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基礎からわかる「日本医療研究開発機構」

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新薬や機器開発 後押し

新薬の開発は長い道のり。オール・ジャパン体制の構築が成功のカギを握る(第一三共提供)

 「医療立国」を目指す国の頭脳の役割を担う、新しい独立行政法人「日本医療研究開発機構」が来年4月に設立される。

 医療関係の研究を行う大学・研究所と協力し、多くの新薬や医療機器の開発ができるようにするのが主な目的だ。機構の誕生で、国民の健康を高める新しい医療技術を生み出せるか。研究開発の流れはどう変わるか。機構の可能性を探った。

Q 何をするのか

 機構に期待されるのは、実用化が見込める研究を見つけ出す「目利き」の役割だ。同時に、国際競争に勝ち抜くため、製品化までの時間を短縮する運営能力も求められる。

医療分野の「司令塔」に

 このため、機構では、文科、厚労、経産3省の医療分野の予算約1430億円(15年度概算要求額)を集め、有望なテーマを選定し、研究費の配分を決める。お金を通じて、大学や企業などの研究開発の方向付けを行うわけだ。

 重点的に取り組む分野として、新薬の開発、再生医療、がん、感染症、難病など9分野を挙げている。20年頃までに達成すべき目標として、具体的な数値を多く掲げ、目に見える成果が出るように自らに課した。

 例えば、再生医療では、細胞を培養して作った製品を患者に使う臨床研究を角膜や血液などの約15の病気で行うとしている。新薬が作れそうな特許権・知的財産権を大学などから製薬会社に5件橋渡しする。医療機器は、輸出額を11年の5000億円から1兆円に倍増するとした。

 こうした目標の達成に向けて、機構では「プログラム・ディレクター(PD)」という各分野の役職者が研究から実用化までの進行の面倒を見ることにしている。

 PDは研究費の配分を決めるほか、大学などに眠る有望な基礎研究を発掘し、臨床研究や治験に移行させたり、実用化のノウハウを持つ企業に紹介したりする。例えるなら、新しい戦力の獲得や、監督・コーチ人事を考え、強いチーム作りを目指すプロ野球のゼネラルマネジャーという役回りだ。

 PDには、数人の「プログラム・オフィサー(PO)」と呼ばれる部下を置き、研究現場への助言や指導を行ってもらう。PDもPOも、大学や企業出身の研究者などを新規に雇い入れ、仕事に充てる見込みだが、良い人材を獲得できるかどうかが将来の成果も左右しそうだ。

◇        ◇        ◇

Q 今なぜ必要

 世界の医薬品・医療機器の市場は今後も、人口増と高齢化によって拡大することが予測されている。特に経済成長で豊かになる新興国では、CT(コンピューター断層撮影法)、MRI(磁気共鳴画像)などの画像診断装置や内視鏡など高額な医療機器の需要が高まっている。

世界市場での競争力強化

 安倍内閣が成長戦略の柱に「医療産業の競争力強化」を掲げたのは、世界市場の拡大の波に乗り、医療関係の輸出を増やし、国内経済を活発にしたいという狙いからだ。

 新設される日本医療研究開発機構は、この強化策の目玉といえる組織だ。国内の大学などの研究を支援し、得られた成果を新薬や医療機器の開発につなげる。

 自動車、電気製品など製造業で高い競争力を発揮した日本だが、医療産業は、長年のうちに多くの実用化のノウハウを蓄積している欧米諸国に比べ弱い。

 2012年の「貿易統計」(財務省)などによると、医薬品と医療機器について、輸出額約8104億円に対して、輸入額は約3兆1290億円で、約2兆3186億円の貿易赤字が出ているのが現状だ。

 再生医療の可能性を広げるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究で山中伸弥・京都大教授がノーベル賞を受けたように、日本の医療研究のレベルは高い。しかし大学などで得られた研究成果が、新薬などの開発につながった例は少ない。

 原因としては、医療を担当する省庁が、文部科学、厚生労働、経済産業の3省にまたがり、共通した目標が欠けている点が指摘されている。国の研究費や補助金も、3省からバラバラに大学や企業に配分されており、効率が悪かった。

 機構は、関係3省の出向者、国の研究所、大学、医療機器会社の研究者など計約300人で構成される予定。医療分野の司令塔として、基礎研究から実用化まで一貫して指揮を執る。

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Q 米NIHとの違い

 機構は、米国の国立衛生研究所(NIH◎)を参考にしたことから、「日本版NIH」と呼ばれることもあるが、組織や目的、人員・予算の規模は大きく異なる。

研究行わず 支援に専念

 米NIHは、がんや脳卒中、糖尿病、感染症、ヒトゲノムなど、27の研究所・センターの集合体で、約6000人の科学者を抱える研究機関だ。病気の予防や健康増進を目的とした基礎研究を重視しており、11年までの40年間に22の薬やワクチンを生み出すという成果を上げている。

 自ら研究するだけではない。外部の機関が行う研究を審査し、有望な計画に研究費を支給し、米国全体の医学研究を支えている。ここ数年の年間予算約3兆円のうち、8割以上は外部の機関向けだ。そうして研究費を受け取った人の中から、これまでに130人以上のノーベル賞受賞者を輩出している。世界の医学研究をリードする存在と言える。

 一方、日本の機構は傘下に研究機関を持たない。大学の基礎研究は文科省が引き続き担当するため、機構は、実用化を目指した企業の支援などに力を入れる。外部の機関に研究費を支給するのは米NIHと同じだが、予算は約1430億円、職員は約300人と小ぶりだ。

 ただ、米NIHは肥大化し、縦割り組織による効率の悪さも指摘されている。機構は小回りが利く分、大学や企業により近い位置から、きめ細やかな支援ができると期待されている。

 ◎NIH=National Institutes of Health

◇        ◇        ◇

Q 企業との関係は

 機構は、メーカーの相談窓口として医療機器の製品化を後押しする。まずは経産省が中心となり今年10月末に発足させた「医療機器開発支援ネットワーク」の事務局を引き継ぎ、体制の充実を図る。

製品化へ連携先紹介も

 ネットワークには、医療機器の製造販売のための審査を行う国の機関のほか、金融機関、民間コンサルタント会社などが参加する見込み。相談内容に応じてメーカーに必要なパートナーを紹介する。経産省によると、心臓病治療で使う「ステント」と呼ばれる金網状の筒の改良など、約30件の具体的な検討が既に始まっているという。

 現在、国内メーカーは、画像診断装置や血液検査機器など使用によって患者を傷つけることが少ない製品を多く作っている。

 一方、海外メーカーは、不整脈の治療で使うペースメーカー、傷んだ膝に代わる人工関節など、体内に入れる機器が得意だ。こうした機器は、不具合があると患者を傷つける心配があり、開発が難しい。その分、売れた時の利益も大きい。

 機構が事務局となるネットワークには、医療機関にも参加してもらい、安全性を確認しながら患者への機器の使用を進める。医療従事者とメーカーの「医工連携」によって、体内で使う高度な治療機器の開発を目指す。

 医薬品では、機構内に新薬開発支援の部署を設け、国の研究所などで、新薬の候補となる物質について研究を進める。具体的には、大学などの研究で見つかった新薬の候補物質の可能性を探り、有望なものを製薬会社に渡す。

 製薬会社も、大量の新薬候補物質を持っているが、自社の知識・経験だけでは行き詰まることが多くなっている。大学・研究所との連携で新薬開発の分厚い壁に風穴が開く可能性がある。

 政治部・石井千絵、経済部・浅子崇、医療部・赤津良太が担当しました。

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