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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

出産は自然淘汰か? 危機管理ずさんな助産所での死

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サンシャイン水族館で大はしゃぎです

 先週、夏休みを取って家族でハワイ旅行に行ってきました。ホノルルのあるオアフ島ではなくキラウエア火山のあるハワイ島をメインに行ったのですが、プールでヘトヘトになったうえ、かなり日焼けしましたが、全員エンジョイできました。昨年11月に行ったときはベビーカーを多用していたのですが、今回はなんとか歩いてもらい、成長を感じました。

 先週の報道です。

助産師書類送検、緊急時の備えずさん…神奈川

 神奈川県相模原市南区の「のぞみ助産院」で、出産後に大量出血した女性を救急搬送の遅れから死亡させたなどとして、女性助産師(69)が16日、業務上過失致死と医療法違反の疑いで書類送検された。

 助産師は医療法に反し、緊急時の嘱託医療機関を決めていなかった疑いもあるが、こうした助産所を行政が把握しきれていない実態も明らかになった。

 県警捜査1課などによると、相模原市中央区の女性(当時33歳)は昨年4月27日午後11時25分頃、同院で次男を出産、直後から腹痛を訴えた。

 出産時の出血は通常、0・5リットルを超えると危険とされるが、女性は1~1・5リットル出血。しかし助産師は、通常のお産でも出る血液交じりの分泌液と思っていたといい、嘱託医師に相談しなかった。翌28日午前2時半頃、女性の血圧や脈拍を測定して初めて深刻さに気づき、119番したという。

(2014年9月17日 読売新聞)

水中出産で死亡、事件の背景に多様な問題

 昨年4月に3人目の子供を助産所で水中出産した女性が、出産後に大量出血のため死亡したという報道です。助産所が無許可であったこと、医療機関との連携が不十分であったことなどが問題視されていますが、この事件の背景にある問題は多様のようです。

 別の報道で、「のぞみ助産院」の院長が、記者の「今思うと救急車を呼んでいればよかったのでは」という質問に対し、「早く呼んでおけばよかったなら、お産なんかしない方がいいんですよ」と答えているのを目にし、憤りが沸き起こりました。以前、吉村医院について書いた「死は悪いことではない!?『自然出産』に違和感」という大反響だった記事にも書きましたが、原理主義的な自然出産信奉者の中には、「出産の危険に負けてしまうものが死ぬのは仕方のないこと」という考えの人がいるようです(今回問題になっている助産院は「水中出産」という人類にとって非常に「不自然」なお産を行っているので、「自然出産」を信奉しているわけではないようですが、現代医療は悪者扱いしているようです)。そういう人は、「医療なんかなくても昔はみんな産んでいた」「それで命を落とすような人はお産をする資格がなかったということだ」というように、出産を「自然淘汰とうた」と考えている優生思想の持ち主だと私は思います。

命救えなかった時に優生思想的な発言、理解できず

 優生思想も考え方の一つだという見方もできなくはないのかもしれません。しかし、私も現場で出産に携わっていますが、自分が主として携わった妊婦さんの命を救えなかった時に、優生思想的な発言をするというのは理解できない感覚です。

 出産で母子が危険な状況になりえるのは、何も助産所だけではありません。医療体制の整った大病院でも、母子の命を救えない状況は起こり得ます。不可抗力としか言えないこともあり、たとえ出来る限りの医療を施しても全ての命を助けられるわけではありません。そんな時、産科医療従事者はとても落ち込みます。何度もシミュレーションしなおし、本当に助かる可能性がなかった症例だったのか何度も皆で話し合います。そして、ご遺族に対して力が及ばず申し訳ないという気持ちを持ちます。

 よそから「助けられなかったなんてミスがあったはずだ」と言われれば、手を尽くしても助けられないこともあるため反発することもありますが、ミスのあるなしではなく、携わった方を救えなかった時に無力感とともに申し訳なさが湧いてくるのが自然な感情だと思うのです(もしそこへ刑事罰や紛争が入り込めば、そういった気持ちは別のものに上書きされてしまうと思いますが)。

 今回の件に関する一連の報道をみる限り、「のぞみ助産院」の院長からはそのような気持ちが感じられませんでした。専門職として出産の危険性を甘くみていたこと、多くの母子の命を救っている医療のありがたさを理解していないことは、正直なところ今更驚くものでもありませんが、このことには驚きを禁じ得ませんでした。

 こちらのブログでは何度も自然出産礼賛の落とし穴や産科医不足について論じてきましたが、今回の事件に触れて、改めて妊娠出産は危険と隣り合わせであること、イメージ戦略に成功しているものの危機管理に問題のある産院を選ぶ危険性についてもう一度認識していただければと思います。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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8件 のコメント

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職分と個性と誠実さ サッカードクター

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

サッカードクターセミナーで代表ドクターのお話を伺ったり、代表専属コックさんの本を読んだりすると、誰もが認めるプロの中のプロは気遣い、心遣いのレベ...

サッカードクターセミナーで代表ドクターのお話を伺ったり、代表専属コックさんの本を読んだりすると、誰もが認めるプロの中のプロは気遣い、心遣いのレベルが違うと気付きます。
肩書を超えたレベルですね。

そういうものに触れて、「そんな風になりたい」と思う人もいれば、「それは無理だ」と思って、別の個性や能力をまずは磨くのも人生の在り方だと思います。

長い人生の中で、育ってくる能力や性質もあれば、いつまでも変わらない個性もあります。
医療が高度化している現在、サービスを受ける側からするとわかりやすい専門医制度も、取得する側からすれば、出産育児などとの兼ね合いなどもあり大変です。

代表ドクターもご家族や職場の方々のサポートやご理解に対して感謝の言葉を並べられてましたが、全ての医療者がそれらに恵まれるわけでもなければ、気づく余裕があるわけでもありません。

本文の産科における問題と似た案件には、整骨院と整形外科などがあります。

現場経験の多い真面目な助産師はたいていの新人産婦人科医より優秀ですし、ベテランの不真面目な医師よりよく勉強しているコメディカルさんも目にします。

資格と実務能力と誠実さが入り混じって、判断が難しいです。
専門家同士でさえ能力や人格の判断は難しいですが、ましてや一般の方では区別がつかないでしょう。
それが人情というものですから。

接遇や接客とかが注目される時代ですが、自分の能力を弁える誠実さもまた大事です。
まあ、そのへんは本当に難しいですね。
職分を超えてやらなくてはいけない実際の中で救急救命士さんの仕事も条件付きで拡大されてますし、今後も色々変わっていくでしょう。

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地方と都会のハイブリッド医療のあり方

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

地方都市でのバイトや学会に行くと、改めて直接医療以外のインフラや地域住民の意識まで含めて医療だなと感じます。産婦人科に限った話ではありませんね。...

地方都市でのバイトや学会に行くと、改めて直接医療以外のインフラや地域住民の意識まで含めて医療だなと感じます。
産婦人科に限った話ではありませんね。

地域医療まで高度医療を行きわたらせるのは近未来としては現実的な話ではありません。
また、莫大なコストを抱えてしまうと、そのことが医療自体を歪めかねません。
(真面目な放射線科診断医や病理医を追い出しにかかる病院もあるという噂を聞きました。)


そんな中で、今後は地方と都会の医療提携が進むのではないかと睨んでいます。

普段のかかりつけ医が遠くては困ります。
かといって、専門医の受診がないと困る場合もあるので、必要に応じた専門医や患者の移動が必要になります。
その程度や頻度も考慮に入れる必要があります。

例えば、高難度の手術など、医師だけでなく、コメディカルや施設なんかも高度なものが要求されるので、都会の中規模病院に入院してから、手術前後を大都会の病院で過ごし、リハビリなどを中規模病院で済ませてから地方に戻るというプランは考えやすいですね。

インドなどではメディカル・ツーリズムが有名ですが、日本国内でも形を変えてきれいにやれるのではないかと思います。
日本の国民皆保険ならではの形も出てくるかもしれません。


その時に陰の主役になるのが保険会社や旅行会社かもしれません。
本人だけでなく、家族の移動や宿泊も大変ですからね。
それでも、医療者や医療インフラを丸抱えするよりは効率的なのではないかと思います。

勿論、地域の文化及び近隣都市の規模や距離にも左右される話だと思います。
地域の産婦人科を高給にして医師を呼んだけど、地域住民の反発で立ち消えになった話を最近見ました。

そして、これは専門医制度の未来とも結びついていて難しいのですが、字数制限もありますので、この辺で。

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ハイリスク出産の仕分けとコントロール

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

テレビは普段見ませんが、たまたま目にしました。ハイリスク出産は全身疾患の要因がメインの場合と子宮や胎児の要因がメインの場合に分かれると思いますが...

テレビは普段見ませんが、たまたま目にしました。

ハイリスク出産は全身疾患の要因がメインの場合と子宮や胎児の要因がメインの場合に分かれると思いますが、それらの区別や対応が善意に基づいて行われていかないとなかなか難しいですね。
この助産師は以前にも出血を遷延させて子宮摘出まで状況を悪化させたとありました。


産科医や助産師を支えるシステムやインフラも大事になってくるのではないかと思います。
個人の肩に責任を被せる状況が続けば、産科医の減少は免れないでしょうし、それを盾にとって産科の質が崩れればもっと大変なことになるかもしれません。


地域による人口構成やライフスタイルの変化、それに伴う個人の意識の変化がある以上、それを無視して、既存のシステムの崩壊に任せるよりも、守るべきラインをイメージしてそこを原点にシステムを構築していく方が現実的ではないかと思います。
各地域の一人常勤医より、中核都市に数人まとめた方が無難です。


普及までには時間がかかると思いますが、最先端のCTは単純レントゲン並みの被曝だそうですし、MRIは絶対に安全とまでは言えないものの被曝はありませんので、希望者にスクリーニングをすることで、負担の大きい不測の緊急事態をある程度減らせると思います。
遠隔診断や遠隔カンファレンスのサポートがあれば助かる産科医もいるでしょうか?

超音波診断は体には優しいものの、全体像が見えづらい欠点があるので、それこそ妊娠後期のMRIのT2強調像のみのスクリーニングなども検討してはいいのかもしれません。

ハイレベル画像診断医の育成は大変ですが、分野を絞って、詳細な診断まで要求しなければ、ある程度コントロールが効きます。
出産育児中の産婦人科医の仕事であれば、社会復帰後につながる仕事になるかもしれません。

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