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性的マイノリティーの老後…同居人の権利、書類に

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生活、医療費…法的裏付け

26日に東京・新宿で開かれた交流会。孤独死への不安や親の介護などの悩みを語り合った(正面向き左端が永易さん)

 同性婚が認められず、法律や制度に十分守られていない日本の同性愛者や、生まれ持った性別に違和感があるトランスジェンダーら性的マイノリティー。老後の生活資金や住まい、医療や介護の問題まで、解決策を提案するNPO法人「パープルハンズ」の活動が注目されている。(岩永直子)

NPOが支援

 会社員の男性(46)は7年前、マンション購入をきっかけに、20年来の付き合いになる年上の男性パートナーと同居を始めた。法的に「家族」でなければ、ローンも共に組めず、共同名義にできないため、パートナーは家賃を払っていながらも法的権利はない。男性が死んだら、その親族が相続してしまい住めなくなる。

 不安を抱いた2人は、パープルハンズ事務局長で行政書士の資格も持つ永易至文ながやすしぶんさん(48)に相談。自宅も含めた互いの財産をパートナーに譲渡することを盛り込んだ遺言や判断能力が衰えた時にパートナーに医療の選択や財産管理を託す「任意後見契約」を、法的効力の高い公正証書で作った。「婚姻届みたいだね」。2人の間柄を公的に認められた気がして、軽井沢にお祝い旅行に行った。

 男性が急病で倒れたのはその2か月後だ。入院の説明時に「緊急連絡先」を聞かれ、パートナーを指定すると、看護師から「肉親でないと」と突き放された。「後見人契約もある」と言い返すと納得してくれた。

 「書類を作っていなかったらきっと引き下がってしまった。『法的な裏付けがある』と言えると、自信が持てる」と男性は語る。

 パープルハンズは2013年、性的マイノリティーの老後の生活設計を考える団体として発足した。相談事業や、専門家を招いた研究会、交流会などを開く。

 マスコミでゲイ文化がブームとなり、ゲイとして一生生きることを受け入れた「ゲイ1期生」が生まれたのが1990年代。それから約20年たち、1期生が中年になって直面したのが、老後の生活の問題だった。

 パートナーが急病で入院しても、関係を秘密にしていれば、最悪の場合、連絡も来ず、個人情報保護を盾に面会や病状説明を拒まれる。ついの住み家を共同名義にできない。介護が必要になった時、誰の手を借りたらいいかわからない――。

 自身もゲイ1期生の永易さんは、「上の世代は一定の年齢になると自分を偽って結婚し、老後の安心を得ていた。1期生は老後の手本がなく、社会運動をしてもすぐに制度は変わらない。今ある制度を使って、安心して生きる方法を模索したい」と語る。

 永易さんが作成を勧めるのが、〈1〉医療における意思表示書〈2〉成年後見契約〈3〉遺言の三つ。会員には急に何かあった時に連絡してほしい人の電話番号を書く「緊急連絡先カード」も渡す。

 結婚しない男女が増えた最近、異性愛の中年おひとり様の参加も目立つ。家族でない2人が共同で契約できる賃貸住宅や、家族でなくても同居人に「家族割引」を適用する携帯電話会社も現れてきた。パープルハンズは地域の社会福祉協議会や葬儀社などとも、ネットワークを築きつつある。

 永易さんは「夫婦と子ども2人という“標準家族”に当てはまらない人が増え、これまでの制度や仕組みでは生きづらい人がたくさんいる。性的指向にかかわらず手を取り合って、生活者の視点から誰もが生きやすい社会を作りたい」と話す。

 NPO法人パープルハンズ 
 2010年に始めた「同性愛者のためのライフプランニング研究会」を前身に発足。書類などの作成は、永易さんの「東中野さくら行政書士事務所」などが請け負う。HP(http://purple-hands.net/)(電)03・6279・3094。
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