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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

子どもの貧困、努力とやる気で解決できるか

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お祭りのお面が気に入った娘

 9月になり、娘は2歳8か月になりました。言葉がどんどんスムーズになり、「アナと雪の女王」もすらすらと歌っています。一時はイヤイヤにかなり手を焼きましたが、今は言い聞かせるとだいぶ分かるようになり、育児のストレスがだいぶ減りました。相変わらず寝起きが悪いときは大変ですが…。

 先日のニュースです。

子供の貧困対策、25指標を決定…政府大綱

 政府は29日の閣議で、貧困家庭に生まれた子供を総合的に支援するための「子供の貧困対策に関する大綱」を決定した。大綱は、生まれた環境で子供の将来が左右されたり、世代を超えて貧困が連鎖したりしないようにするのが狙い。生活保護世帯の子の高校進学率(2013年は90・8%)など25の指標を示し、それらの改善に向けた施策を盛り込んでいる。

(読売新聞 8月30日)

わからない? 食べるものもない生活になる理由

 今年1月に施行された「子どもの貧困対策法」に基づいて、対策大綱が閣議決定されたというニュースです。子供の貧困については「子供の貧困、『親の自己責任論』で片付けないで」という記事を先日書いたところ、かなりの反響をいただきました。同じ国で食べる物にも困っている子どもがいるということに衝撃を受けられた方も多いと思います。その中でこのようなコメントをいただきました。


 「とにかくわからないのは、なぜ食べるものもない生活になるのか?です。離婚にしろ死別にしろ、別れた後の事を考える…これってすでに通用しなくなっている論理でしょうか? 子供がいて仕事が出来ないなら子供を一時的に施設に預けるとか住み込みで自分の生活費は切りつめられる様にするとか。全ての人を救う手だては無いと思います。出来ることは個人レベルでとおもいます。貧困から抜け出したいとの強い思いが、まず第一」


 なぜ食べる物もない生活になるのかわからない、別れた後の事を考えるべき(死別も含んでいるところが驚きですが)――この方と同じように感じられている方は多いのではないかと思います。前回の記事にも書きましたが、生まれ育った環境に何らかのつらさがあり、そこから抜け出したいと考えて若いうちに新しい家庭を持つ、そういう状況は、かけ離れた環境にいる人には想像しにくいのではないでしょうか。異性との付き合い方にしても、「育ちが良くてまっすぐで誠実で勤勉な人」という“好物件”が周りに豊富にある環境である確率は低いでしょうし、結婚しても貧困、病気、DVなどの良くない環境に陥りがちなのは、本人の「見る目がない」せいではありません。しかし、おそらくそのあたりから「自己責任」「回避可能」だと誤解している方は多いのではないかと思います(それにしても子どもを施設に預けて住み込みで働いてでも福祉に頼るなと言わんばかりのコメントには、申し訳ないですが、他人事なんだろうなと感じてしまいました)。

「努力する力」も養育環境が左右

 私も昔は、貧困からは個人の努力で抜け出せるものだと思っていました。戦後すぐの生まれの私の父は、家が貧しくて高校にいかせてもらえなかったけれど、日雇い労働をしながら大学入試検定試験を受けて医学部に進学し、子どもたちにハングリー精神の大切さについてたびたび説いていたため、私は長らく貧困からは努力とやる気で抜け出せるものだと思っていました。しかし、それは希有な例だった上に右肩上がりに経済が成長する時代だったこともあったと思います。

「個人の努力」といいますが、努力をするというモチベーションもまた、育ちながら得られるものです。今回の法案でも教育のサポートが盛り込まれていますが、努力することに意義を感じる機会が少なく、モチベーションが身に付いていない子どもにどのくらい効果があるのか、疑問に思うとともにより幼い頃からのサポートの必要性を感じます。

 今回の大綱は前進とみる向きもあるものの、数値目標がなかったり、返済不要の奨学金の創設は財源がないため見送られたりしました。

 人間はどこにどんな能力を持って生まれるか選ぶことはできません。そして能力やモチベーションは後天的な環境に大きく左右されます。「貧困から抜け出したいという強い思い」を持つことも実現することも、個人の努力だけでは難しいということを理解していただくことが一番大事なのかもしれません。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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16件 のコメント

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個人の責任、社会の責任

ミカン男

最低賃金が低いのもイジメが多発するのも貧困で大学に進学出来ないのも自己責任政治と福祉の役割て一体なに?

最低賃金が低いのもイジメが多発するのも
貧困で大学に進学出来ないのも自己責任
政治と福祉の役割て一体なに?

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健康の社会的決定要因2

ぽんすけ

しかし、ジニ係数をみてもあらゆるニュースをみても分かるとおり、格差は着実にあります。ベーシックニーズの一部としてお金も必要なのは明白です。もちろ...

しかし、ジニ係数をみてもあらゆるニュースをみても分かるとおり、格差は着実にあります。
ベーシックニーズの一部としてお金も必要なのは明白です。
もちろん、支給された現金を生活以上に浪費してしまうような家庭では、財産管理人(ケースワーカーなど)が一定期間ベーシックインカムを管理し
また生活ができそうになれば、はずすといったことも考えられます。、現物給付ですとそれこそ選別などにコストがかかりますし、そこでの差別などもでてきます。
ですので、年齢別により支給額は変わるのは当然ですが、単身世帯には住宅費を上限月~万まで別途支給したりして、生活の基盤を安定化させることに尽力したほうが
いいでしょう。
そして、それらを支えるものに機械化・自動化というものがあります。
ありがたいことに、第一次産業などは上記のおかげで、昔より少人数で生産性は変わらないか、あるいは上がっています。
つまり、エネルギー等の問題はありますが、これは人が少なく衣食住を確保できるということです。
また、住む場所も平屋ではなくマンションや団地といった上に建てつつも安定させる技術もあります。
ですので、デザイン性や好き嫌いはあるでしょうが、まじめにみなが衣食住を安定化させ、そのためになにを優先させるか考え、そこに投資すれば必ずできるはずです。
しかし、グローバル化の現在ではタックスヘイブンの問題や先物取引などによる投機などが頻発しており、これらを解決しないかぎり貧富の差は残るでしょう。
能力や運のある人から再分配するのは今も昔も変わりませんが、英国病みたいにならないようバランスが重要ですね。今後はマイナンバー制度もできるので少しは良くなるでしょう。
最低限必要なものは決めるのが難しいですが、まずは衣食住と通信、基礎的な教育や医療、生活必需品などがあればいいのではないでしょうか。

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自己責任ではないという考え

Heather

その考えは理解できなくもないです。養育環境かも知れないし、そもそも生まれついてのものかも知れません。(それを言ったら多くの犯罪も含め、究極的には...

その考えは理解できなくもないです。
養育環境かも知れないし、そもそも生まれついてのものかも知れません。
(それを言ったら多くの犯罪も含め、究極的には自己責任など世の中に何一つ存在しないかもとも思いますが)

ただ、そういう親の家庭にお金を渡したところで、連鎖を断ち切るのにどれだけ効果があるのでしょうか。自己責任を問えない親が、子供を育てる責任を負えるのでしょうか?

何かを支給するには必ず反対側に負担者が居ます。
病気になるまで働け、現行の福祉制度に頼るなとは言いません。制度を使う能力さえない親への行政サポートも拡充して良いと思います。
ただ、費用対効果を考えたら、今の福祉制度が下限として充分なのではないでしょうか。

これ以上手厚くするのであれば、無駄にならないように、条件や給付方法は絞るべきです。
場合によっては、もっと積極的に親の影響から子を保護する施策もとるべきだと思いますし、親が遊興費や贅沢に流用できないように現物支給に限定するべきでしょう。

金銭的な問題では無く、「その親に育てられること自体が負の連鎖そのもの」という親達を、どうしますか?

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