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深化する医療

危険ドラッグ依存 覚醒剤以上

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 急速に広まっている危険ドラッグは、覚醒剤に比べて毒性も依存性も強いとされ、乱用者が意識障害を起こし、医療機関に搬送されるケースが増えている。薬物依存からの回復を支援する治療に取り組む大阪府枚方市の府立精神医療センターでも、危険ドラッグの入院患者が4月以降は23人(8月末現在)と覚醒剤などの患者15人(同)を上回り、対応に追われている。

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投薬や認知行動療法 家族の支えも期待

認知行動療法のテキストを看護師に手渡し、治療の指示を出す藤田さん。「危険ドラッグで死ぬこともある。新しい薬物なので、どういう後遺症が出るか、わかっていないのも怖い」と警鐘を鳴らす(大阪府枚方市の府立精神医療センターで)

 今年冬、10代後半の少年が家族に連れられて同センターを訪れた。

 1~2年ほど前から、興味本位で危険ドラッグのハーブを吸い始めた。自宅近所の店で簡単に購入できたという。すぐにのめり込んだが、次第に「救急車の音がいつまでも耳に残る」「爆弾のカチカチという音が聞こえる」といった幻聴に悩まされるようになった。

 幻聴は覚醒剤の使用者によく見られる症状だ。「危険ドラッグに含まれる成分は当初、大麻に似た陶酔感のある合成カンナビノイドが主流だったが、最近は覚醒剤を使用したときのような興奮や幻覚妄想状態を引き起こす化学物質が混ざり合った商品が増えている」。治療に当たった同センター高度ケア科主任部長・藤田治(50)が指摘する。

 薬物依存症の治療は、向精神薬などの投薬と、依存症に陥る思考や行動パターンを変化させる「認知行動療法」が二本柱となる。少年は入院し、危険ドラッグを体に入れない状態を維持した上で、幻聴を抑える向精神薬や睡眠薬が処方された。投薬の効果はすぐに表れ、徐々に薬の量を減らして認知行動療法に移った。

 この療法では、医師や看護師、臨床心理士らがチームを組む。患者数人でグループをつくり、専門家が作成したテキストを基に、薬物に手を出したきっかけや症状を話し合うことで、考え方や行動の癖を修正して再使用しないよう自らをコントロールする方法を学ぶ。

 少年は1か月半で回復傾向がみられたため、退院した。だが、またすぐにハーブに走った。藤田には「入手しやすく、とにかくやりたかった」と話したという。再入院して治療をやり直し、夏に退院した後は薬物を断ち、アルバイトを始めた。

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 覚醒剤を中心とする薬物依存症の治療を20年以上行ってきた藤田は「危険ドラッグの恐ろしさは、どんな成分が入っているのかわからない点だ」と語る。

 危険ドラッグの患者が同センターで目立ち始めたのは2012年3月頃。興奮や手の震え、意識混濁など、覚醒剤だけでなく大麻、アルコール依存症にも似た症状がみられた。「どんな投薬が有効なのかわからず、手探り状態だった」と振り返る。

 さらに特徴的なのが、使用時の記憶がないケースが多いことだ。

 インターネットカフェの個室でハーブを吸った男性は、壁をめちゃくちゃに壊して警察に通報されたが、何も覚えていなかった。藤田は「覚醒剤ならば自分の行動を覚えていることが多く、『二度とあんなことはしない』と振り返ることができるが、危険ドラッグは安い、逮捕されない、覚えていないの三拍子がそろっており、依存性は覚醒剤よりも強い」と断言する。

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 危険ドラッグの成分には覚醒剤よりも強い毒性を持つものがあり、死に至る可能性もある。

 覚醒剤の場合は逮捕されると、家族や社会との関係が断たれ、再び手を出すケースが目立つ一方、危険ドラッグは使用し始めてまだ間もない人も多く、回復に必要な家族らの支えが期待できるという。藤田は「依存者が孤立しないよう、医療関係者と家族が連携した支援体制をつくっていきたい」と話している。(敬称略、冬木晶)

危険ドラッグ
 幻覚、興奮作用を引き起こす化学物質が含まれ、乾燥した植物に化学物質を吹き付けた「ハーブ」、液体に溶かした「リキッド」、粉末状の「パウダー」などがある。「脱法ハーブ」「合法ドラッグ」などと呼ばれていたが、警察庁と厚生労働省は7月、現名称に改めた。

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関連事件の摘発倍増

 危険ドラッグの乱用者は2011年頃から増加したという。総務省消防庁によると、09年から今年6月までの5年半で、危険ドラッグとみられる薬物を使用し、救急搬送された人は全国で4469人に上る。

 危険ドラッグを摂取した運転者による事故も相次ぎ、警察庁のまとめでは、危険ドラッグに関連した事件で今年1~6月、全国の警察が145人を摘発。昨年同期の2倍以上となる急増ぶりで、平均年齢は34歳だった。

 今年4月の改正薬事法で指定薬物の所持や使用が禁じられたが、化学物質の構造の一部を変えた商品がすぐに出回り、規制が追いつかない「いたちごっこ」が続いている。

 
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