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小児がん、患者に笑顔を…家族と滞在 治療に専念

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「チャイルド・ケモ・ハウス」開業1年

複数の部屋を備えた個室には仕切りがあり、患者の兄弟姉妹が一緒に滞在できる

 小児がんの患者が家族と滞在しながら治療を受けられる施設「チャイルド・ケモ・ハウス」(神戸市)が12月で全面開業から1年を迎える。

 「笑顔で過ごせるように」。小児がんを経験した小児科医・楠木重範さん(39)や、がんで子どもを亡くした親たちの思いは少しずつ広がっている。

 ハウスは医療機関の集まる神戸市のポートアイランドにある。延べ約1900平方メートルの平屋建て。抗がん剤による化学療法中心の治療を行うクリニックのほか、家族と宿泊できる19の個室がある。台所や風呂、トイレを備え、使用料は1日1500~2000円。建物内の広い遊び場では、天井のガラス窓から差し込む自然光を感じられる。

 がん治療の安定期、終末期の患者が対象で、大学病院などの主治医の理解を得た上で、ハウスに移ってからも協力できることが条件。24時間体制で医療スタッフが滞在し、近くの総合病院などと協力体制を取る。

 ハウスを作ったのは、小児がん患者遺族らの思いを聞いたからだ。1年間に新たに小児がんと診断されるのは2000~2500人と、大人のがんより少ない。「がん治療に従事する小児科医も少なく、患者や家族の思いをくみ取る体制とは言えない」と楠木さん。

 小児がん患者が一般病棟で治療を受ける場合、家族の付き添いが制限される。感染などの危険から兄弟姉妹の面会が難しかったりする。楠木さんは大学病院などで臨床経験を積む中でこうした現状を知り、患者遺族らと2006年にNPO法人を設立した。

 家族の希望が強かったのは、個室に外から自由に出入りできる扉。他の患者や家族に気兼ねなく出入りできる。複数の部屋を備えた個室もあり、患者の体調が悪い時は、部屋の仕切りを閉めて感染の危険を減らす工夫をする。

 「母親は患者に付きっきり。家族がバラバラになる状況を変えたかった」と楠木さんは話す。

 ハウスは患者と家族の目線に立った工夫がいっぱいだ。子どもは長時間じっとして抗がん剤の点滴を受けることが難しいが、ある診察室には、点滴を受けながら子どもが絵を描けるボードを付けた。

 建設費などに患者遺族らから約8億円の寄付を集めた。運営費も診療報酬のほかは寄付を主な資金源にして利用料を低く抑える。

 これまでに数か月単位の長期滞在を含め十数家族が利用した。帰宅の遅い父親となかなか会えなかった子どもが「お父さんと寝られて、行ってらっしゃいを言える」と喜び、家族からは「子どもが精神的に安定した」「子どもの笑顔が増え、一緒にいる家族の笑顔も増えた。つらい治療だから、少しでも負担を和らげてあげたい」との声が聞かれるという。

 がんで子どもを亡くした親からは「闘病中に知っていたら利用したかった」との声が強い。楠木さんは「施設の存在を知ってもらうことが大切。自宅にいるような雰囲気で治療を受けたいという希望をかなえたい」と話す。(酒井麻里子)

 ◎NPO法人「チャイルド・ケモ・ハウス」は寄付を募集している。ハウスに滞在する患者と家族の生活などを支援する会員に登録し、年会費を負担するなど様々な方法がある。詳しくは同法人のホームページhttp://www.kemohouse.jpまで。

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