うちの病院は耳鼻咽喉科で見てもらっているので、そちらを受診して」と指示され、涙の分泌過多や舌の味覚障害については、「どうして出てきたのですか?」と質問しても、答えてもらえませんでした。その上、神経学的な診察をしたのみで、CT検査などの詳しい検査の指示はありませんでした。

 しかし、この対応について、「悪い病気の可能性はほとんどないのだ」と、なぜか安心しました。

 耳鼻咽喉科でもらった抗炎症剤で喘息ぜんそく発作となり、1週間ほど入院したことは、以前に「私も喘息発作に注意してます」で書きましたが、この時には顔面神経麻痺もあって精神的につらい状況でした。

 一緒に住んでいる妹からは、「笑い声が聞こえるけれど、顔を見ると全然笑っていない。マジンガーZに出てくるアシュラ男爵の様だ」と言われました。

 筋肉を動かす運動神経が障害され、その支配がなくなると、筋肉は弛緩しかんしたままになり、その状態が長く続くと、筋肉に萎縮や固縮が生じてきて、筋肉を動かすことがより困難となってきます。できるだけ早期からリハビリテーションを行い、運動神経の再生と、再生した運動神経の命令が、筋肉に間違いなく届くようにし、その指令に従って、筋肉が動くようにするリハビリテーションが必要になります。

 神経の再生をスムーズに行うためには、規則正しい生活と十分な睡眠、偏りのない食生活だけでなく、神経にダメージを与えるアルコールやたばこを断つことが必要です。

 さらに、再生してきた運動神経の命令にうまく筋肉が従うようにするためのリハビリが重要になってきます。

 バイオフィードバック療法という訓練方法があります。血圧・心拍数・筋肉の緊張度などの生理機能を測定し、その測定値を音や画像などの情報に変換して本人に自覚させることにより、その時の自分の心や身体の状態を、よりはっきり自覚して自分の意志で制御していこうとする技法のことです。顔面神経麻痺の場合のバイオフィードバック療法は、麻痺して動かない顔面筋に対して、電気刺激や手を使って動かし、あたかも、頭からの指令に沿って動いているように自分自身に思い込ませる方法です。

 この訓練方法を始めて1週間ぐらいで、顔面の筋肉が動いたような気がしました。あわてて鏡をのぞきこんでみましたが、全然動いている気配がありません。しかし、自分の意識に応じて、なんとなく筋肉が動いている気がするようになったのです。翌日には、動いていないように見えている筋肉を指で軽く触ると、わずかな収縮が実感できました。

 その後も空いている時間をできるだけ使って、リハビリテーションをしたおかげで、3週間ほどたつと、朝方には、ほぼ元のように見える状態にまで回復しました。

 しかし、翌年、国家試験を控えて寝る間を惜しんで(?)勉強していると、また顔面神経の麻痺が出てしまいました。

 過労と睡眠不足、不規則な生活は、いろいろな病気を引き起こすもとになります。

 実は、死の病といわれている、がんもかなりの部分が乱れた生活習慣によっておこされているのです。

 「症状がないから大丈夫」「若いから大丈夫」と過信せず、自分の体の状況に合わせて日々のノルマを決めて規則正しい生活をすることが、病気にならないために必要なことだということを改めて実感させられました。

 私は、動かなかった顔面筋がリハビリテーションで回復した経験を踏まえ、脳梗塞の患者さんにもバイオフィードバック療法をお勧めしています。


参:日本神経治療学会 標準的神経治療:Bell麻痺

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

kawamura

川村 昌嗣(かわむら まさひで)
1960年高知県生まれ。3浪の末に慶應義塾大学医学部に入学し、1988年に同学部卒業。2001年から11年まで、横浜市のけいゆう病院健診科で健康指導などにあたる。2012年1月に横浜市西区に川村内科診療所を開業。日本老年医学会指導医、日本抗加齢医学会専門医、未病システム学会専門医、日本人間ドック学会専門医。「内科医が教えるお腹がどんどん痩せていく腹凹歩きダイエット」(永岡書店)、「医師がすすめる50歳からの肉体改造」(幻冬舎ルネッサンス新書)などの著書がある。 川村内科診療所のウェブサイト http://www.kawamuranaika.jp/

ダイエットの達人・ドクター川村のスマート健康塾の一覧を見る

最新記事