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認知症ケア「ユマニチュード」…患者目線で伝える優しさ

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見る、話す、触れる、立つ…四つの技術

ユマニチュードの講義をする考案者のジネストさん=池谷美帆撮影

 認知症ケアの新技法として注目される「ユマニチュード」。先月、国立病院機構東京医療センターの研修会を訪ねた。ケアを受ける人と行う人の関係性を意識すれば、優しさは「技術」として伝えられる――新鮮な驚きがそこにあった。

 周囲に当たり散らしていたおじいさんが、急に穏やかになる。看護師に体を拭いてもらうのを嫌がっていたおばあさんが、一転して笑顔に変わる。「ユマニチュード」の技術を使えば、相手の反応がこれだけ違うという実例が、次々に示された。まるで魔法だ。十数人の参加者からどよめきが起きた。多くが第一線の看護師たち。

 「車と人の洗い方の違いは何でしょう。そこに関係性があるかどうかです。それがなければ、物を洗うのと同じ」。ユマニチュードの考案者でフランス人のイブ・ジネストさん(61)が、大きなジェスチャーで語った。

 1979年、体育学の教師だったジネストさんは、病院や施設で高齢者の移動介助を手伝った際、認知症の患者に、かまれ、たたかれる経験をした。何か理由があるはずだった。「人とは何か」。その哲学的探究とともに、高齢者ケアの技法を探った。見る、話す、触れる、立つ――の四つを基本行動とする150以上の具体的な技術を生み、体系化した。日本には、2012年に紹介された。

 「見る」も、ただ見るのではなく、患者の視点をつかみに行く。いったん患者を通り越して前方に回り、目があう位置を見つける。正面から笑顔を近づけ、見下ろさない。

 患者の体を拭いたり、介護浴槽でシャワーをしたりする時は、自分の行為をずっと実況中継で「話す」。車イスを押す時は、片手を患者の肩に「触れ」、重みを伝える。「立つ」では、相手の動こうとする意思を最大限に生かし、両ひじを下から支える。

 説明を聞きながら、記者は初めて、自身が重い認知症だったらと想像した。

 視界の中心にいる人しか認識できない。何をされているのか、聞いてもすぐに忘れてしまう。そんな状態で、後ろから突然、声をかけられる。マスクをした数人の看護師に囲まれ、「動かないで、動かないで」と言われて体を拭かれる。これまで何とも思わなかった行為が、何か恐ろしいものに思えてきた。

 でも、残った感覚を通じてケアを行う人の存在を認識し、「自分を大切にしてくれている。優しい人だ」と感じることができれば、きっと安心だろう。

 ケアを行う側から考えるなら、コツさえつかめば誰でも、相手に「優しい」と思わせられる技術だ。病院や施設のスタッフ、在宅で身内を世話する家族らが、一生懸命ケアをしても拒絶され、疲れ果てている姿が頭に浮かんだ。その優しさを技術で着実に伝えられれば、どんなに報われることか……。

 心と形から入る武道の世界のようだ、と思ったら、ジネストさんがこんなふうに言った。「そう、剣道や柔道と同じ。ユマニチュー道ですよ」

 ジネストさんらが記した今年6月発刊の「ユマニチュード入門」(医学書院)は、看護・介護関連では異例の6万部に達している。(鈴木敦秋)

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 ユマニチュード 
 ユマニチュード 1940年代、植民地に住む黒人が自らの“黒人らしさ”を取り戻そうと始めた活動「ネグリチュード」を踏まえ、80年、スイス人作家が、人が“人間らしくある”状態をこう命名した。高齢者ケア技術の総称として使うジネストさんは、その理念を「相手の人間らしさを尊重し続ける状態」とする。
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