いのちに優しく いまづ医師漢方ブログ
yomiDr.記事アーカイブ
デジタル化の波に襲われた白衣の天使たち
「白衣の天使」の
病気を治すのは、医師だけではありません。看護師さんの「ナイチンゲール精神」が、病気や
一番に患者さんの気持ちを考え、患者さんに寄り添い、患者さんのために働く看護師さんは、医療現場になくてはならない存在です。看護師さんは、医療現場で導入されつつある「チーム医療」の大切な一員です。
医療が日進月歩で進む中で、診療にも電子カルテが導入されるようになりました。看護記録も、「手書き」から「パソコン」へ変わってきました。アナログの「手書き」では、患者さんが訴えた言葉や数字には表れない身体の変調など、1日として同じ状態ではない体の状態を書き留めることが出来ました。しかし、デジタルの「パソコン」となると、入力する項目が決められています。
マニュアルに沿って観察したことを数字に置き換えて入力したり、チェック項目を埋めていったりするようになりました。これまで、看護師さんが実際に手で触れ、肌で感じていた情報は、電子カルテになったために、記録することが難しくなってしまいました。電子カルテは、入力する項目が決められています。電子カルテでは、項目に当てはめることが難しい症状や患者さんの状態を管理できなくなってしまったのです。
捨てることになった五感で感じ取る情報
これまで患者さんの心と身体を直接みながら看護し、患者さんの家族のことまでも考えていた看護師さんも、情報のデジタル化によって、せっかくの大切な情報を記録する方法がなくなってしまいました。五感で感じていた患者さんの状況は、情報のデジタル化によって、捨てられるようになってしまったんです。
そこでわたしは、看護師さんたちに、看護の基本を思い出していただければと、漢方医学を使ったプログラムを始めています。
現在の看護学校では、漢方医学を学ぶ機会はほとんどありません。このため、看護師さんたちは、漢方医学についてはまったく知識と経験がなく、医療現場で使われている漢方薬の扱い方に困っていました。昨年、わたしは看護師向けの専門誌に漢方医学について1年間、連載をさせていただきました。この連載をきっかけに、今年は「看護師さんに必要な漢方医学の知識が何か」を考え、プログラムを作らせていただく機会を得ました。このプログラムで漢方医学を学んでいただくのは、首都大学東京と聖路加国際大学の看護師さんたちです。
漢方医学の方法を情報のデジタル化に応用
漢方医学は、アナログな学問です。アナログゆえに、看護師さんが肌で感じたことを表現するにはもってこいの学問です。顔色、肌のつや、精神的な変化など、ちょっとした変化を漢方医学では、大切にします。そして、漢方医学は、その変化を言葉として記録する方法を持っています。わたしが考えたのは、この方法を活用して、情報をデジタル化する試みです。この方法を活用することで、記録することが難しかった情報を電子カルテに記録し、医療チームで共有することができるようにすることです。
看護師さんが、看護学に漢方医学を取り入れることで、より良い看護ができるようになるでしょう。患者さんたちのために漢方医学という古い学問が、デジタル社会で再び活用され、看護師さんの役に立つ。これこそが、わたしの教育プログラムの目的です。
【関連記事】
情報整理の罠 多次元情報解析 単純と複雑
寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受
ある整理の本で「アートディレクター=ドクター」というフレーズが目につきました。目に見える情報と見えにくい、見えない情報を整理するというのは共通の...
ある整理の本で「アートディレクター=ドクター」というフレーズが目につきました。
目に見える情報と見えにくい、見えない情報を整理するというのは共通の過程かもしれません。
ところで、情報というのは単純と複雑なものとどちらが良いのでしょうか?
状況によるというのが妥当な話ではないでしょうか?
重症救急のような一分一秒を争う事態であれば、内服薬や既往のほか大雑把な問診の後は、画像診断の方がいいと思います。
しかし、複雑な病態に対して最適解を出すには丁寧な問診によって複雑な情報を引き出してあげる必要があります。
例えば痛みの5W1Hのほか、逆に痛みの出ない時の情報なんかも有意義でしょう。
健診患者さんで、難しい症状の方には「丸投げしないで、種々の症状の日記帳や閻魔帳を1ページくらいにまとめて専門医に持っていく」ことをお勧めしています。
理由は簡単で、人体は簡単であると同時に複雑でもあるからです。
大雑把な構造はみんなだいたい一緒です。
しかし、一人一人個性もあれば、成長や加齢による変化もあります。
免疫機能の変遷なんかその最たるものかもしれません。
複雑な三次元体や四次元体である人間をどの切り口で整理して説明するのが正しいのかが問題とも言えます。
同じ症状の患者を各科医が異なる診断を下すことはあり得ます。
一見不必要な情報が別の視点では重要であることもあり得ます。
そのへんが現在言われるEBMエビデンス・ベースド・メディシンの弱点でもありますね。
単純化しきれない情報をどう扱うか?
そういえば、学生の頃に遺伝学で不要な部位と習ったイントロンという非翻訳部位が実は別の視点では非常に重要だということを知りました。
同じように業務効率の中で切り捨てられる情報にも重要な意味が隠れていることもあるでしょう。
つづきを読む
違反報告
医療の点と線と面 医療のコンテナ化
寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受
救急医学会に行きました。患者さんを送る先の高次病院の発表を聞くのもまた考えさせられます。現在は健診医がメインの仕事なのですが、その後の経過やシス...
救急医学会に行きました。
患者さんを送る先の高次病院の発表を聞くのもまた考えさせられます。
現在は健診医がメインの仕事なのですが、その後の経過やシステムを知ることで、より良い業務につながると考えています。
患者さんの変化に伴い検査結果は動きます。
誘発検査もありますが、現代の技術的な限界はあります。
なので、時間経過と検査結果の経過をイメージすることで、取得できなくなってしまった情報をある程度正確に補うことができるのではないかと考えます。
僕の企業秘密でもありますが、これはサッカーと大きな関係があります。
過去を知り、現在までの流れを見ることで、未来へのパスの選択肢が思いつきやすいわけです。
体力だけではなく想像力を養うことができます。
そして、似たような事例の経過を知ることで、純粋な経験だけでなく疑似体験によってより多くの経験値を蓄えることもできます。
また、デバイスの高度化やサイズ縮小はますますの傾向です。
今年の災害の多発を機会に遠隔診療だけでなく様々な医療の形が模索されるのではないかと思います。
個人的には医療のコンテナ化が着目点だと思います。
現在のテントやドクターカーの機能を拡張するだけでなく、どこでも診察室、手術室を作ることのできる時代になるのではないかと思います。
完全清潔ではなく、準清潔でも、止血などの最低限の手術を急ぐ事態はあり得ます。
つあり、「事故現場に近い公民館とかに設備を運んだ方が早い」と可能性です。
もちろん、これは空想に過ぎませんが、それを現実化したいやる気のある人たちとお話できたのは楽しい時間でした。
自己完結だけでなく、遠い距離間での協力もあり得ます。
医療は一人でできるわけでもなく、みんなと仲良くやれるわけでもないですが、間接的には繋がっていますからね。
つづきを読む
違反報告
アナログとデジタルの共存 遠回りの意味
寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受
仰る通り、西洋医学がデジタルに過剰な圧迫を受けている状況において、漢方医学という「見慣れない学問」の果たす役割は大きいのかもしれません。西洋医学...
仰る通り、西洋医学がデジタルに過剰な圧迫を受けている状況において、漢方医学という「見慣れない学問」の果たす役割は大きいのかもしれません。
西洋医学がデジタルなわけではなく、西洋医学に情報革命の波が直撃してバランスを失っているというのがより良い理解ではないかと思います。
目に見えるデータが目に見えない、見えにくいデータを圧迫し過ぎている状態です。
僕は看護学生さんにとって、漢方医学に詳しくなること以上に、違う角度からモノを考えたり、違う視点があることを体感する意味の方が大きいのではないかと思います。
僕はサッカーを上達するために、バレーボールの本を読みました。
バレーボールのセッターのものの考え方は、サッカーにおける司令塔と同じです。
トップ下やボランチに入った時のものの考え方に似ています。
(今はサッカーがより高度になって、他のポジションの選手にも司令塔がいます。)
普通の人はサッカーをするときにサッカーに関する本を読むと思いますが、自分の知らない競技の方がより謙虚になって、深く考えて本を読むことができます。
良くも悪くもまだまだ漢方医学は西洋医学を補完する立場ですが、漢方医学の発想から西洋医学も深く見えるようになればとてもいいことかもしれないですね。
こういう教育の結果は目に見える結果として表れにくいものですが、漢方医学の理解という結果だけにとらわれ過ぎず評価されるべきかもしれないですね。
つづきを読む
違反報告