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介護・シニア
おいしく食べる「災害食」…幼児、高齢者向けに工夫
東日本大震災の教訓をもとに、被災後に命をつなぐ「災害食」が注目されている。
被災時にもできるだけ食べ慣れた食事を取り、健康を維持するためのノウハウや商品の開発が進められている。今週は防災週間、各家庭でも備えを見直したい。
「備蓄品を普段の生活に取り入れて」。先月27日、宮城県多賀城市で「子育てひろば ママの立場で考える防災・減災」が開かれた。乳幼児と母親22組が参加。仙台市の防災士、佐藤美嶺さん(32)が備蓄の心得を説明し、市の備蓄品の乾パンを砕いてヨーグルトとバナナと混ぜるおやつを紹介した。乾パンをサラダのクルトン代わりにして食べるなど、備蓄を無駄にしないコツも伝えた。
佐藤さんは東日本大震災時に、乳飲み子を抱えて不安な時を過ごした。その経験を基に、被災時の乳幼児の食を考える「災害食ワークショップ」を昨年から開く。
「気持ちが不安定になった子どもの世話をしながら、作ったことのない料理は作れない。手間をかけずにでき、子どもが食べやすい食を知っておいて」と佐藤さん。親の目線で工夫する佐藤さんの試みは今年度の「日本災害食学会」の最優秀賞に選ばれた。
日本災害食学会は、研究者や食品メーカーなどが集まり、昨秋発足した研究会だ。副会長で「ホリカフーズ」(新潟県魚沼市)取締役の別府茂さん(61)は「東日本大震災のように被災が広範囲に長く続くと、子どもや高齢者などの要援護者、屋外で救援にあたる人など、それぞれのニーズに合わせた食が必要」と話す。
同社は、火がなくても発熱材で中華丼や牛丼などを温める「レスキューフーズ」を開発。救援・復旧作業にあたる人向けの高カロリータイプ、カロリー控えめタイプなど様々なメニューを提案している。
要援護者用の食料備蓄に取り組む自治体もある。10年前に中越地震があった新潟県魚沼市では2009年度から、乳児向けの粉ミルクやベビーフード、高齢・病者用のレトルト食品などを備蓄。市内の高齢者施設などと連携し、備蓄品を賞味期限が切れる前に使って、補充する方法を検討中だ。
従来の災害食には「我慢して食べるもの」「おいしくない」といったイメージがあったが、最近は商品開発が進んで味が向上。今年は各地でコンテストも行われている。
8月23、24日に横浜市で第1回の「災害食グランプリ」が開催された。15社36品が出品。来場者の投票で「ごはん」「パン・麺・菓子」など5部門のグランプリが決定。主催の一般社団法人「防災安全協会」は「様々な選択肢が登場していることを知ってほしかった」と狙いを話す。今月21日には新潟県長岡市でも「にいがた災害食グランプリ」が開かれる。
日本災害食学会事務局長の守真弓さんによると、東日本大震災で救援物資が現地のニーズに合わなかったり、栄養の偏りが問題となったりして災害食の備蓄に注目が集まったという。「大災害ほど救援の手は遅れる。野菜不足を補うため、野菜ジュースをいつも余分に1本多く買っておくなど日ごろから家族に合わせた食の備えが必要だ」と話す。
温かく衛生的な調理法…ポリ袋に材料入れ加熱
災害時の調理法に「パッククッキング」が注目されている。ポリ袋を使って加熱料理する方法だ。
救援物資のおにぎりやパンは、幼児や高齢者が食べにくい場合がある。この調理法を普及啓発する「パッククッキング倶楽部防災部会」の阿部進さん(66)は「個人の体調や好みに対応した温かい食事を衛生的に作れる。災害時に役立ちます」。水を足しておかゆなどにすれば食べやすくなるからだ。
用意するのは、食材、ポリ袋、湯を張った鍋、カセットコンロ。電気が復旧したら、電気湯沸かし器でも。湯は何度でも使え、洗い物にも利用できる。
挑戦したのは、あんパンで作るぜんざい風の甘味や親子丼など。甘味はあんパン1個をちぎってポリ袋に入れ、水100ccと砂糖大さじ1杯を加え、15分加熱。親子丼は、洗わずそのままの米60グラムと重量の1・5倍の水(90cc)をポリ袋に入れて50分加熱。具は焼き鳥缶1缶、タマネギの薄切り50グラム、卵1個、しょうゆ小さじ1杯を入れ、加熱30分。
親子丼の卵はふわふわ、甘味はトロリと甘くほっとする味。鍋に入れておくだけで複数の料理を同時に作れるのも助かる。「やけどにさえ注意すれば、料理初心者でもできます」と阿部さん。袋に入れる食材次第で多彩な料理が作れ、阿部さんらがまとめたレシピ本「救命パッククッキング」(風人社)もある。
作り方の手順
ポリ袋は、スーパーで食品を入れる時に使う、半透明で薄い「高密度ポリエチレン」を使う。最初に袋を振って空気を入れ、破れがないかを確認する=〈1〉=。
中に食材を入れて袋の上から全体を軽く混ぜ、水を張ったボウルに袋ごと入れて空気を押し出すようにする=〈2〉=。空気を抜くことで、少ない調味料でも味がしみやすい。手でぎゅっとしぼって抜いてもいい。
袋の口をくるくるとねじって、できるだけ上で縛って閉じる=〈3〉=。破裂を防ぐために余裕をもって上の方を縛る。
湯を張った鍋に袋ごと入れて、沸騰させつつ温める=〈4〉=。(大森亜紀)
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