文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

こころ元気塾

医療・健康・介護のニュース・解説

例え話の効用…理解助け、考え方変える

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

身の回りのことに置き換え

「同じ例え話でも、患者さんの心に響く時とそうでない時がある。難しいですわ」と語る中野さん(大阪府門真市の蒼生病院で)

 友人が落ち込んでいる時、こんな励ましをしたことはないだろうか。「朝の来ない夜はないよ」。いつか元気になる、などと直接的に言われるより、胸に響くことが多いのが「例え話」だ。医療現場での事例を紹介しよう。

 大阪府門真市にある蒼生病院。歯科口腔こうくう外科部長の中野良信さんの外来を訪れる患者のほぼ8割は、「口腔心身症」の患者だ。

 この病気は、診察や検査で口の中に異常は見られないのに、舌が痛い(舌痛症)、味覚が変、かみ合わせに違和感があるなど、様々な不快な症状が表れる。患者は症状を気にし過ぎ、さらに症状を悪化させる悪循環に陥ることが多い。そこで中野さんは、外来で多様な例え話を駆使する。

 「残っている症状に意識を向けるのではなく、良くなった症状の方に目を向けることが大切です。プールで溺れていて、せっかく水を半分抜いてもらって楽になったのに、今度は水面に顔を突っ込んで溺れたらつまらないでしょう? 人間は雨後の水たまりでも溺死するのですよ」

 頑張り過ぎる患者には、こんな話をする。

 「ギターの弦は適度に緩めないと、いい音色が出ないし、時に切れてしまいます。いい意味で、いい加減さを身に付けることが必要です。『じゃ~、まあ、ええか』という『ジャマイカ人間』になりましょう」

 7年前から舌痛症になった兵庫県の女性(57)は、プールの例え話を聞いて「そうやなあ、と納得できる。症状にばかり注意を向けないように気をつけ、今は痛みがだいぶ楽になりました」と喜ぶ。

 がん診療の現場で例え話を使うのは、がん研有明病院(東京・有明)副院長で消化器センター長の山口俊晴さんだ。一つの治療法だけにこだわる患者には、山登りに例えて説明する。

 「しゃくし定規に決める必要はありません。険しい道を登って頂上に行きたい人もいれば、景色を楽しみながら遠回りする人もいる。5合目まで行けば十分という人もいるでしょう」

 胃を半分切除した後に肉を食べない患者には「胃を小さなガソリンタンクだとすれば、少量で火力の強いガソリンが必要。野菜ばかりだと、水で薄めたガソリンを入れるようなもの」と、栄養の大切さを諭す。

 例え話が胸にストンと落ちるのはなぜだろうか。

 甲南大学文学部教授の福井義一さん(臨床心理学)は「人間は、純粋に抽象的な思考はほとんどできないのです。だけど、身の回りのことに置き換えれば分かる。『平均値』と言われてピンとこなくても、『割り勘』と言われれば分かるでしょう?」と説明する。

 中野さんと山口さんに例え話を使うコツを聞くと、2人とも診療の前に準備したことはないという。「どうすれば分かりやすく相手に伝わるかを考えていくうちに、自然にこうなった」と異口同音に話す。

 結局は、日頃から本や映画に親しみ、人と会話し、知識の引き出しを増やすしかないのかもしれない。

 福井さんは言う。「難しいことを子どもやお年寄りに説明するとしたら、と考えるのもいい。大事なのは『伝えたい気持ち』です(山口博弥)」

 例え話と比喩 
 「リンゴのようなほっぺ」のように、「~のようだ」と例えるのが「直喩」。「人生はドラマだ」のように、比喩だと直接には示さない例えを「隠喩」「暗喩」(メタファー)と呼ぶ。今回紹介している例え話は主に後者。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

こころ元気塾の一覧を見る

最新記事