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動き出す再生医療(3)細胞から軟骨、耳や鼻修復へ…高戸毅氏

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高戸毅(たかと・つよし)さん 東京大学医学部口腔外科教授

 東京大医学部卒。兵庫県立こども病院形成外科勤務などを経て、1996年から現職。同大病院ティッシュ・エンジニアリング部部長、同病院22世紀医療センター長などを兼任。日本再生医療学会理事。専門は骨・軟骨再生など。


東京大学医学部口腔外科教授の高戸毅さん

 ――先生が再生医療に関心を持ち始めた経緯を教えてください。

 私は、病気の子どもが治療を受けて元気になる姿を見るのが大好きです。1980年、兵庫県立こども病院形成外科に赴任し、生まれつき耳の形成が悪い「小耳症」の子どもさんに多く出会いました。命にかかわる病気ではありませんが、他の子どもと異なる容貌から、いじめの対象になるかもしれません。心配する両親の姿を見て心が痛みました。

 一般的な治療は、患者自身の肋軟骨ろくなんこつを使って耳を再建する手術です。ただし、肋軟骨は量に限りがあり、採取した場所の陥没や傷も残ります。患者の負担が少なく、耳を再建する治療法はないのか、と研究を始めました。この思いが、私の骨・軟骨再生研究の原点です。

 まず、成功させたのは、患者の骨のCT画像をもとに3Dプリンターを用いて作製したオーダーメイド人工骨(CT-bone)です。東京大学工学系研究科バイオエンジニアリング専攻教授の鄭雄一先生らとの共同研究の結果です。外傷や手術で顔の骨の一部が失われた患者に移植する臨床研究も行いました。この人工骨は今、薬事承認を受けるための申請を行い、承認を待っている段階です。


 ――今、とりわけ力を入れている研究は何ですか。

 軟骨の再生です。小耳症の患者さんに対する耳の修復につながる研究です。骨は再生能力が高く、比較的多くの場所から持ってきて移植することが可能です。しかし、軟骨は、いったん損傷すると再生しません。また、体内には少量しか存在せず、他の部位から持ってくることが難しいのです。だからこそ、患者さんの期待が大きい分野です。

 私たちは、耳の軟骨細胞を使ったインプラント型再生軟骨の作製に成功しました。ほんの少し耳の細胞を採取して4週間培養し、約1000倍に増やします。患部に移植するために、長さ約5センチ、横約6ミリ、厚さ約3ミリの縦長の形状にしました。

 生まれつき唇や口蓋に裂け目ができている「口唇口蓋裂」の患者さんは、鼻の変形を形成することも非常に重要です。2011年、国の承認を得て、鼻変形がある口唇口蓋裂患者さんの鼻背に、このインプラント型再生軟骨を入れてきれいに建て直す臨床研究を行いました。将来は、子どもの時に1回手術すれば、成長に伴って再生軟骨も成長すると見られるので、従来のように何度も手術を繰り返す必要がないと期待されます。

 そのほか、気管、膝関節や耳における軟骨再生の研究も行っています。気管は、気管切開した後やがんや外傷による気管軟骨欠損に対し、のどの穴を塞ぐ治療です。膝関節は、変形性膝関節症により軟骨がすり減った患者さんの治療です。私の原点である小耳症の患者さんへの治療にも、このインプラント型再生軟骨を使えるようにしたいですね。

 一方、膝関節を切除したブタにiPS細胞を移植して関節を再生させる実験に世界で初めて成功しました。iPS細胞を使った再生医療も期待は大きいです。軟骨には血管が走っておらず、他人の細胞を移植しても拒絶反応はないとされていますので、他人の細胞を使った再生医療軟骨製品での治療が可能です。


  ――これから、どのような研究を行いたいですか。

 歯科分野に関心があります。歯が抜けると歯槽骨もやせてしまい、インプラント治療も受けられず、困っている高齢者は多い事態です。インクジェット・プリンターの技術を利用して組織や臓器など3次元の生体組織を作製する新技術を「バイオプリンティング」というのですが、この技術を使って歯槽骨を再生させたいと思っています。

 歯槽骨を再生させる研究は国内外で行われていますが、実は、安定した治療結果が得られていません。単に骨を移植しても、それを包む軟部組織も一緒に再建されていないと、骨はやせてきてしまうのです。私たちは、有効性の高い手法を開発したいと思っています。

 糖尿病患者の足にできた潰瘍、寝たきりの人の褥瘡じょくそうなどを治すため、治りにくい創傷皮膚の再生医療も研究しています。

 このような高度な技術は日本が得意とするところです。医療立国・ニッポンと呼ばれるために、私たちの再生医療研究が役に立てば、と思っています。

 私は臨床医として常に患者と向き合い、どのような医療ニーズがあるかを理解しています。高齢化に伴い、関節や歯の病気などを患う患者さんは増えてきますよね。そこに再生医療技術を生かしたいです。もちろん、小耳症のお子さんに喜んでもらえる治療法を早く確立したいですね。

 
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