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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

医療とお金(4)スジの通らない保険外費用を請求されたら…

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 保険診療の場合、医療費そのものは公定価格で、厚生労働省が定めた診療点数表などで決まっているのですが、保険外の費用負担をめぐって、トラブルがけっこうあります。

 とくに入院したときが問題です。なかには、患者・家族に知識がないことにつけ込み、いろいろと勝手な名目をこしらえて費用を取る病院があります。患者・家族のほうも「お世話になっているから」「ほかに行く所がないから」と、言われるままに払っていることが多いようです。

 そこで厚生労働省は2005年9月、考え方と実例を示しました。それに沿って、どういう費用の請求が不当で、どういう費用はやむをえないのか、具体的に見ていきましょう。


二重取り、あいまいな名目は許されない

 まず、医療機関が請求してはいけないものを挙げましょう。

(1)公的保険給付に含まれている材料やサービス

介護料、お世話料、シーツ代、冷暖房代、電気代、体を拭くタオル代、オムツの処理代、電気アンカ・電気毛布の使用料、衛生材料(ガーゼ、ばんそうこう等)、処置時の手袋、ウロバッグ(尿をためる袋)、縫合糸など手術用材料、在宅医療で用いる衛生材料、骨折や捻挫などで用いるサポーター・三角巾、かぶれ防止テープ、薬のカプセル・分包パック、医師の指示したスポイト代、手術前の毛ぞり費用、車いす用ざぶとんなどの消毒洗浄代、食事のとろみつけ・フレーバーの費用、検査結果の印刷費用、ネットから取った診療情報の提供、医療相談、医療機関が設置する義務のある窓口での各種相談、在宅療養に伴う電話診療


 これらは入院料、処置料、手術料、調剤料などに含まれており、患者側から徴収すると、保険給付と二重取りになるから、許されないわけです。


(2)あいまいな名目

「管理料」「管理協力費」「雑費」など


 こういう名目では、中身がわかりません。個々の病院が入院料に勝手に上乗せするのを容認すると、公定価格のルールが崩れてしまうので、厚労省は認めていないのです。ネットで見ると「共益費」といった名目で費用徴収している病院もあり、疑問を感じますね。


(3)混合診療の禁止・特殊療法等の禁止に違反する場合

保険の制限回数を超す検査や治療などの費用、未承認の薬・医療機器・適応外の薬・保険外の治療法の費用(保険外併用医療で認められる場合を除く)


 混合診療とは、保険診療と、保険の対象外の診療を一緒に行うことで、原則として禁止されています。特殊療法や新療法も、保険診療では禁止されています。医療機関が「保険外併用医療」という制度に基づく手続きをしている場合だけ、別途の費用徴収が認められます。



徴収が認められるもの

 医療機関が実費を徴収することが許されるのは、以下のような費用です。

(1)日常生活上のサービス費用

オムツ代、尿とりパット代、腹帯代、T字帯代、病衣の貸与代(手術・検査時を除く)、理髪代、クリーニング代 、テレビ代、パソコン・ゲーム機の貸し出し料、CD・MD・DVDプレイヤー・ソフトの貸し出し料、患者図書館の利用料

 

(2)公的保険給付と関係ない文書の発行費

診断書・証明書の発行料、職場復帰の意見書の発行料、診療記録開示の手数料・コピー代、外国で使うための診断書等の翻訳料、裁判や保険で提出する画像診断のコピー代

 

(3)診療報酬上、明記されている費用

在宅医療のための交通費、薬の容器の貸与代

 

(4)治療中の病気やけが以外の医療費

インフルエンザなどの予防接種の料金、美容形成(しみとりなど)の料金、禁煙補助剤の処方料(保険の対象にならない場合)

 

(5)その他

保険薬局で調剤した医薬品の自宅への配達料、日本語を理解できない患者のための通訳料、他院から借りたフィルムを返却する時の郵送代、併設プールでのマタニティースイミング代


 ただし、費用の徴収にあたって医療機関は、(1)内容や料金を見やすい場所に掲示する(2)きちんと説明して、患者側から文書で同意を得る(3)社会的に妥当な金額である(4)他の費用と区別した内容のわかる領収書を発行する――というルールを守る必要があります。

 なお、ここまで説明してきたのは、医療保険の場合です。

 介護保険の場合も似たような問題がいろいろありますが、大きく異なるのは、オムツ代の扱いです。介護保険適用の療養病棟、特養ホーム、老人保健施設といった介護保険の入所施設(ショートステイを含む)では、オムツ代・オムツカバー代・カバーの洗濯代について、保険外の費用負担はありません。これらは介護保険による施設サービスの中に含まれます。


疑問を感じたら厚生局へ

 徴収が認められるかどうかについて厚労省が結論を出さず、個別の状況によるとされている費用もあります。ケース・バイ・ケースの判断になるのは、次のようなものです。

コンタクトレンズの販売、医療用栄養食品の販売、合成甘味料・ダイエット食品の販売、鉄アレイなど運動用具の販売、患者の移送費(単なる送迎・帰宅)、患者の求めによる24時間の看護・介護、臨床心理士による相談、医療と無関係のソーシャルワーカーへの相談(退院後)、聴覚障害者の手話通訳、松葉つえの貸与料、外来の特別診察室の使用料



 このほか、精神科病院や療養型の病院では、患者から手持ちの金銭を預かり、「小遣い管理料」を徴収することがよくあります。1日数十円から200円程度で、月にすると、けっこうな額です。厚労省保険局は明確な見解を示していませんが、社会・援護局精神・障害保健課は精神科の病院に対する指導として「一律に患者全員の金銭を管理するのは許されない。預かる場合は約定書を交わし、適正な料金で、原則として個人別の口座を設けて管理し、患者や家族から要請があれば速やかに収支状況を示す必要がある」としています。

 いろいろな保険外費用について、「おかしな名目だ」「納得できない」「金額が高すぎる」というふうに感じたら、地方厚生局か、その出先の事務所(都道府県ごとにある)に尋ねて下さい。保険診療のルールの問題なので、保健所ではありません。

 ルール違反と思われる場合や、納得できない場合は、払わないことです。すでに払った場合は厚生局に、医療機関への是正指導、費用返還の指導を求めましょう。


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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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