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元記者ドクター 心のカルテ

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一通の手紙…本当に統合失調症?切実な問いかけ

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 本紙メディア局編集部を通じて、読者の皆様からお便りをいただいています。感謝申し上げます。切実な問いかけであるだけに、じかにお会いし、ご心労やご心配をともにし、手伝い申し上げたく存じますが、諸般の事情でかないません。この場をお借りするしかないと思い至りました。

 今回、一通のお手紙を紹介したく存じます。「統合失調症と診断され2年来、入院、通院を続けてきた30歳代の娘を、診察してもらえないでしょうか」という、親御さんからのご要望です。

 娘さんを実際に診察できないまま、当て推量する愚だけは避けなければなりませんし、一般論を申し添えても、的を外すだけです。むしろ、親御さんの心痛を紹介申し上げるに留めることで、真に迫れると確信する次第です。

 今回も、プライバシー保護のため、事実を若干変えました。親御さんからは、あらかじめ文面で掲載の承諾をいただいている点、念のため申し添えます。

 

統合失調症と診断 服薬で症状軽快

 娘さんは大学卒業後、希望の会社に就職できず、アルバイトに従事した。将来に不安を抱き、「育て方が悪かったからだ」と両親に当たった。交友が途絶えた。同僚とのトラブルから、4年続けた職を辞めた。

 昼夜は逆転し、就寝時に“襲われる感じ”がした。何をするにも疲れた。街中に出ても、闊歩かっぽする若い人たちが幸せそうで、泣きたくなった。

 激しく口論したり、物を投げたり、家で荒れた。両親に強引に連れられて、心療内科を受診した。「心の傷と幻覚がある」と指摘され、服薬を勧められたが、通院はしなかった。

 荒れるたびに、両親はドライブに誘い、気分転換を試みたが、その場限りだった。

 ある日、両親に手を出してしまった。「暴力だけは受け入れられない」と父が詰め寄ったところ、家では荒れなくなった。

 東日本大震災時、揺れに驚愕きょうがくし、地震や放射能への恐怖に襲われるようになった。また、マンションの近隣住人とトラブルが生じ、以来、騒音に敏感になり、「音が聞こえる」「上と下の階から、何かが体に入ってくる」「周りに変な“オーラ”を感じる」と頻回に訴えた。

 2年前、心療内科を受診し、統合失調症と診断された。抗精神病薬と睡眠薬を処方され、“オーラ”を感じなくなった。一方、薬の副作用で、体が重たくそわそわし、薬物調整のために1か月入院した。副作用は改善した。

 その後も、「こんな苦しい人生は嫌だ」「すぐに疲れる。何もできない」と、不安、焦燥を募らせた。また、「テレビの音が聞こえる“感じ”がする」と怖がり、音楽番組を見るのをやめてしまった。

 通院は欠かさず、オランザピン10ミリグラムを1日1回だけ服用し、デイケアにも通っている。最近、料理ができるようになった。就職への希望が芽生える一方、不安が強く、踏み込めないでいる。

 

主治医への信頼と募る疑問 両親の葛藤

 娘さんの行動範囲は、着実に広がっている。“オーラ”を感じたり、音が聞こえ、何者かが侵入する感じを覚えたり、といったこともなくなった。強い不安だけがしぶとく残っている。

 薬物を臨機応変に極力少なく調整し、時宜を得た精神科リハビリテーションを采配し、診察のたびに温かく後押ししてくれる。主治医には、幾重にも恩を感じずにはいられない。

 「娘は、一番苦しかった症状を治してくれた先生に、信頼を寄せています」

 父はそう記し、さらに続ける。

 「『強い不安は、統合失調症に伴う症状である』とも説明してもらっています。しかし――」

 どうも、釈然としない様子なのだ。

 「娘はひょっとしたら、統合失調症ではないのではなかろうか」
 「抗精神病薬を飲み続けても、大丈夫だろうか」

 年来、煩悶し続けてきた。信頼を寄せる主治医には、恩を謝しこそしても、よもや礼を欠いた問いなど投げかけられるはずもない。

 ネットを通じて海外の文献を渉猟しては、わらをもすがる気持ちばかりがうごめく。当サイトに便りを寄せたのも、そんな事情からだった。

 

信頼できるからこそ本音を伝えよう

 幻聴や妄想があるからといって、必ずしも統合失調症ではない。また、幻覚や妄想に駆られた興奮と、葛藤や欲求から短絡的に生じる衝動行為とは、時に区別が難しいが、対応の仕方を混同するとこじれてしまう。精神科臨床に携わる者としては、常識である。

 親御さんが記した娘さんの様子をなぞるにつけ、解離状態や不安状態、知的・発達的側面やパーソナリティー面、あるいは、てんかんなど、いくつかの次元を考慮しなくてはならないことは明らかである。ましてや、脳そのものの病変、身体疾患が精神に及ぼす病態については、常に考慮し続けなければ、“医の道”を外してしまう。当然、娘さんの主治医も、その過程を踏まえているはずだし、そもそも、当方のような一介の臨床医が、娘さんを実際に診察もせずに、かくもいわずもがなの“付け足し”を述べ奉るのは、あまりに不遜だ。

 受け持ち患者さんに少しでも良くなってもらいたいと願うのは、臨床医の性である。「他の医師にセカンドオピニオンを求めてみたい」と申し出られた時でも、躊躇ちゅうちょなく応じるのが常だ。ましてや、患者さんや親御さんが、診察をめぐって吐露する不安を受けとめるのをいとうてしまっては、精神科医が廃る。

◇          ◇

 親御さん。娘さんが全幅の信頼をお寄せになるほどの先生だからこそ、“藁をもすがりたい気持ち”を、打ち明けてみたらいかがでしょう。言いにくいことを伝えられてこその、信頼だと存ずるのです。

 主治医の先生。若輩たる当方が、岡目よろしく無責任に得手勝手ばかりを申し、失礼千万、恐縮の極みです。願わくは、親御さんの煩悶はんもんに、ご高配いただけないでしょうか。

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