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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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高速化はストレスを増やす

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 北海道新幹線が試験走行を始めたそうです。

 今は、東京から新青森間を3時間以下で結ぶ東北新幹線「はやぶさ」もあります。2年後に函館までつながると、なんと東京から函館が4時間そこそこになるそうです。

 僕が子供の頃は、東京から函館に行くのは大仕事でした。一番速い特急でも東京から青森が8時間。そして青森から函館が青函連絡船で約4時間の船旅でした。青森駅での乗り換えは、演歌「津軽海峡冬景色」の世界そのものでした。合計で12時間以上の長い、長い「旅」でした。それが2年後には、4時間、つまり乗り換え時間を含めなくても、昔の3分の1で到達できるのですね。


のんびりした旅は安らぎの時間だった

 今年、青森に学会で出張しました。僕は日帰りを選びました。片道3時間ですから十分に日帰りできます。たまたま乗せてもらったタクシーの運転手さんに、「東京が近くなって良いですね」と声をかけたら、「多くの人が日帰りで、泊まる人が減ったので、町と観光業にとっては、ありがたくはありません」とのご返事でした。

 たしかに、そうですね。片道8時間もかかれば、当然1泊でしょう。2泊になるかもしれません。また、時間を節約するには夜行寝台などといった選択肢もありました。そんなのんびりとしたのどかな「旅」は、ある意味心安らぐ時間でもありました。

 その上、昔は携帯電話がありません。遠方に出張に行くときは、その時間がある意味、自由な時間でした。仕事からまったく解放される時間でした。いまは、どこにいても携帯がつながります。本当に便利です。便利すぎます。いつでも仕事ができるようになりました。いつでも、どこでも仕事をせざるを得なくなりました。そして、移動手段も高速化し、息つく時間もなく、働ける世の中になりました。


ストレスは人の体をむしばむ

 最近は、僕の外来にも、心の病で漢方を求めに、また医療相談に来る人も増えました。以前は、「怠け癖がある人が増えたのでは」と思った時期もあります。でも、たくさんお話をうかがい、そして困っていることの内容を知り、実際の生活状況がわかりました。ストレスの多さは、むかしに比べて格段に増加しています。高速な交通手段がなく、携帯電話もないひと昔前は、また幸せな時でもあったのです。

 ストレスは人の体をむしばみます。体に障害を及ぼすようなストレスは避けるべきです。一方でストレスに強い体を作る努力も大切です。ストレスに強い体を維持する努力も大切です。人は少し休むとまた少々のストレスには打ち勝てる体が、心が回復します。ところが、そんなに休む時間が削られたり、なくなると、ちょっとしたストレスでも体は壊れます。上手にストレスを発散する時間を持てる人、そんな能力がある人は、相当なストレスを受けても、それを受け流せるので滅多に心の病気になりません。羨ましい限りです。

 しかし、いくらストレスに強い人でも、限界を超えると壊れます。ストレスで病んだり壊れそうな体には、なにより休養が大切です。そして休養は、ただ単なる時間の経過だけでも、過度なストレスを減らすことができます。そして休息は、ストレスに強い体を作ることができます。適度のストレスを楽しみ、そして適度の休息でストレスにより強い体を作りましょう。


壊れる前に休養を取ろう

 昔の携帯もなく時間がかかる出張は、ある意味、ストレスを減らす絶好の機会であったかもしれません。お弁当とおつまみとビールを買って寝台列車に乗り込み、レールと車輪が奏でる音を聞きながら、闇の中に浮かび、そして過ぎゆく光を眺めることは、心落ち着く瞬間でもありました。

 そんな時間がなくなったのですね。ストレス社会といわれる所以ゆえんです。ストレスに強い体を作るにも限界があります。壊れる前に上手にしっかりと休養をとりましょう。体の休養とともに、心の休養がなにより大切です。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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