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石井苗子の健康術

yomiDr.記事アーカイブ

医師と患者のコミュニケーションギャップ

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(「熱中症」と「日射病」の違いは?の問いに…)

 医師・患者間のコミュニケーションが悪いと批判されることがあります。原因のひとつには医師の多忙があるでしょう。でも私はそれだけではないと思っています。 質問に対する医師の端的で短い受け答えと、患者が本当に知りたい情報の間にズレが生じている、いわゆるコミュニケーションギャップの問題が大きいと感じています。会話が成立しない原因は、医師だけの問題ではなく、患者側にもあると思います。自分の質問の意図を上手うまく伝えることができない、あるいは何を質問していいのかよく分かっていない場合が多いからです。

熱中症と日射病の違いを見分けるには

 たとえば、患者さんは「熱中症と日射病の違いを自分でどう見分ければいいでしょう。どんな症状になったら気を付けたらいいのでしょう」と質問せずに、「先生、熱中症と日射病は同じことですか?」と聞いてしまうことがあります。

 先日も70歳代の男性が「先生、熱中症と日射病は同じことですか?」と質問をしたところ、医師が「熱中症はもともと日射病などの総称なんですよ、失神を起こす熱失神のことを日射病と言ってましたが、それだけじゃなくて、熱けいれん、熱疲労、熱射病とか、他にも色々あって、気温が30度を超えるとこうした熱中症による死亡者が出てくることもあるんです」と答えました。これは医学的に正しい答えです。でも患者は、望んでいたものと違う答えが返ってきたため、黙ってしまい、それ以上の質問ができなくなっていました。

 もちろんネットで検索してご自身で勉強をするという方法もあります。私もそうなのですが、医師が目の前にいたらすぐに質問してしまい、自分に合った答えがすぐに欲しくなるものです。それが人間の心理というものでしょう。でも、それには質問上手にならなければいけないと思います。

 「熱中症」ということばは、ここ数年よく使われるようになりました。上記の医師の言うとおりで、気温が高い環境下で起こる似たような症状の「総称」として、広く使われるようになったのです。つまり暑さが原因で起きる症状は、日射病ばかりではないということです。つまり「同じことですか?」の質問には、「出てくる症状の違いはあっても日射病は熱中症という症状の中に含まれています」と答えると、「出てくる症状って?」と会話が続く、でも先生は時間に追われているのでつい、正解だけを言って終了してしまいがちになるのでしょう。

患者が本当に知りたいこと

 その70歳代の男性は、自分が昔よく聞いたことがあった日射病とどう違うのかを知りたかったのだと思います。

 医療従事者でなければ、「症状」と「病気」を明確に区別できる方は少ないと思います。熱中症で死亡者が出たと報道されれば、それはどういう病気で、昔の日射病とどこが違うのか気になっても仕方ないと思います。どうしたら自分が死なずにすむのかを知りたくなって当然だろうと思います。

 日射病は、炎天下で水分補給なしで激しく動くことで起こる脱水症状です。心臓へ戻る血液量が減少し、心臓が空打ちをしてしまい、そのままにしておくと失神を起こし死亡する場合もあります。日射病が熱失神と呼ばれるゆえんです。 日射病にかかると、まず「生あくび」が頻繁に出てきて、全身の倦怠けんたい感や吐き気が起こってきます。やがて頭痛や意識障害などの症状に変化していきます。

 これに比べて、高温多湿の中で長時間作業をしているうちに、大量の汗をかき、体内の塩分や水分が減り、体温の調節が利かなくなって起こる症状を熱射病と言いますが、これが最近多用されるようになった熱中症といわれている症状とよく似ています。 特徴としては、大量の発汗のあとで皮膚が冷たくなり、体温は低いのにじっとりと冷や汗をかいたような感じになっていき顔が青白くなっていきます。目まいや吐き気があり、診断すると脈は弱くて速く、自宅でけいれんを起こして倒れる方もいらっしゃいます。

 このように説明をしたら、患者側も関心を持って日常生活で気を付けることも出来ますし、むやみに熱中症におびえないでいられるでしょう。でも医師は、多忙であることと同時に、上記のような説明は自分の仕事ではないと思っているところもあるのではないでしょうか。

ヘルスコミュニケーション能力の重要性

 私が卒業した大学の医学部は、試験の正解と言われた答えを、どのように患者に正確に伝達するかという「ヘルスコミュニケーション」をトレーニングのひとつとして入れることになりました。

 「熱中症とは、日射病などの総称。熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つに分類され、気温が30度を超える場合、熱中症による死亡者が出てくることがある」という正解答を、目の前にいる患者が不安にならないように説明する。患者自身が何を心配して質問しているのかを探って、その人に合った答えを出す。こうした能力は、試験の答案を正確に書ける能力とは少し違うものがあります。

 その人の健康に関する心配事にどう答えてあげたら、その人が少しでも気楽になって帰っていけるかも、ヘルスコミュニケーションの才能のひとつにあります。これだけを聞くと、誰でもできる非常に基本的な能力のように思えます。

 ヘルスコミュニケーション能力が高い人は、健康に特化した会話が上手ということになりますので、カウンセリング能力の中における「同情」と「傾聴」とがはっきり異なるように、ヘルスコミュニケーション能力には、問題解決に導いていく能力が常に必要です。

 個人の集まりが集団、それが大きくなって大衆(マス)であるのなら、メディアのヘルスコミュニケーションにも気をつけなくてはいけません。「成人病」を「生活習慣病」という言葉に変化させていった点で、メディアの力が大きかったと思います。 あらゆる症状を総称して「熱中症」とし、猛暑の夏に「熱中症対策」として、自分は今日、暑いところで何時間何をしていたか、あるいは何をする予定かを考えて、洋服から水分補給の用意まで気を配らなければならないといったところから入り、車の中にいてもどうして水分補給が必要なのかまで具体的に説明して納得させることができるのが、ヘルスコミュニケーション能力にたけたヘルスコミュニケーターの仕事です。

 次回は、そのヘルスコミュニケーターが不在により、医師と患者にどんな問題が起こってきているのか、心療内科の現場からお伝えしたいと思います。

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石井苗子さん顔87

石井苗子(いしい・みつこ)

誕生日: 1954年2月25日

出身地: 東京都

職業:女優・ヘルスケアカウンセラー

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4件 のコメント

「正しい」言葉 理解力と状況での使い分け

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

以前、日野原先生のブログでもありましたね。文脈や状況による正しい言葉の使い分けは本当に難しいです。また、臨床では区別のつかない状況や複数の疾患の...

以前、日野原先生のブログでもありましたね。

文脈や状況による正しい言葉の使い分けは本当に難しいです。
また、臨床では区別のつかない状況や複数の疾患の合わせ技みたいな状況もありますし、しかも時間や双方の理解力の差もあります。

患者さんによっても、理解をしたがる人から、「なんでもいいから直ちに症状を止めることが治すことだ」と思い込んでいる人もいます。
そういう意味で臨床をやっていくということはとても難しいことだと思います。

患者さんによって正しい治療を実行してもらう手段が違います。
(点滴だって、患者さんが納得して協力してくれないと難しいのは小児科を想像すればわかります。)

そういう意味では一人の人間がすべてをカバーするのは難しいですし、各専門分野同様ある程度分業が必要になります。

あるいは、多職種との共同作業も含めて医療全体を見直さざるを得ないのかもしれません。

急速に進化し拡張する先進医療から現状の医療までを医師個人の努力に押し付ける無茶は結果的に不適切医療になって患者さんに帰ってくるだけではないかと思います。

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技術とプラトー 簡単で扱いやすいソフト

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

MRI学会に来ています。最新の技術で、画像診断の精度や速度が速まるとともに、ソフト面での開発も水面下で進んでいるようです。有用な技術でも、扱う人...

MRI学会に来ています。

最新の技術で、画像診断の精度や速度が速まるとともに、ソフト面での開発も水面下で進んでいるようです。

有用な技術でも、扱う人間にとって難しくては普及しません。
(医学の場合にはデータを扱う人間のファクターもあります。)

あたかも、パソコンがウインドウズやタッチパネルの技術で爆発的に広がったように、素人でも扱いやすいソフトがハードの爆発的な普及と一般化のベースになります。

ウインドウズが若者を使用者に変え、タッチパネルがそれでも苦手にしていたサービス被提供者の多くを使用者に変えました。
そういう動きがMRIのような専門分野でも進んでいくということです。

逆に言えば、技術がプラトーまで進んだことで、逆にヒューマンタッチのようなアナログの分野も再認識されるということですね。

撮像技師や放射線科医師が技術知識よりも、位置決めや接客技術や性格が大事になる分野が増えるということです。

あるいは就業者の性質や分布にも影響を与えるかもしれません。

勿論、放射線科や他科の医師にも変化を与えるかもしれません。

そして、それは患者と医師やコメディカルの関係をも変えるかもしれません。

現代は医療の爆発的な過渡期だと医療関係者にも認識していただければ弊害を多少は減らせるかもしれません。

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代々医者の家系か,突然の秀才医者か?

ドッキリ

 頭脳の善し悪しで医師のランクは付けられない,これは医療業界に限らず自身の業とした職業に対する謙虚な基盤たるものを継続して持ち続けることであろう...

 頭脳の善し悪しで医師のランクは付けられない,これは医療業界に限らず自身の業とした職業に対する謙虚な基盤たるものを継続して持ち続けることであろう.確かに人体の病気についての知識や治療技術は大切なのであろうが,車や家電製品,コンピューターなどの開発やメンテナンスのそれも,ややもすると人体どころの知識ではないかもしれない.
 それぞれの職業にもともと優劣があるなどと勘違いしていたということであろう.医師の前で会話が成立しにくいのは,医師自身がその専門知識は自信が独占しており,ましてや,素人の一患者に質問されることで瞬間湯沸かし器のような状況になってしまう事と同時に,患者も質問が更に枝分かれし,肝心のその時点での症状がどこかにいってしまうことも事実である.
 製品の不具合などでは,なぜ壊れるのですか!!とクレーマーとなるのだが,これが病気となると途端に勢いはなくなり,なんで病気になるのですか!などという人はない.これの答えは明白で,命を脅かすのではないのかという不安がそうさせるのであろう.
 経験上,医者の家系の医師は,幼少から良くも悪くも患者さんに対する接し方を学習しているであろうし,なかには地域に根ざした代々からの信頼に応えようという認識も極自然な流れとしてある.
一方,医療という業種に新たに参入している医師にとっては全ては自身が先駆者であること,知識,技術.経験,運営などのストレスのなか,会話がもたらす基盤に気づかずにいることもあろう.
 専門知識のない者が質問したいのは当たり前なのであって,素人に説明しても解かりはせん!!と上から目線でいるお店や,会社などの行きつく先はたかがしれている.素人さんだからこそ,噛み砕いて説明をし,適切な誘導をしてこそ次も利用していただくことが出来る,という,当たり前のことを傲慢にならずに展開してもらいたい.

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