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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

医療とお金(7)海外でかかった医療費にも、日本の保険が使える

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 外国で病気やけがをして医療機関にかかったら、日本の公的医療保険は使えない――そう思い込んでいませんか?

 もちろん、日本以外の国の医療機関で、日本の健康保険証を出しても相手にされません。医療費の全額を自費負担で支払う必要があります。国によっては、べらぼうな高額になったりします。

 でも、後から手続きをすれば、日本の公的医療保険から、使った医療費のうち、それなりの額を受け取れるのです。

 それが「海外療養費」という制度です。

 

国内に準じて費用をカバー

 海外療養費は、やむをえない事情で医療費を全額自己負担したときに利用できる「療養費」という制度の一種です。保険者(保険の運営者)が認めれば、国内での保険診療に準じる形で、公的医療保険から金銭が支給されます。歯科も対象になります。

 一時的な観光旅行でも、出張でも、現地に住んでいる駐在勤務の人でも、日本の公的医療保険に加入していれば、海外療養費の制度を使えます。

 勤め人向けの健康保険(社会保険)だけでなく、国民健康保険、後期高齢者医療制度を含め、どの公的医療保険でも適用されます。扶養家族も対象になります。

 さて、医療費の水準は国によって違うのに、どういう計算で、どれだけ戻るのでしょうか。

 基本的には、海外で受けたのと同じ内容の医療を、日本で受けた場合の診療報酬を日本の点数表をもとに算定し、そこから自己負担分(3~1割)を差し引いた額を払い戻します。海外で実際にかかった額が算定額より少ないときは、実際の額を分母にします。

 たとえば、アメリカで手術を受けて自費で100万円支払い、かりに日本で同じ治療をしたら診療報酬が30万円で済むと算定された場合、30万円から3割の自己負担分(9万円)を引いた21万円が戻ります。別の国で同じ手術が10万円で済んだ場合は、10万円から3割負担分(3万円)を差し引いた7万円だけ戻ります。外貨の換算レートは支給決定日の時点です。

 

治療目的の渡航は対象外

 海外療養費の対象は、日本で保険が適用される範囲の医療に限られるので、美容手術、代理出産、歯科のインプラントなどはダメです。臓器移植をはじめ、治療の目的で海外に渡航した場合も対象になりません。一方、人工透析の人が海外旅行中に計画的に透析を受ける場合は、治療目的ではないとして支給されている実例があります。

 薬剤の代金は、国内で保険適用されるものに限られます。入院料は、高度な病院かどうかなど施設によって大きく違ってきますが、国内の類似した施設に合わせて算定します。

 要するに、国内の医療機関にかかったときに必要になるのと同じ額までは、海外の医療であっても、保険者が負担しようという考え方です。

 その際の自己負担相当額(国内で診療を受けたと想定したときの自己負担分)は、高額療養費・高額介護合算療養費の制度の対象になります。したがって、国内分を含めた自己負担額が高額療養費制度で定める月ごとの上限や、高額介護合算療養費制度で定める年単位の上限を超えた場合は、別に申請すれば、上限を超えた分が戻ります。

 また、民間の海外旅行保険に加入していて医療費について保険金が出る場合でも、それとは関係なく、公的医療保険から海外療養費を受け取れます。

 

書類を用意して旅立とう

 手続きには、海外でかかった医療機関で、領収書に加え、診療内容の明細がわかる証明書と、領収費用の明細書も書いてもらうことが必要です。そして、診療内容明細書と領収明細書の日本語訳、パスポートの写しを添えて、療養費支給申請書を保険者に提出します。勤め人向けの社会保険では、原則として事業主を通じて申請・支給の手続きを行い、保険者から海外送金はしません。

 診療内容明細書と領収明細書の用紙は、保険者の窓口にあるほか、たとえば以下のサイトからダウンロードできます。いったん日本に帰ってから現地の医療機関に記入・返送を頼むのは大変なので、海外へ出向くときは、念のため、用紙を持っていくとよいでしょう。

・海外医療支援協会
 http://www.jrm-inc.jp/imasi/iryouhikyuufu.html
・協会けんぽ
 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3120/r138#shinseisyorui

 

 支給申請できる期限は、医療費を支払った日の翌日から数えて2年以内です。

 制度の対象になるかどうかや、支給金額の算定方法は、ケース・バイ・ケースのことも多く、保険者の判断にゆだねられています。もし支給されないときや算定方法に不満があるときは、その決定を知った日の翌日から60日以内に審査請求をして、争うことができます。

 なお、傷病手当金、出産手当金、出産育児一時金についても、日本の社会保険に加入していれば、海外に滞在中でも、要件を満たせば支給対象になります。外国で出産した場合や、外国で病気になって働けなくなった場合も、日本の保険による給付を受けられるわけです。

 

社会保障協定というしくみ

 日本の企業に雇用されて外国に駐在している人の社会保険の扱いは、その国と日本の間で「社会保障協定」が発効しているかどうかによって、違ってきます。

 勤め人向けの日本の社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、勤務地を問いません。このため駐在する国の制度によっては、日本と現地の両方の社会保険に加入義務が生じることがあります。そういう二重加入の負担をなくして一本化するのが社会保障協定です。

 協定が発効している国に派遣される場合、駐在が5年以内の見込みなら日本の社会保険、5年を超す見込みなら現地の社会保険に加入します。年金保険の加入期間は両方の分が通算されます。

 すでに協定が発効しているのは、独、英、韓、米、仏、加、豪、蘭など15か国です。

 各国の医療の状況については、次のようなサイトが参考になります。

・世界の医療事情(外務省) http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/
・ヘルスケアプログラム(民間企業) http://www.hcpg.jp/

 

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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