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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

医療とお金(9)医療費がかさむときは、高額療養費制度でカバー

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 大きな病気をしたら、べらぼうに医療費がかかる――そんな不安を抱いている人がいるかもしれません。でも、日本の公的医療保険は、それほど心配しなくてよいように、つくられています。

 医療機関で支払う自己負担の割合は、もっぱら年齢に応じて、1割から3割の間です。

 では、医療費がひどく高くついて、たとえば100万円かかる治療を受けたら、3割負担の人は30万円を自己負担しないといけないのでしょうか。そうではありません。

 自己負担割合とは別に、1か月あたりの自己負担の限度額が、年齢層や所得によって決まっているからです。それが「高額療養費」という制度です。

あらかじめ手続きをしておく

 以前の高額療養費制度は、後から申請して、限度額を超えた分の払い戻しを受ける方式だけでしたが、今はそうではありません。

 70歳未満の場合、保険者(保険の運営者)に申請して「限度額適用認定証」(1年間有効)をもらっておけば、ひとつの医療機関・薬局での支払いは、いったん高額の自己負担をすることなく、最初から限度額が上限になります(入院・外来は限度額を別々に適用)。入院が決まるなどして負担が大きくなりそうなときは、申請しましょう。

 70歳以上の人は「高齢受給者証」か「後期高齢者医療被保険者証」がもともと渡されているので、それを示せば、あらためて申請しなくても同様の扱いになります。

 事前に手続きしていないときや、複数の医療機関の利用、世帯の合算によって限度額を超えたときは、後から保険者に高額療養費の申請をすれば、限度額を超えた分が数か月後に戻ってきます。診療を受けた翌月の1日から数えて2年たつと時効で請求できなくなるので注意しましょう。

 いったん自己負担分を支払うのが大変なら、戻ってくる見込み額(保険者によってはその8~9割)を保険者から無利子で借りることができます。市町村の国保では、「受領委任払い」という方式で、最初から限度額以下の支払いにできる場合もあります(限度額を超えた分は国保から医療機関が受け取る)。

70歳未満の人の限度額は?

 具体的に負担の限度額がいくらになるのか、どの範囲の自己負担分が対象になるのかは、けっこう複雑です。わざとわかりにくくしているのではないかと思うほどです。

 70歳未満の人の限度額は現在、次のようになっています。

A 上位所得者 15万0000円+(総医療費-50万0000円)×1%

B 一般所得者  8万0100円+(総医療費-26万7000円)×1%

C 低所得者    3万5400円

 ややこしいので、+から右側の1%を掛ける部分は、とりあえず無視しましょう。

 上位所得者になるのは、勤め人向けの社会保険の場合、診療を受けた月の標準報酬月額が53万円以上の加入者とその扶養家族です。国民健康保険の場合は、前年の「旧ただし書き所得」が600万円を超える世帯の人です。旧ただし書き所得とは、前年の総所得金額等から基礎控除33万円を引いた金額を世帯全員について合計した額で、国保のさまざまな所得区分の基本になっています。

 低所得者は、住民税非課税世帯の人です。

<来年から区分が変わる>

 2015年1月からは、限度額の設定が次のように変わります。

ア 25万2600円+(総医療費-84万2000円)×1%

イ 16万7400円+(総医療費-55万8000円)×1%

ウ  8万0100円+(総医療費-26万7000円)×1%

エ  5万7600円

オ  3万5400円

 所得水準の区分が5段階に増え、収入の多い人の限度額が上がる一方、収入が少なめの人の限度額が下がるのです。それぞれの区分にあてはまる所得水準は、次の通りです。

社会保険(標準報酬月額) 国民健康保険(旧ただし書き所得)

ア 83万円以上     901万円超

イ 53万~79万円   600万超~901万円

ウ 28万~50万円   210万超~600万円

エ 26万円以下     210万円以下

オ 住民税非課税世帯 住民税非課税世帯

どうやって計算するか

 次に、制度の対象になる自己負担額の計算方法を説明しましょう。

 70歳未満の場合、単純に支払った自己負担分を合計するのではなく、条件を満たした自己負担分だけを積み上げる方式なので、ちょっとやっかいです。

 基本は、個人単位で、暦の上の月ごとに計算します。

 利用した医療機関、訪問看護ステーションは、施設ごとに分けます。同じ医療機関でも外来と入院は分けます。医科と歯科も分けます。保険薬局の費用は、院外処方した外来と合わせます。

 細かく分けた分を、仮に「箇所」と呼びましょう(正式用語ではありません)。

 同じ月の自己負担が2万1000円以上になった箇所の分だけを合計して、限度額を超えているかどうかを見るのです。

 たとえば、P病院の入院と外来、Q病院の医科と歯科、さらにR診療所と、その院外処方でS薬局を利用したとすると、箇所数は5になります(薬局はR診療所と合わせて1箇所)。そのうち自己負担が2万1000円に満たない箇所は、合計から外れます。

 海外で受けた医療、治療用装具、マッサージ・はり・きゅう・柔道整復師の施術など、保険から「療養費」が出る費用の自己負担分も、それぞれ別の箇所として、対象になります。

 一方、入院中の食事療養費・生活療養費の自己負担分と、差額ベッド代、オムツ代など保険対象外の費用は、この制度の対象になりません。

<世帯合算>

 個人単位が基本ですが、同じ公的医療保険の加入者と扶養家族、あるいは国保の同一世帯なら、2万1000円以上になった箇所の分を、世帯単位で合算できます。合算した額が限度額を超えていたら、超えた分を取り戻せます。

 しかし家族でも、医療保険の加入先が違う人、後期高齢者医療の人は合算できません。家族に社会保険の加入者本人が複数いるときも、それは合算できません。

<多数該当>

 診療を受けた月を含めて最近12か月間の高額療養費制度の適用が4回目以上になる場合(つまり、以前の11か月間に3回適用があったとき)は、限度額が通常より、かなり低くなります。重い病気で継続的に治療を受ける人の負担を軽くするしくみです。

 これも、2015年から区分が変わるので、新しい限度額とあわせて示します。所得の線引きは先に説明したのと同じです。

現在2015年から

A 8万3400円

ア 14万0100円

B 4万4400円

イ  9万3000円

C 2万4600円

ウ  4万4000円

 

エ  4万4000円

 

オ  2万4600円

<長期高額疾病の患者>

 慢性腎不全で人工透析を受けている人、血友病で血液製剤の投与を受けている人、HIV(エイズウイルス)感染で抗ウイルス薬による治療を受けている人は、限度額が月1万円になります。ただし人工透析については70歳未満の上位所得者は2万円です。

 「特定疾病療養受療証」を保険者からもらって提示すれば、医療機関・薬局での各月の支払いは、それぞれ最初から限度額以下になります。

 70歳以上の人は、限度額の区分も計算方法も違うので、次回に説明します。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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