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前立腺がん…進行・再発に対応新薬登場

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 前立腺がんによる年間死亡者は約1万1000人。がんで死亡する男性の5%を占める。再発や進行すると治りにくくなるが、こうした病状に対応する新しい治療薬が、相次ぎ登場した。




男性ホルモン生成を抑制/がん細胞増殖防ぐ

 前立腺は、男性だけにある臓器で、膀胱ぼうこうの下にある。栗の実のような形をしており、精液の一部を作っている。この臓器に発症するのが前立腺がんだ。高齢になると発症率は高くなり、国内では、平均寿命が延びたことで患者は増加傾向にある。

 治療は、がんが前立腺にとどまるなど治りやすい場合は、前立腺や隣の精のうを摘出する手術を行ったり、放射線治療を行ったりする。特別な治療はせずに、様子を見ることもある。

 一方、がんが周辺に広がったり別の臓器に転移したりしている場合は、薬で男性ホルモンの分泌や働きを抑える「ホルモン療法」を行う。男性ホルモンの「アンドロゲン」が前立腺がんの増殖に関わり、病気を進行させるためだ。

 アンドロゲンには、精巣から分泌される「テストステロン」や、副腎で作られる「副腎性アンドロゲン」がある。これらを抑えるため、「LH―RHアゴニスト」や「抗アンドロゲン薬」などの薬を使う。

 だが、慈恵医大泌尿器科教授の頴川えがわ晋さんは「前立腺がんは、治療を行っても一部が性質を変化させて生き延びるやっかいながん」と説明する。このため、ホルモン療法を長く続けると治療効果が落ちてしまう。この場合、抗がん剤治療などを行うが、効果はあまり期待できない。

 今月発売された「アビラテロン酢酸エステル」(商品名・ザイティガ錠)は、こうした前立腺がんに対する新薬だ。精巣と副腎、さらに前立腺がんの計3か所で、男性ホルモンの生成に関わる酵素「CYP17」の働きを抑える。ホルモン療法が効かなくなった場合に、次の一手として使うことができる。

 従来、抗がん剤治療を行っても十分な治療効果が得られなくなると、それ以上は有効な治療法はなかったが、抗がん剤治療後でも効果が期待される新薬も登場した。

 今年5月に発売された「エンザルタミド」(商品名・イクスタンジカプセル)は、前立腺がんの細胞にある受容体と男性ホルモンがくっつかないようにする。男性ホルモンが、がん細胞の内部に届かなくなり、がんの増殖を抑える。

 一方、今月発売された「カバジタキセル」(商品名・ジェブタナ)は、新しい抗がん剤だ。がんの細胞分裂に関わるたんぱくにくっつき、その働きを抑えてがんの増殖を防ぐ。

 抗がん剤治療では通常、「ドセタキセル」という薬が使われているが、効果が得られなくなると、有効な抗がん剤はほかになかった。エンザルタミドもカバジタキセルも、臨床試験でドセタキセルによる治療を受けた患者に投与したところ、生存期間が延びるなどの成果が出た。

 頴川さんは「これまで手立てがなくなっていた患者さんに対する治療の選択肢が広がった。ただ、肝障害などの副作用が生じることがあり、体の状態をみながら薬の使用を検討していくことが大切だ」と話している。(利根川昌紀)

 
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