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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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エボラ出血熱、行き過ぎ対応も今は仕方ない?

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 先日、地方での講演のために飛行機に乗ったところ、離着陸時の電子機器の使用方法が変更されていました。電波を発信する機器は、離陸時はドアが閉まるまでは使用可能、そして着陸後は、すぐに電波を発信する電子機器がOKとのアナウンスでした。その上、電波を発信しない機器は常時使用可能となりました。原稿を書く時間がすこしでも欲しい僕には朗報です。飛行機の欠点は離着陸時に原稿を入力するためのコンピューターが使用できないことでした。この制限がなくなり、電波を発信しない状態のコンピューターなら使用できるということは、重ね重ね本当に素晴らしいことなのです。離着陸時を含めて、常時膝の上にラップトップコンピューターを置いて仕事をすることが可能になったのです。


飛行機の電子機器規制に似ている

 では、今までの規制はなんだったのかという疑問も生じます。搭乗してから離陸後しばらくするまで、また最終着陸態勢に入ってからロビーまで、一切電子機器は使用不可でした。今から思えば、あまりにも行き過ぎていた規制のように思えます。でもそんな規制も致し方ないですよね。だって飛行機の安全性に関することなのですから。飛行機で何か起これば、墜落します。その時の損失は計り知れないものがあります。ほんのわずかな危険も考慮した上での対策だったのでしょう。それが、十分な検討と時間を要して、やっと常時電子機器を使用しても安全性にはまったく問題がないという結論に至ったのだと僕は理解しています。

 さて、エボラ出血熱に対する対応もそこまでやる必要があるのかと思えるほど過敏な対応が各所で取られています。アメリカでは最大3週間強制隔離といった措置をとった州もありました

 そして、これはあまりにも行き過ぎだと言うことで自宅での待機に変わったとも報道されています。そんな対応も致し方ないのです。飛行機の電子機器への対応と同じで、本当に100%安全な方法が明確となるまでは、より安全を見越した対応になります。試行錯誤の連続で、よりよい方法を見つけ出すしかありません。


最良の方法がわかるまで、できることをする

 明らかなことは、エボラ出血熱の感染者が1万人を超え、約50%の人が死亡しているという事実です。そして中央アフリカ以外でも次々に感染者が発見されているという事実も不安をあおります。また医療従事者も数百人以上の方が感染し、半数以上が死亡しています。

 みんなが不安なのです。必要以上に心配することは馬鹿げていますが、なにもしないことはもっと馬鹿げています。最良の方法が判然としない現状では、よいと思われることを行うしかありません。


エボラ医療従事者の強制隔離は…

 一方で、善意で危険な感染地域に出向いた医療従事者が、強制的に3週間近く隔離されることは、やはり行き過ぎのように思えます。そんなことを強制されるのであれば、誰もエボラ出血熱流行地での診療に参加しなくなります。国民の安全を担保しながらも、エボラ出血熱流行地へ診療に行く英雄を上手うまく帰国させる方法を定めなければ、エボラ出血熱感染地域での医療行為の継続が危ぶまれます。

 そして、日本国内でエボラ出血熱感染者が確認されたとき、その診療に当たった医療従事者が世の中から3週間隔離されるのでしょうか。それは行き過ぎですよね。なんとなく不気味なエボラ出血熱ですが、過度な心配などせず、平常心で生活することがなにより大切と思っています。厚生労働省を含めて医療サイドは一生懸命知恵を絞り出して対応しているのです。僕たちは温かく見守り応援するしかありません。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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