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石井苗子の健康術

yomiDr.記事アーカイブ

性に依存して生きていく人々の治療

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(性依存症の治療は、日本にあるのですか?)

 私のブログはあと1回で終わりです。まだ書きたいことが沢山あるのですが、今回はこれまで書いたことがなかった事をご紹介しようかと思います。

本当に直したいこと

 私たちの心療内科は主に、日常生活の中にあるストレスから発生する身体的苦痛を緩和する仕事をしています。

 人は身体的疾患についての治療やリハビリについては積極的で、生活習慣を見直したり、予防に取り組んだり、同じ病にかかった方と一緒に予防されるグループもあります。

 これが心の病になると、逆なのです。

 まず積極的な治療にいらっしゃらない。自分でストレスを押さえこんで、なるべく知られないようにしていたり、ご家族も元々そういう性格なのだろうと決めつけたりしまったりしがちです。ところが、なにか出来ごとが起きたり、身体的な異常が出てきたりしてくると、急に心の病の治療の重要性に気付かれる場合が多いのです。

 私は10年間、心療内科で働きながら、人は精神的な問題の方の治療をもっと望んでいるのではないかと思うようになりました。臓器別に医療機関があるように、心の病も科に分かれて治療してくれればいいのにと。

 しかしそう簡単なことではありません。

 心の病にMRI(磁気共鳴画像)のような便利な機械は残念ながらありません。心の病は、証拠(データ)が明確にならないことが多く、早期発見が難しいのが現実です。そしてなによりも、ご本人から治療の納得を得るまで時間がかかります。


問題がおこらなければ、わからない

 出来ごとがあって初めて治療にかかると書きましたが、「なんらかのストレスが原因です」では専門的なアドバイスとは言えません。なんのストレスがどう本人にとって問題なのか、その具体性が必要なのです。そこが正確に把握できなくては、個人の苦痛と起こった出来事を関連づけて考えることができません。

 薬の治療が難しい原因もここにあります。

 精神疾患の場合、ご本人がずっと心の奥底に抑え込んでいたものがある日、犯罪行為と結び付いてしまうケースがあります。たとえば中・高校生のような未成年が「下着盗み」をしたとしましょう。こうした出来ごとは親の方が驚愕(きょうがく)する事が多いのですが、専門家から見ると、むしろ親や学校側が騒ぎすぎて問題をこじらせてしまうケースもあります。早期発見とまでは言えないですが、問題解決にまだ時間的余裕があります。

 「性的ストレス」が大人になるまでくすぶっていると、衝動的な感情が大きく膨れ上がっていき、成人してから性的犯罪やDV(ドメスティック・バイオレンス)、凶悪犯罪へと発展して行く場合もあります。しかし周囲はそれまで気付かずにいたり、起こった事件に初めて愕然(がくぜん)とすることが多いものです。しかしこうなってから治療を求められても、難しくなっていきます。個人が犯罪に至るまでの経過時間が長いと、ストレスが何であったかを掘り起こしていくまでの時間がかかります。

 これからの日本社会は、こうした特殊な治療も含めて、心の病の治療を専門的に健全化していくべきだと私は思っています。


医療機関での性犯罪および性依存症の治療

 日本が性犯罪者の治療に、何もしないできたわけではありません。2005年に、法務省は警察庁に受刑者の出所予定日や移住予定地などの情報を提供するよう義務付けました。2006年からは「性犯罪者処遇プログラム」が始まり、年間約500人の性犯罪者が出所前に医療機関で治療のプログラムを受けています。2012年には、「刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯などに関する分析」が発表され、受講しなかったグループに比べて受講者は再犯率が低いという結果が出されています。

 再犯防止の難しさは、受講プログラムを終えたからといって、以前と同じ生活ができないところにあります。

 たとえば、がんが再発しても本人のせいばかりとは言われません。しかし性犯罪者の場合、治療と称する処遇プログラムを受講しても、また犯罪を起こせば「再犯」と言われます。同じ病でも「再発」と「再犯」では、周囲の受け止め方が違って当然でしょう。

 アルコールやギャンブルもそうですが、何かの依存症の場合、普通の生活に戻った時に、二度とそこに近寄らずにすむような生活の術を身につけなくてはならないのです。そうしないと、「再犯」になりやすいのです。ところが周囲を眺めれば、飲酒もギャンブルも性的衝動も、ごく普通にバランスよくコントロールして生きている人がいるわけですから「どうして私だけが度を超えてしまうのか」という気持ちになるのは、充分理解できます。しかし、再びその世界にのめり込めば、また犯罪につながってしまうのがこうした依存症の病です。

 治療プログラムを通しながら、時間をかけて自分をよく知り、衝動をコントロールする方法を身につけていかなくてはなりません。


日本における薬物治療

 現在のところ日本では、性犯罪者への薬物治療は「医療」として認められていません。薬物として許可されているものはないということです。

 上記にある治療プログラムを受講するには、ある程度の知的能力が必要だと言われています。従って、性犯罪者の中でも、ハイリスクでプログラムの理解力に欠けると判断される人については、抗うつ薬のSSRIや抗精神病薬が使用されることもありますが、これに関しては非人道的な行為であるといった反発が存在しています。人間が本来持っていて当然である性的欲求を薬で抑制することの是非が論点になっています。しかしながら、服薬効果が不十分な場合は保険適用でないホルモン治療を利用する場合も現実的にはあり、治療者にとって経済的負担につながることも現実的には起きています。

 危険ドラッグは最近になって問題が浮き彫りにされてきた感じがありますが、薬物依存症の治療より性的依存症の治療は遅れてといえるでしょう。

 最近は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用した性犯罪も増えてきています。こうした時代の変化にともない、依存症の治療を専門とする機関を今後は積極的に作っていくべきだと思います。今のところ、2010年に設立されたNPO「性障害専門医療センター」が法務省へ薬物療法導入の法制化を提案していますが、いまもって見送られたままになっています。

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石井苗子さん顔87

石井苗子(いしい・みつこ)

誕生日: 1954年2月25日

出身地: 東京都

職業:女優・ヘルスケアカウンセラー

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3件 のコメント

もうお仕舞いなんですか

めざめたじいさん

 参考になるブログでした。コメント出来るのも魅力で、意見交換を楽しめました。 今回のタイトルは、病気でなくとも、ほとんどの人が何らかのかたちで性...

 参考になるブログでした。コメント出来るのも魅力で、意見交換を楽しめました。

 今回のタイトルは、病気でなくとも、ほとんどの人が何らかのかたちで性に依存しているともいえます。

 性に興味をなくすと精気がなくなります。幾つになっても、異性に対しトキメキを忘れないようにしている者です。

 福祉介護をしている友人は、80近い女性でも、入浴の時が1番幸せそうだと言います。デリケートゾーンを洗ってあげると、顔もほころびうっとりするそうです。

 性に関しては、病的とそうでないときの区別が難しいと思います。例えば、性を扱った文学でも芸術とみるか、猥褻とみるか、裁判官も頭を悩ませる問題です。

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正直精神科医はよく分からない

東77

57歳の現役時、会社で大変なことに巻き込まれ、夜布団についても眠れない日が3か月ほど続きました。そこで人間ドックに行ったら3cmの腎臓がんが見つ...

57歳の現役時、会社で大変なことに巻き込まれ、夜布団についても眠れない日が3か月ほど続きました。そこで人間ドックに行ったら
3cmの腎臓がんが見つかり摘出しました。相前後して職場近くの大学病院の精神科にかかりました。ただ仕事のことでのストレスは話しませんでしたが不眠だけを話し、安定剤と睡眠薬をもらいました。定年後は自宅近くのクリニックへ通って、通算20年くらいになります。
ここ2~3年は安定剤をやめ眠剤だけにしています。
石井さんも書いているように、精神科は問診だけで数値などが出ないため、「その後いかがですか」としか聞かれない。
これは病そのもの特徴であるからやむを得ないのかもしれないが、これだけ医療が進んだ現在、心の病やストレス度をメカニカルに測れる機械でもできてほしいと思う。よくあるペーパーテストでは、記入者の思いが入ってしまい、正しくは出ないと思う。例えば血液検査などで、読める数値が発見されてほしいと思う。アルツハイマーなどはMRIなどで、多少スカスカで判断できるようだが、20年も通院して、「その後いかがですか」ばかりで、答えようがなくなってきた。その間に心筋梗塞や前述の腎臓がん、5年前は大動脈解離と大動脈瘤で人工血管に置き換え、今年の1月には原因不明の脳出血があった。道路を歩いていて歩行者や電柱にぶつかってMRIを取って判明した。ストレスや薬の飲みすぎは影響ないのだろうか?

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一刻も早く対応して欲しいものです

えりゅ

性犯罪のほとんどは、「性的依存症」という“病”によって引き起こされるということなのでしょうか。一刻も早い治療方法と早期発見手段を望みます。この“...

性犯罪のほとんどは、「性的依存症」という“病”によって引き起こされるということなのでしょうか。
一刻も早い治療方法と早期発見手段を望みます。

この“病”による被害は、大きすぎます。
被害に遭った人々が失うものも大きすぎます。

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