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お化け屋敷「適度な恐怖」なら楽しい

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「同じ体験」から生まれる共感

「適度な恐怖は楽しめる」。お化け屋敷の効用を語る五味弘文さん(東京都文京区、東京ドームシティ「恐怖のかくれんぼ屋敷」で)

 夏になるとあちこちに出現するお化け屋敷は、なぜ人気を集め続けるのだろう。「恐怖でヒンヤリしたい」という意見もあるが、利きの良いクーラーはいくらでもある。

 怨念に満ちた形相の「幽霊」たちが獲物を待つ暗闇に、どうして私たちは進んで飛び込むのか。今夏、10都府県でお化け屋敷を手がけるお化け屋敷プロデューサー(オフィスバーン代表取締役)の五味弘文ごみひろふみさんに、その魅力を聞いた。

 「恐怖は最も避けたい感情で、何度も直面すると大きなストレスになります。しかし、人間は変化の乏しい日常が続くと退屈になり、恐怖のような刺激を求めるようになる」

 こう語るプロデューサー歴20年以上の五味さんは「恐怖は適度であれば楽しめる。恐怖の与え方が重要で、お化け屋敷は絶好の場所」と強調する。楽しめる恐怖とは「身の安全が保証され、短時間で必ず去る恐怖」、端的に言うと「出口のある恐怖」だという。

 お化け屋敷の終盤を想像してみよう。半泣き状態で、悲鳴を上げ過ぎてのどが痛い。ヘロヘロ状態で出口にたどり着き、ドアを開ける。その瞬間、目と肌に鋭い日光が突き刺さり、むせ返る暑さが全身を包む。ところが、入場前は苦痛でしかなかった酷暑になぜかほっとし、自然と笑いがこみ上げてきた。そんな経験はないだろうか。

 お化け屋敷の中では、心は緊張と緩和を繰り返し、出口で一気に弛緩しかんする。その大きな振幅が、日常の中で平板化しがちな心を刺激し、一時的とはいえ、豊かな感情の回復につながるのかもしれない。

 お化け屋敷の心理的効用は、そればかりではない。「入る前は距離感があったカップルが、10分ほどで出てきた時は手をしっかり握りあっている。そんな光景を頻繁に目にします」

 これは、デート必勝テクニックとして知られるつり橋効果なのだろうか。だが、五味さんの視点は異なる。「一緒に恐怖を体験し、悲鳴を上げる。そうした共通体験を通して生まれる言葉を超えた共感が、2人を引きつけ合うのでは」と見ている。お化け屋敷で共感を深めるには、互いの感情を推し量り、心を寄り添わせるための助走が必要と考える五味さんは、入り口からしばらくは軽い仕掛けにとどめるなど、いくつもの心理的工夫を凝らしている。

 客の中にはお化け屋敷を楽しめない人もいる。大人の男性に多く、「あそこにセンサーがある」などと細かな仕掛けを観察したり、同行者の反応をことさら気にしてみたり、無理に笑ったりするなど、自らの恐怖を紛らわせようと意識を他に振り向ける例が目立つという。

 「怖がる姿を見せるのを恥と感じる人たちで、家や会社でも必要以上に自分を作っているのかもしれません。お化け屋敷に入った時くらいは心のよろいを脱ぎ、思い切り楽しんで」と五味さんは願っている。

 そこの夏バテ気味のお父さん、お化け屋敷で思い切り悲鳴を上げてみませんか。新しい自分を発見できるかもしれませんよ。(佐藤光展)

つり橋効果
 不安定なつり橋や高い展望台などに男女で行くとお互いにドキドキし、それが恋愛の胸の高鳴りに似ていることから、勘違いして2人の関係が深まると考えられている。
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