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医師講演会、年16万回…製薬65社 謝礼支払い

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「最新情報現場に提供」「薬の宣伝合戦」指摘も

 製薬企業65社が昨年度、医師らを対象に開いた講演会は16万回に上る。現場の医師が最新の情報を得る貴重な機会だが、情報が偏ったものになれば、患者への処方にも悪影響を与えかねない。

 今年、個人に支払った講師謝金が初めて情報公開されたが、透明性をさらに高めていくことが求められる。

■立食パーティー

 講演会は主に診療現場の医師に、薬や病気に関する情報を提供する。医師会と一緒に開くケースも多い。製薬企業は「最新情報を現場の医師に正しく知ってもらうのが狙い」(第一三共)と説明する。

 講師は各分野のリーダーや地元の有力大学教授などが選ばれることが多い。

 国立大教授は「医師会に頼まれ、地域の医師のレベルを上げるためにやっている」と話す。別の講師は「全国の医師に情報を伝えるのも、私の重要な役割」と説明する。

 ただ、専門家からは「新薬が出る度に、企業が巨額を投じ、『医師向け勉強会』という名目の宣伝合戦になっている。結果として、高価な新薬の処方が増え、国民の医療費を押し上げている」(臨床研究適正評価教育機構の桑島巌理事長)との指摘もある。

 実際、講演会はホテルなどで開かれ、立食パーティーが用意されたり、参加者にタクシー券が配られたりすることもある。製薬企業にとっては、薬の処方箋を書く医師に直接働きかけられる貴重な場になっている。

 京都で開業する医師は「同じ講師がA社の講演会ではA社の薬を持ち上げ、B社の講演会ではB社の薬を薦めていて、一体何が正しいか、わからないこともある」と首をかしげる。

 高血圧治療薬ディオバンのデータ改ざん問題では、日本高血圧学会の役員らが講演会などで、薬の効果をPRしていたことが批判された。

■「偏る恐れ」

 そこで、昨年から始まったのが医師・医療機関への資金提供の情報公開だ。日本製薬工業協会(加盟72社)の指針に基づき、今年も8月から順次、各社がホームページなどで報告を始めた。個人の講師謝金は今年初めて開示された。10月末までに65社が情報公開した。

 読売新聞が、売り上げ上位10社を調べたところ、昨年度の資金提供総額は1900億円で前年度より1割以上減少。研究・開発費が890億円で2割減、接遇費などが25億円で4割以上減る中、講師謝金だけは110億円で微増だった。

 講演会は、10社で計7万回開かれ、各社が年200万円以上の謝金を支払った医師はのべ226人だった。年50回以上講演した医師が14人、謝金の合計が1000万円を超えた医師も11人いた。155回の講演で2800万円以上を得た医師もいた。65社全体では講演会は計16万回だった。謝金は講演1回当たり10万~20万円が多かった。

 産学連携に詳しい筑波大の新谷由紀子准教授は「講師謝金の情報公開は大きな一歩だ。企業と関係が深い医師の情報発信は、企業の意向を反映し偏る恐れがある。発言者と企業の関係をチェックする必要がある」と指摘する。

米国 進む情報公開

テーマや講師を医師らが自主的に選んで行う勉強会(京都糖尿病医会提供)

 製薬企業の情報公開が求められるのは、不透明な資金提供で、薬の処方がゆがめられれば、患者にも悪影響が及ぶからだ。

 世界医師会は2009年に「企業との関係はあらゆる状況で十分に公表されるべきだ」という声明を発表した。米国では医療保険改革法に基づき、物品を含め10ドル以上の利益提供は報告が義務付けられ、政府が今年からインターネットで公開するなど、世界中で情報公開が進む。

 日本でも業界の自主公開が昨年から始まったが、情報の印刷ができなかったり、一部で来社しなければ閲覧できなかったりするなど、「不親切さ」が目立つ。

 一方、薬の情報入手が企業頼みになっている現状を見直す動きもある。京都府の開業医の和田成雄さんらは02年に「京都糖尿病医会」を設立して、自主的に勉強会を開いている。

 糖尿病の分野は近年、新薬が続々と発売され、どの薬を処方すればよいか、悩む医師も少なくない。

 同医会では、学術講演会や地域単位の学習会など、手弁当の医師向け勉強会を年に4回開く。「薬の利点だけでなく、危険性を知ることが大切」との考えで、テーマや講師は会員の話し合いで決める。企業と共催する場合も、テーマや講師は自分たちで選ぶ。

 和田さんは「手間はかかるが、診療に必要な情報を正しく得るには、製薬企業頼りではなく、医師側の努力が欠かせない」と話す。(医療部 高橋圭史、原隆也、赤津良太)

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