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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

医療とお金(1)お金がなくても受けられる「無料低額診療」

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 お金が足りない。健康保険証を持っていない。そもそも保険に入っていない――。

 日本は国民皆保険、つまり国民全員が何らかの公的医療保険に加入することになっているのですが、さまざまな事情で医療機関を受診しにくい人も、まれではありません。

 生活費に困っていて、自己負担が多額になると払えない人。ホームレス状態の人。DV(配偶者間暴力)から逃げている人。刑務所を出たばかりの人……。短期滞在や不法滞在の外国人もそうですね(3か月超の適法滞在者は国民健康保険や後期高齢者医療の加入対象)。

 そんなとき、病気やけがをしたら、どうしたらいいでしょう。我慢していたら、よけいに状態が悪化します。医療を受けられる方法はないのでしょうか。

 生活保護を申請する? もちろん、それは重要な手段です。生活保護による医療扶助なら、自己負担はありません。医療扶助だけの受給が認められる場合もあります。けれども、すべての人が生活保護を受給できる要件を満たすわけではないし、受けるときでも、申請から保護の開始決定まで、ある程度の日数がかかります。

 重い症状が出たり、倒れたりしたら、救急車を呼んで入院する方法はあります。生活に困窮している人なら、緊急の生活保護か、行旅病人に関する法律が適用され、公費負担になります。とはいえ、それは、やはり最後の手段です。

 実はほかにも、生活に困っている人が医療を受ける方法があります。

 「無料低額診療」をやっている医療機関を探して相談することです。


全国に500か所以上

 無料低額診療は、社会福祉法で定められた第2種社会福祉事業のひとつで、医療機関が都道府県または政令市、中核市に届け出て実施します。

 厚生労働省社会・援護局によると、無料低額診療事業をやっている病院・診療所は、2012年度の集計で、全国に558施設。近年、数は増えています。すべての都道府県に一つはあり、とくに首都圏、京阪神、北海道、福岡県にはそれなりの数があります。

 代表的なのは、済生会の病院・診療所と巡回診療船です。恩賜財団済生会(社会福祉法人)は、もともと貧困者医療のために明治天皇が出したお金をもとに設立されたからです。済生会病院は、公的医療機関に分類されています。北海道社会事業協会(社会福祉法人)の病院も同様で、昭和天皇が皇太子時代に福祉のために出したお金が始まりです。

 民医連(全日本民主医療機関連合会)に加盟する病院・診療所も、無差別平等の医療という理念に立って、ほとんどが実施しています。医療生協や勤労者医療協会の医療機関も多く含まれます。歯科の診療に応じる施設もあります。

 社会福祉法人や財団法人の病院、宗教関係の病院、日赤病院などの中にも、無料低額診療をやっているところがあります。

 具体的には、「無料低額診療」と地域名を組み合わせてネット検索するか、各都道府県・政令市・中核市で社会福祉事業を担当している課に問い合わせてください。地元の福祉事務所や社会福祉協議会で紹介してもらうこともできます。


ソーシャルワーカーが相談に乗る

 無料または低額という場合、どういう範囲の人がどれぐらいの減免を受けられるのでしょうか。

 共通の基準はなく、実際の運用は個々の医療機関にゆだねられています。収入が生活保護基準の120%以下、あるいは150%以下といった目安を内部で設けているのが一般的で、実情に応じて柔軟に対応することもあります。

 実際にはソーシャルワーカーが生活の状況を聞き、必要に応じて給与明細、年金の通知書、預金通帳などを見せてもらったうえで、適用できるかどうかを判断します。急ぐ病状の場合は先に診療をしてから、手続きをすることもあります。

 ずっと無料や低額というわけではなく、短くて1か月、長くて半年か1年以内としていることが多いようです。その間にソーシャルワーカーが、生活保護や年金の受給、障害者向け医療制度の利用、借金問題の解決などを手助けするのです。

 無料低額診療事業を行う医療機関は、<1>診療費総額の10%以上の減免をした患者と生活保護の患者の合計が、全患者の延べ総数の10%以上<2>医療ソーシャルワーカーを置く<3>生活困窮者向けの無料の健康相談や講座を定期的に開く――といった条件を満たす必要があります。

 この事業をやっている施設は、固定資産税の減免や法人税の軽減の対象になりますが、もともと課税されない公益性の高い法人もあり、全くの費用持ち出しで生活困窮者の支援に取り組んでいる医療機関も少なくないようです。

 ほかに、無料低額の介護老人保健施設(老健)もあります。厚生労働省によると、2012年度で全国に552施設。通常は1割負担が必要な利用料などが減免されます。

 大きな課題は、クスリです。医薬分業が進んで院外処方が増える一方、無料低額の薬局制度はないので、かりに診療費の自己負担がタダになっても、薬代がかかってしまうからです。厚労省は、この点について何らかの改善策を講じる方向で検討しています。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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