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「一生治らない」は間違い…ギャンブル依存症外来

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自己評価低い人ほど深刻化

 国内にカジノを作るか否かの議論の中で、盛んに話題に上るギャンブル依存症。「日本人は依存症になりやすい」との声や、「発症すると治らない」との見方があるが、本当なのか。最新のカウンセリング治療を行う専門病院で真相を探った。

 神奈川県横須賀市の国立病院機構・久里浜医療センター。約10年前から競馬にはまり、250万円失っても懲りず、借金で競馬を続ける60歳代の女性が、昨夏にできたギャンブル外来でカウンセリングを受けた。

 「競馬は投資。やめない」。最初はかたくなで、「老後の生活資金を増やすのが目的」と語った。だが、精神科医の河本泰信さんが対話を続けると「お金を増やして周囲の人を助けたい」と、もう一つの目的を明かした。動機が金銭欲だけなら、負けが続くと我に返りやめられるが、名誉欲の一種の「お世話欲」の充足まで競馬に求めたため、没入してしまったのだ。

 河本さんは競馬をやめろとは言わず、続けるための条件を示した。「競馬の目的を一つに絞ること」。金銭欲なり暇つぶしなり、一つの目的だけで行っていれば病的な状態には陥らないとの考えからだ。加えて河本さんは、女性のお世話欲を別の形で満たすため、ボランティア活動を勧めた。

 女性は地域の世話役を始めた。すると競馬への興味が薄れた。金銭欲の面でも「負け続きで割が合わない」と感じ、つき物が落ちたかのように急速に回復した。

 国の研究班が昨年行った調査では、ギャンブル依存症の疑いがある人は成人男性の8・7%、女性の1・8%だった。欧米では疑い例は1%前後で、日本の多さが際立つ。こうした結果から「カジノを作っても日本人は入れるな」などの極端な声が上がった。

 しかし、成人男性の1割近くがギャンブル依存症になるような国が、世界第3位の経済大国でいられるものだろうか。河本さんは「調査の質問票は米国でカジノに通う人を想定して作られており、パチンコ店に気軽に立ち寄れる日本では、実態以上に疑い例が増えてしまう」と指摘する。

 河本さんは更に「ギャンブル依存症に陥っても、大半の人は自然にやめるか、問題のないギャンブルに戻るという海外の研究結果がある。深刻化する人は1割ほどではないか」とみる。

 だが医療機関でギャンブル依存症と診断されると、「一生治らない」と決めつけられ、以後はギャンブルを禁じられるのが通例だ。数回の通院で回復した先の女性も治療前は重症レベルだった。もし別の病院に行っていたら問題を更にこじらせていたかもしれない。

 河本さんは「最新の脳研究でも、治らないという根拠は示されていない。安易な決めつけが患者を追い込んでいる」と指摘する。

 ギャンブル依存が深刻化しやすいのは、自己評価が著しく低い人だ。達成感や優越感の充足、現実逃避の欲求などまでギャンブルに求め、のめり込む。こうした人に「治らない」のレッテルを貼ると、自己評価はますます低下してしまう。

 同センターの新たな治療の試みは始まったばかりだ。河本さんは「社会全体で適切な治療について考えてほしい」と呼びかけている。(佐藤光展)

 ギャンブル依存症 
 「興奮を得たいがために、賭け金の額を増やして賭博をする欲求」や「苦痛の気分の時に賭博をすることが多い」など、複数の症状や行動が長く続く場合に診断される。専門的には依存症という言葉は使わず、ギャンブル障害と呼ぶ。
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