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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

処方された薬の自己中断は危険!

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 前回の続きです。

 Aさんはそれなり以上の量のオキシコンチンを使用していました。

 「痛みが良くなったので中止で良いだろう」

 彼はそう考えて、医療用麻薬のオキシコンチンをいきなり中断しました。

 彼には身体依存がある状態から、急に医療用麻薬を中止したことにより離脱症候群が起きて、<何かえも言われぬ調子悪さ>→自律神経症状、<汗もすごく出た>→発汗、といった症状が出たのです。

 「いやあ、勝手に中断しちゃあダメだね」(Aさん)

 もとより中断してはいけないことは説明しています。

 「そうですね」(私)

 「これからは気をつけます」(Aさん)

 以後はお伝えしている通りに、きちんと飲んでくださったようです。ご自身でも懲りられたのでしょう。


 医療用麻薬は痛み止めとして非常に重要な薬剤です。

 これがあるために、「七転八倒」などと称された、がんの進行期の激しい苦痛から人類は解放されたのです。

 しかも通常の痛みがない人と比べて、とりわけがんの痛みがある方には、「依存」が起こらない機構が活性化して、それを起こさないようにしてくれているのですから、処方する側も飲む側も何ら後ろめたい気持ちを抱く必要はないのです。

 もちろん飲むことで命は縮めません。病気も悪くなりません。

 それでも指示に従わないで、いきなり必要な薬剤を中断したりすれば、医療用麻薬ならば離脱症候群が起き、他の薬剤ならば病状の悪化を招くかもしれません。特にめてはいけない薬剤なのかどうかはやはり専門家に聞くべきだと思います。


 私自身はステロイドを患者として使用した経験もあります。

 私たちはもともとステロイドを体内で生合成しています。ステロイド薬の使用中は、身体で作っているステロイドホルモンの量が減ってしまいます。身体はよくできているので、ステロイドが足りていると判断して、ステロイドホルモンの産生を抑えるのです。

 しかし通例2週間程度の使用ならば、ステロイドの産生はそれほど低下しないために、急にステロイド薬を中止しても問題ないと言われています。

 それでも、私自身の経験では、2週間程度の使用後の(もちろん主治医の指示通りの)中断だったにもかかわらず「ものすごいだるさ」が2日間くらい出て、絶不調さは半端ではありませんでした。頭痛も出ました。2日間の絶不調の後はすぐに回復しましたが、これこそまさにステロイドの離脱症状でした。

 言葉で表すのが難しい、えも言われぬだるさであったのが印象的でした。

 次回に続きます。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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