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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

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医療用麻薬をやめたら具合が悪く?

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 「先生、あれやめたら具合悪くなっちゃったよ」

 60代の進行がん患者さんのAさんが苦笑します。

 「あれ?」(私)

 「コンチン」(Aさん)

 「ええっ!」(私)

 コンチンという名の「医療用麻薬」は2種類あります。

 MSコンチン(成分はモルヒネ)と、オキシコンチン(成分はオキシコドン)です。

 最近、少なくとも私の周辺では、MSコンチンが使われることが随分と減った(注;副作用が多いからではありません。良い薬剤の選択肢が増えているからです)ため、「コンチン」と言うと、患者さんも、時に医療者もオキシコンチンのことを指し示しています。

 医療者が「コンチン呼ばわり」をすると間違いの元なので、かつてはよく使われていたMSコンチンのことがあまり意識されなくなっているところに時代を感じつつ、「『オキシコンチン』と呼びましょう」と訂正しています。

 さて、患者さんは突然オキシコンチンを中止したのです。

 どうなったと思いますか?

 「何か、えも言われぬ調子悪さになってね。汗もすごく出て…」

 「それでどうしましたか?」

 「焦ってコンチン飲みましたよ。そしたらピタッと収まりました。いやあ麻薬ってすごいなあって思いまして…」

 Aさんは頭をかきながら言います。

 世の中に違法薬物として出回っている麻薬をもし私たちが使用したとすると、精神依存と身体依存になります。

 このうち精神依存の方が、よく知られている「薬物を使いたくて仕方がない」という強い欲求が抑えがたい状況です。

 一方で身体依存とは、身体がその薬剤に順応している状態であり、急な薬物の中止で離脱症候群という薬剤を中止(離脱)することに伴う症状が出るものです。

 これを聞いて、「麻薬って依存が怖い!?」と思われた方もいるかもしれません。確かにそうです。しかしここからが大切なので、よくお読みになってください。

 慢性的な痛みを有している患者さんは、以前より精神依存も身体依存も起こしにくいことが指摘されていました。動物モデルでは、実際にこれらの依存が起こりにくいメカニズムが解明されています。すなわちがん等で本当に痛みがある患者さんに対しての医療用麻薬の使用においては、精神依存も身体依存も起きにくいのです。実際に私も、がんの患者さんの医療用麻薬への精神依存はほとんど見たことがありません

 次回に続きます。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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