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腹腔鏡手術 リスクないのか?

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 群馬大学病院で、肝臓に対する高難度の腹腔鏡ふくくうきょう手術を受けた患者8人が死亡し、厚生労働省などが事実関係の調査を始めた。この手術は、どのような意味を持つのか。特徴とリスクについて、専門家に話を聞いた。(医療部 高梨ゆき子・高橋圭史)

体への負担少ない利点

 

 東邦大一般・消化器外科教授 金子 弘真氏

田中成浩撮影

 群馬大病院の腹腔鏡を使った肝臓手術92件に対し、8人が死亡したとの報道には驚いた。私たち肝臓内視鏡外科研究会の全国アンケート調査では、腹腔鏡を使った肝臓手術の手術後30日以内の死亡率は0・2%程度だ。単純比較はできないが、明らかに高い。

 現時点で、群馬大の死亡率が高い原因はわからないが、今回の問題で、腹腔鏡手術の信頼が低下することになったら残念だ。

 腹腔鏡を用いた肝臓手術は2010年の保険適用以降、急速に普及し、13年には全国で約2000件まで症例数が増えている。私は20年ほど前から取り組んでいるが、患者の体への負担を減らすメリットが大きいと感じている。

 一般的な肝臓の開腹手術では、おなかの傷が30センチ程度と大きくなるが、腹腔鏡手術なら、多くは1~2センチ程度の傷で済む。患者の回復も概して早い。

 手術機材の進歩で操作性が増した。肉眼で見るより、手術部位が大きく見えるので、微量の出血にも気づきやすい。結果として、患者の出血量の減少につながっていると実感している。

 また、手術に参加するスタッフ全員がモニター画面で患部の情報を共有できる良さもある。多くの人の目でチェックできるので、小さな異変にも気づきやすくなる。

 新しい技術を習得することは、若い医師の意欲を高めることにもつながる。

 ただし、取り組む医師は、難易度の高さを十分に自覚する必要がある。開腹手術に比べ、視野が限定され、肝臓に直接触れることもできないからだ。

 熟練した指導者の下で技術を磨いたうえで経験を積まねばならないが、まだ、全国で技量に格差がある可能性は否めない。

 私たちの研究会では技量の底上げを図ろうと、2009年から年3回程度、技術セミナーを開いており、これまでに400人以上の外科医が参加している。また、日本内視鏡外科学会では2年前から、腹腔鏡を用いた肝臓手術の技術認定も始めている。ノーカットの手術ビデオを提出してもらい、厳しく技術を審査しているため、合格率は20%程度だ。

 私は、体への負担が少ない腹腔鏡手術を普及させたいと考えているが、その大前提は、安全性の担保だ。新しい技術のリスクも十分認識した医師が、しっかり修練を積んだうえで臨むことが必要だ。

 かねこ・ひろのり 1976年東邦大医学部卒。87~89年の米国留学を経て、東邦大助教授、現職に至る。肝臓内視鏡外科研究会代表世話人。62歳。

◇        ◇        ◇

 

肝臓切除には技量必要

 

 順天堂大肝胆膵(すい)外科教授 川崎誠治氏

清水健司撮影

 手術の内容を見ないと詳細はわからないが、報道によれば死亡率は8%超と非常に高い。なぜもっと早くブレーキをかけられなかったのか。早期に腹腔鏡下で同様の手術を行うことの見直しを行うべきだった。

 そもそも肝臓は血の塊のような臓器で、少し切り方を間違えると大出血が起きる危険性がある。それを腹腔鏡で行うのは、それなりの技量が必要だろう。

 腹腔鏡を使った肝臓手術のうち保険適用外の切除法は、開腹手術と同程度の安全性が担保できるかよくわかっていない。執刀医によっても安全性はだいぶ違う。そのリスクが一般患者にも正確に知らされているのかというと疑問がある。

 大腸では腹腔鏡手術はかなり普及していて、腹腔鏡を使った方が手術がやりやすいという医師もいるほどだ。そこまで安全性が確立していれば問題ないが、肝臓はそうではない。腹腔鏡手術に積極的な医師でさえ、難しいものは従来の開腹手術で行っている。

 腹腔鏡手術では、体の表面の傷を小さくすることができるが、今まで治らなかった病気や手術できなかった病気を治せるようにするものではない。例えば、胆のうの摘出手術のように、比較的大がかりでない手術であれば、体の表面の傷を小さくすることで、全体として患者の負担は少なくなる。しかし、肝臓を大きく切るなど、体の中での負担が大きく、リスクの高い手術をする場合は、体の表面の傷が小さいことがどれほどのメリットになるか、よく考える必要がある。

 学会のあり方にも問題があるかもしれない。学会では、成功例にスポットを当てられがちである。「こんなに危ないことがあるから注意してください」という事例がもっと強調されれば、教訓が共有され、より安全な医療へとつながると思うが、実際には「こんな大変な手術もできました」という発表が目立つ。学会の役割も自戒を込めて見直す必要があるように思う。

 報道されるまで、我々医師が問題事例を知らなかったのは、専門家集団として恥ずべきことだ。今後、改めて全国の肝臓の腹腔鏡手術の実施状況と成績を正確に把握し、それを共有して対策を練ることも大切だ。

 外科医にとって一番の基本は、その手術で患者を無事に退院させることができるかどうかだ。新しい技術の導入は、安全性を十分吟味した上で慎重に行っていく必要がある。

 かわさき・せいじ 1977年東京大医学部卒。信州大第一外科教授を経て2002年から現職。生体肝移植をはじめ、数多くの肝臓手術を手がけてきた。62歳。

 

 腹腔鏡手術 おなかに開けた数か所の小さな穴から、手術用の細長いカメラ(腹腔鏡)と操作器具を入れ、カメラで映した体内の映像を見ながら行う手術。開腹手術に比べて傷が小さく、体への負担が少なく、入院期間も短くて済むことが多い。大腸などの手術では広く行われているが、手術の難しい肝臓の場合、普及は限定的となっている。

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