原記者の「医療・福祉のツボ」
医療・健康・介護のコラム
医療とお金(12)障害者向けの制度も使える
障害は、誰にとっても、決して縁遠いものではありません。
生まれつきの障害もあれば、後から病気やけがで生じる障害もあります。原因はどうあれ、心身の機能や生活の制約が続いていれば、障害者向けの制度を利用できる場合があるのです。
たとえば、身体障害者手帳は、内臓の障害の人にも交付されます。精神障害の多くは、うつ病を含めた病気によるものです。発達障害、高次脳機能障害の人も、障害者として位置づけられるようになりました。大人になって知的障害とわかる人もいます。
障害年金は、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病合併症、精神疾患、難病などによる障害や衰弱も対象になります。障害福祉サービスは、障害の「種類」を限定せず、「状態」で判断します。難病患者も2013年度から、ホームヘルプなど障害福祉サービスの対象になりました。
障害の範囲は、しだいに広がってきたわけです。「障害者になる」ことに抵抗感を抱く人もいるようですが、病気の人でも、使える制度はけっこうあります。活用しましょう。
制度ごとに手続きが必要
まず知ってほしいポイントは、障害者の定義や制度が、一本化されていないことです。
障害年金、障害者手帳、自立支援医療、障害福祉サービス、各種手当などがあり、それぞれに自分から手続きをする必要があります。手帳を取得したから自動的に年金をもらえる、福祉サービスも受けられるという具合にはなっていません。各制度の障害の認定は基本的には、互いに関係ないのです。
今回は、主な制度の大ざっぱな見取り図を理解してください。
<障害年金>
経済的なメリットがいちばん大きいのは、障害年金です。
公的年金制度は2階建ての構造になっています。土台になるのは国民年金制度による「障害基礎年金」で、年間の支給額は、1級で約96万円、2級で約77万円です。
厚生年金保険の加入者には、それまでの平均標準報酬額と加入月数に応じた「障害厚生年金」が上乗せされます。こちらは3級の年金と、それより軽い障害への一時金もあります。
障害年金を受け取るには、三つの要件があります(細かな点や例外の説明は省略)。
(1)初診日に、その年金制度の加入者(被保険者)だった |
(2)初診日の1年6か月後、またはその前の症状固定日に、支給対象となる障害の状態だった |
(3)初診の前々月までの加入期間のうち、保険料納付期間と保険料免除期間が計3分の2以上ある |
働いていて収入があっても、障害年金は支給されます。当初は障害が軽く、後から障害が重くなって支給対象の状態に至った場合も支給されます。初診日が20歳前で、国民年金に入れない年齢だった場合は、20歳になった後に障害基礎年金が支給されます(この場合は保険料納付がないので、単身だと所得が約360万円で半額停止、約462万円で全額停止)。
いろいろなハードルがあるのですが、支給額がそれなりに大きいうえ、5年前まで、さかのぼって請求できます。請求が遅れると、毎月、時効になって、もらいそこねます。年数がたつと、初診日を立証する医療機関のカルテも見つからないことがあります。
だから、障害関連の制度の中では、最優先で障害年金の手続きをするのが賢明だと思います。
たくさんの書類が必要で、適切な内容の診断書を医師に書いてもらうことも重要なので、できれば、障害年金に詳しい社会保険労務士に依頼するほうがよいでしょう。
<障害者手帳>
障害者手帳を取得するメリットは、税金の障害者控除、公共料金・交通運賃・施設入場料の割引、障害者雇用の扱いによる就職、生活保護を受ける場合の障害者加算などです。
手帳は、3種類に分かれています。
「身体障害者手帳」は1~6級。視覚、聴覚、平衡、音声、言語、 |
「療育手帳」は、知的障害者の手帳です。重いほうからA、B1、B2といった区分ですが、都道府県によって分け方や基準が違います。愛の手帳という名称の地域もあります。 |
「精神障害者保健福祉手帳」は1~3級。初診から6か月以上たつと申請できます。 |
発達障害の人は、療育手帳になる場合と、精神障害者の手帳になる場合があります。
<自立支援医療>
障害者の医療費の負担を軽くする制度です。障害者総合支援法に基づき、育成医療、更生医療、精神通院の3種類が設けられています。いずれも自己負担は原則1割になり、さらに所得区分や障害の重さに応じて、月あたりの上限額が定められています。内容は次の通りです。
育成医療 18歳未満の身体障害児が、障害を改善する手術や治療を受ける場合。手帳は不要。 |
更生医療 18歳以上の身体障害者が、障害を改善する手術や治療を受ける場合。手帳が条件。 |
精神通院 精神障害(てんかん、認知症を含む)と診断された人の通院医療。デイケア、ナイトケア、訪問看護も対象になる。手帳の有無は問わない。入院は対象外。 |
このほか、独自に障害者への医療費助成をしている自治体もあります。
<障害福祉サービス>
障害者総合支援法による福祉サービスは「介護給付」と「訓練等給付」に分かれます。どちらも18歳以上の身体障害者は障害者手帳を持っていることが条件。それ以外の障害者は、手帳がなくても医師の診断書など他の資料をもとに手続きすれば、利用できます。利用者の費用負担は原則1割ですが、所得区分や障害の重さに応じて、月あたりの負担の上限額が定められています。
介護給付は、ホームヘルプ、重度訪問介護、同行援護、ショートステイ、生活介護、施設入所支援などです。障害支援区分の認定を経て、区分に応じて、使えるサービス量の上限が決まります。
訓練等給付は、自立訓練、就労継続支援、就労移行支援、グループホームです。区分認定の手続きはなく、何らかの障害があれば、幅広く利用できます。
ほかに、補装具の費用給付や、いろいろな地域生活支援事業が行われています。
障害児は、児童福祉法による通所の訓練、放課後デイサービス、施設入所なども利用できます。
<障害者やその親への手当>
国の制度で支給される主な手当には、次のものがあります。金額は2014年度の月額です。いずれも所得制限があります。申請しないともらえません。手帳は要件ではありません。
特別障害者手当(20歳以上の在宅の重度障害者) 2万6000円 |
障害児福祉手当(20歳未満の在宅の重い障害児) 1万4140円 |
特別児童扶養手当(20歳未満の障害児の養育者)1級4万9900円 2級3万3230円 |
どこに相談すればいい?
市町村の障害者福祉担当課が手続きの窓口になる制度が多いのですが、制度ごとの縦割りで、たいていの職員は、担当以外のことはよく知りません。また年金は、障害基礎年金だけなら市区町村の国民年金担当課、障害厚生年金もあれば日本年金機構の年金事務所が請求先です。
どんな制度が使えるか、わからないときは、利用している医療機関・福祉事業者のソーシャルワーカーか、障害者の総合相談窓口である「基幹相談支援センター」(市町村ごとか、複数の市町村で設置)に相談しましょう。障害の種類によっては精神保健福祉センター、発達障害者支援センター、患者団体に尋ねてもよいかもしれません。
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