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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

挫折感や不満…「お産トラウマ」の解決法とは?

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ズーラシアで自分でベビーカーを押す娘

 10月に入り、娘は2歳9か月になりました。とうとう長らくお世話になっていたベビーカーをほぼ卒業しました。身体能力的には十分歩けるはずなのに、手をつないで歩くという移動を嫌がっていた娘。ベビーカーに縛り付けるか(かなり嫌がる)、抱っこでの移動がメインとなっていましたが、ようやく歩いてくれるようになりました。石垣の間から生える雑草や小動物に興味を引かれながらのゆっくりとした移動ではありますが、おかげで腰痛がだいぶ改善しました。ただし、かなり時間に余裕を持って行動しなくてはいけませんが。

四つに分類されるトラウマ

 先日、NHKの「あさイチ」という番組で「お産トラウマ」というテーマを扱っていたそうです。私は直接それを視聴することができなかったのですが、それを見た医療従事者がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で話題にしていたので、そこから内容を知りました。

 「お産トラウマ」とは出産という体験が心理的なトラウマになってしまうことで、(1)安産を目指して妊娠中から努力したのにかなえられなかったという挫折感、(2)陣痛の間に放っておかれたなど医療スタッフの対応に対する不満、(3)会陰切開や帝王切開、陣痛促進剤などの医療処置が納得するいとまもないまま行われたこと、(4)陣痛がきて車で病院に向かう際に、夫がコンビニに寄った、しゅうとめに嫌みを言われた、など家族の対応――の四つに分類されていたそうです。

 一つ目の「努力したのに思い通りにならなかったという挫折感」については、妊娠中の努力(体重管理、食生活、運動、冷え対策)で安産を勝ち取れる(事実ではありません)であるとか、出産はコントロールできるという考えを医療従事者の指導やその他の情報から持ってしまうと、思い通りにならなかった際に挫折感を抱くことになります。妊婦さんには、出産は自分でコントロールできるものではない、安産は努力のトロフィーではないということを認識していただければと思います。

 二つ目の医療スタッフのケアに対する不満については、当然のことながら改善されるのが望ましいと思います。妊婦さんを不安にさせないきめ細かいケアだけでなく、妊娠出産や母乳育児について間違った情報を与えないという点も大事だと思います。しかし、このブログをいつも読んでくださっている方ならご存じのように、お産の医療現場は慢性的に人手不足です。その背景には安全神話が根付いたことによる訴訟の増加や、母体の命を救えなかった医師が逮捕されたという大野病院事件などがあります。そういったことにも番組で触れてほしかったと思います。

 三つ目については、医療行為をする際の事前説明は極力行われるべきだと思います。ただ、実際の臨床で感じるのは、会陰切開や陣痛促進剤について必要以上にネガティブなイメージを持っている方が多いということです。両者とも、必要がなければ基本的に行わないものです。会陰切開は元気でないサインを出している赤ちゃんを早く出してあげたり、外陰部が肛門まで裂けるのを防いだりするために行います(どこそこならば切らずに産める、というものでもありません)。陣痛促進剤も、きちんとした使い方をすれば安全で、これのおかげでちゃんとした陣痛が得られて帝王切開をせずに済んだという人はかなりたくさんいると推測されます。

 帝王切開については「帝王切開ママの敵『楽だったわね』と侮辱・自責」という記事に書きましたが、れっきとしたお産です。医療に頼らない「自然なお産」を至上とする人たちがこれらの医療行為についてネガティブキャンペーンを行っているのは知っていますが、必要と認められたときはメリットの大きい処置だということも分かっておいていただきたいです。

 四つ目についても結構よく耳にしますが、夫だけでなく実親、義理の親を含めて妊娠中に妊娠出産や母乳育児について偏見を払拭し、学ぶ機会を持てればいいのかも知れません。

出産の満足度、かなりの部分占める「母子の健康」

 その番組では、「お産トラウマ」の解決法として助産院の「感動的なお産」が紹介されていたそうで、落とし所がなんとも「いつものマスコミ」的で残念でした。安全神話でありがたみを忘れているのかも知れませんが、出産の満足度のうち、かなりの部分を占めるのは「母子の健康」です。元気でお産を終え、元気な赤ちゃんを抱く。これ以上に大切なものなどあるでしょうか。緊急時の対応に搬送というタイムロスが避けられない助産院出産を「お産トラウマ」の解決法として挙げるには矛盾を感じます。また、助産院出産は出産全体の1%程度ですので、視聴者がみんな助産院出産を求めても到底叶えられませんし。問題提起は面白いのに残念だと感じました。

 妊婦さんがお産をいい経験だったと思えるよう、医療側としては、病院出産をよりきめ細かく、できる限り生理的で身体能力をかせるものにすることが大切だと思います。妊婦さんや家族としては、出産をコントロールできると思わないこと、医療行為をネガティブに捉えずに、必要な場ではメリットの方が大きいということを認識していただきたいです。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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7件 のコメント

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本当に『トラウマ』と言えるのか

ゆり

 私もあさイチのお産トラウマ特集を観て、違和感がありました。 確かに医療従事者からの言葉や不安な中放っておかれること、近親者の言葉や態度に傷つく...

 私もあさイチのお産トラウマ特集を観て、違和感がありました。
 確かに医療従事者からの言葉や不安な中放っておかれること、近親者の言葉や態度に傷つくことはあるでしょう。そこに改善を求めたい気持ちも分からなくはありません。
 でも、それって母子共に安全に産まれてくるお赤ちゃんが元気に産まれてくるのは当たり前、という感覚が前提にあるからわきおこってくる気持ちなのではないでしょうか。
 私は妊娠8ヶ月のとき、急にお腹の中で赤ちゃんが亡くなってしまいました。赤ちゃんが亡くなると、バースプランどころか赤ちゃんはゴミ扱いでした。陣痛中は一度も助産師が見にこず放置され、産まれた赤ちゃんともまともなお別れもできず、へその緒一つ残すことも出来ませんでした。
 お産トラウマとか、甘ったれたこと言う前に、赤ちゃんの命があることに感謝して欲しいです。

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「想定外を想定内に」

臨月の妊婦です

私もこのお産トラウマ特集が問題提起はいいのに、解決法として示唆されているお産の姿が解決法になっていないのではと思えてなりませんでした。「妊婦自身...

私もこのお産トラウマ特集が問題提起はいいのに、解決法として示唆されているお産の姿が解決法になっていないのではと思えてなりませんでした。
「妊婦自身が、お産についての想定外を想定内にしておく」とかいいことも言っていたのに、本当にもったいない。

私は現在39週の妊婦ですがなかなか赤ちゃんが下に降りて来ず子宮口も硬い上に、子宮内で赤ちゃんがあまり大きくなっていないので、赤ちゃんの状態が良いうちに予定入院して陣痛促進剤を使って産むことが決まりました。場合によっては、緊急帝王切開の可能性があることも説明されています。

「バースプラン」を立てることが一概に悪いとは思わないけど、バースプラン通りにいかないリスクは我々妊婦もあらかじめ覚悟しておく必要があるなと実感しました。

私は患者の側の立場ですが、予定入院だからあらかじめここまで説明を受けられたものの、一刻を争う状況で丁寧な説明を医者に求めるのも酷なのだろうなと推測しています。

医療の助けが必要なお産を控えた当事者としては、助産院で家族全員の立会いの下「感動的な」自然分娩をしたケースよりも、いきなり緊急帝王切開を告げられても自分のお産に満足できた方や、家族が立ち会えなくても乗り切った方の経験談を聞きたいです。

それこそが「想定外を想定内にする」ことではないでしょうか。

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すごい経験をしたと自信持ちましょうよ

まみぃ

NHKのあさイチを見ていて、怒りのメールを番組に送りました。まず、出産に点数をつけることがおかしい。あきれました。切迫早産で入院(海外旅行出発1...

NHKのあさイチを見ていて、怒りのメールを番組に送りました。
まず、出産に点数をつけることがおかしい。あきれました。

切迫早産で入院(海外旅行出発1週間前にキャンセル)。
看護師さんに嫌味を言われたこともあった。
GW中の出産になり、ほとんど1人にされた。
取り上げてくれたお医者さんは初対面。
出産した日の夜は、痛みとこれまでに体験したことのない経験による恐怖で震えた。
生まれた子供は2日目に原因不明の発熱があり、すぐさま小児科に入院と、トラウマになる要素たっぷりの出産を経験しましたが、なんのトラウマもありません。
子供が生まれてくれた、それで十分ではないでしょうか?
妊娠出産は思い通りになるものではありません。
世の中思い通りにならないことだらけではないですか?
自分の努力で何とかなるのはほんの少しのこと。
その中でどう生きていくか。自分の努力次第で理想的な人生が送れるというのは奢りではないでしょうか。
誰かがなにかをしてくれないとか、周りのせいにしている限り本当の幸せはないと思う。
生きていくのに努力は当たり前でしょう。親がそんなに甘い思いでいて、これからの時代を生き抜いていく子供を育て上げることができるのでしょうか?

ちなみに、人が言葉を発する裏には、いろいろな感情があると思います。
帝王切開を批判することを言った人のその心の中には、
もしかしたら姑さんとうまくいっていない心の発散があったかもしれない。
批判するという行為で、自分の存在を確認しているのかもしれない。
だから、人から批判を受けたからと言ってストレートにショックをうけたりせず、「はいはい。ご批判ご苦労様」くらいで受け流しましょうよ!
トラウマになるような経験を乗り越えた自分に自信を持てばいいのに!

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