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精神科入院 減らそう(1)医療から福祉へ転換を

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 精神科医療が転換点に立っている。入院患者が30万人、うち20万人が1年以上の長期入院という状況を改めるため、厚生労働省は、精神病床を減らす方針を初めて打ち出した。長期入院がなぜこんなに多いのか。どうすれば地域での暮らしが実現するのか。入院経験者、医療、福祉関係者が語った。(大阪本社編集委員 原昌平、社会保障部 小山孝)

全国精神障害者 地域生活支援協議会 代表理事 伊澤雄一氏

いざわ・ゆういち 東京都国分寺市で精神障害者の居住支援を行う「はらからの家」の活動に1981年の発足時から参加。「はらからの家」は後に社会福祉法人化し、現在は総合施設長。58歳。


 33年前、精神科病院を退院した人に住まいを提供し、生活を支える活動を始めた。当時の精神障害者は「難民」とも言える状況だった。

 福祉サービスは存在せず、病院に長く入院するか、家族が家で抱えるしかなかった。その後、グループホームや日中の活動場所などが増えたが、20万人が長期入院している現状を考えれば、まだ不十分だ。

 なぜ入院患者が多いのか。理由の一つは、日本の精神科医療が民間任せでやってきたこと。精神病床の9割が民間病院にある。経営や雇用維持を考え、患者の退院や病床削減に消極的になる。

 とはいえ、患者を積極的に退院させる病院は増えた。私たちも入院患者に会って退院の相談に乗ることが増えた。そこで「福祉」と「医療」の意識の差を感じることがある。

 福祉はその人の「できること」に着目するが、医療は「できないこと」に焦点を当てがちだ。「この患者は毎日歯が磨けないから、退院は無理」と看護師に言われたことがある。歯が磨けなくても地域で暮らせる。虫歯になれば歯科医に行けばいい。試行錯誤を繰り返す中で、地域で暮らす力がつくものだ。

 「患者が退院したがらない」と言う医療関係者もいるが、それも疑問だ。今、40年間入院してきた50歳代の女性の退院支援を続けている。退院後の暮らしが不安で「入院がいい」と話していたが、食事に連れ出し、グループホームへの宿泊体験を繰り返した。1年半かかわるうち、退院する気持ちになった。その変化に医師や看護師が驚いている。こうした支援には手間がかかり、技術も必要なため、取り組んでいる地域は少ない。

 様々な福祉の方策は整ったが、財源不足が足かせになっている。2005年度のデータだが、精神障害者の医療と福祉に使われる予算の比率は97対3だった。福祉への配分が圧倒的に少なく、一番大切な住む所の整備が進まない。配分の見直しが欠かせない。

 厚労省の検討会が、入院患者に退院を働きかける活動や住まいの確保を進める方針を打ち出したのは評価できる。

 だが、空いた病棟を居住施設に転換する方針には反対だ。「院内に退院する」ような施設ができれば、地域への退院が進まなくなる。今年、日本が批准した障害者権利条約は、地域で生活する権利を保障している。院内居住施設は明らかに条約に違反する。

 住民の理解も欠かせない。十数年前に私たちが精神障害者の社会復帰施設を建設する際、住民から「治安が乱れる」などと反対された。各地で多くの支援者が同じ体験をしている。心の病は誰にとっても無関係ではない。自分たちの問題として理解してほしい。

入院5年超が10万人

 日本の精神科医療は世界的に特異な位置にある。34万床ある精神病床は経済協力開発機構(OECD)に加盟する国の中で突出して多く、人口当たりで加盟国平均の約4倍だ。

 精神障害者を危険視する風潮が強かった高度成長期、国は補助金や低利融資で民間の精神科病院を増やした。医師の数を一般病棟の3分の1でよいなどとする特例も設け、安い医療費で隔離収容する状況を生んだ。

 政府は2004年、地域生活を重視する政策を掲げたが、進まなかった。現在も統合失調症などで5年以上入院する患者が10万人いる。今年4月施行の改正精神保健福祉法は、新たな入院患者が1年以内に退院できるよう、地域の福祉関係者らとの連携強化を求めた。

 一方、すでに長期入院している患者への対応は、厚労省の検討会が今年7月に報告書をまとめ、患者の退院意欲を高める支援に加え、病床の削減方針を打ち出した。病棟をグループホームや住宅に転換することも条件付きで容認したが、「それでは本当の地域生活にならない」という反対の声が多く出ている。

 
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