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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

医療とお金(2)自己負担の減免という制度がある

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 生活に困ったときに医療を受ける方法。あまり知られていない制度が、まだあります。

 医療機関や薬局の窓口で通常1~3割を支払わないといけない一部負担金(自己負担)の免除・減額・猶予です。

 東日本大震災が2011年3月に発生したあと、被災者・原発避難者の医療は、自己負担なしで行われました。大震災だから超法規的な措置をとったわけではなく、以前から関係の法律に定められている災害時の減免・猶予規定を発動するよう、国が促したのです。

 当初は、国民健康保険や後期高齢者医療で実施した減免の全額を国が負担しました。12年10月から国の負担が8割になったため、宮城県内の自治体は13年度、いったん免除をやめたのですが、財政難になった保険者(保険の運営者)への支援を国が強化したのを受け、14年度から対象範囲を絞りつつ、再開・継続されています。


災害だけでなく、失業、事業の休廃止、不作・不漁でも

 勤め人が加入する健康保険や共済組合の場合、一部負担金の減免・猶予の対象になりうる特別の事情は「震災、風水害、火災その他これらに類する災害により、住宅、家財又はその他の財産について著しい損害を受けたこと」に限定されています(健康保険法75条の2、同法施行規則56条の2)。

 しかし、他の公的医療保険の場合、自己負担の減免は、災害に限りません。

 国民健康保険法44条は「特別の理由がある被保険者」について減額・免除・猶予を認め、どういうケースに適用するかの判断を保険者にゆだねています。

 適用基準が市町村ごとにまちまちで、そもそも要綱や規則を作っていない市町村もあったことから、厚生労働省は10年9月の保険局長通知で、減免した市町村に国が特別調整交付金を出して財政支援する際の基準を示しました。

 そこで示された減免・猶予の対象は、世帯主に次の事情が生じた場合です。

(1)

震災、風水害、火災、その他これらに類する災害により死亡し、 障害者となり、または資産に重大な損害を受けたとき

(2)

干ばつ、冷害、凍霜害等による農作物の不作、不漁、その他これらに類する理由により収入が減少したとき

(3)

事業または業務の休廃止、失業等により収入が著しく減少したとき

(4)

上記に類する事由があったとき


 以上のいずれかの理由により、収入が生活保護基準以下、預貯金が生活保護基準の3か月以下になった世帯について、3か月までの入院に減免を適用するとしています。ただしこれらは目安で、状況により長期の入院や高額の通院治療でも適用はありえます。収入や資産の厳格な調査は必要ありません。保険料を滞納しているときでも適用できます。

 この基準は最低ラインとして、どの市町村でも適用してほしい、これより広い範囲で減免をするのは市町村の自由だ――というのが厚労省の考え方です。

 通常は、国の基準に沿った減免額の5割を特別調整交付金として国が負担します(減免総額が全体の3%以上になった市町村は8割、東日本大震災の当初は10割)。

 後期高齢者医療制度でも、国保とほぼ同様に、都道府県ごとにある広域連合の判断で一部負担金の減免や猶予ができ、国から特別調整交付金が出ます(高齢者医療確保法69条)。

 介護保険制度、障害者介護サービスでも、同じように利用者負担の減免制度があります(介護保険法50条・60条、障害者総合支援法31条)。


自治体によって大きな格差

 厚労省の集計によると、2012年度に行われた国保の一部負担金減免は107万件余り、308億円。そのうち72万件、216億円が東日本大震災関係です。

 問題は、大震災以外の減免の実施状況に、著しい地域差があることです。

 都道府県別に見ると、まず多いのは宮城29万8443件、岩手2万8205件。これは国の定義より広い範囲の被災者や震災関連の生活困窮者に減免したからでしょう。その次は大阪1万4659件、広島2164件、熊本1059件、埼玉612件、神奈川401件の順で、13県は1ケタ、8県はゼロです。

 しかも、大阪の減免のほとんどは東大阪市と八尾市の分、広島は広島市の分です。これらの市は独自の基準を定め、わりあい広い範囲の生活困窮者に減免制度を適用しているからです。

 その一方で、まるで制度を使っていないか、住民に周知していない自治体がたくさんあるわけです。国保の財政を優先して、わざと不親切にしているのでしょうか。

 減免制度は、待っていても適用されず、自分から申請しないといけません。生活に困ったときは、医療機関のソーシャルワーカーなどにも相談して、減免の申請をやってみましょう。認められなかったら、行政不服審査請求や裁判をすることもできます。

 失業による収入の著しい減少も、先に述べたように減免の理由です。解雇や雇い止めだけでなく、病気のせいで職を失ったときも対象になりうるわけですから、利用できる人は意外に多いかもしれません。

 また、今のところ、多くの自治体では、災害と収入が急に減った場合しか、減免の対象にしていませんが、よく考えると、ずっと低所得の人にとって、医療費の定率負担は重いものです。特別な場合に申請して減免を受ける制度だけでなく、収入に応じて自己負担割合を定めるような制度も、検討してよいのではないでしょうか。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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