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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

医療のかかり方(19)入院患者はなぜ追い立てられるのか

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 前回、病院の看護体制のランクに関連して、急性期向けの病院では、早めに退院・転院するよう、入院患者が追い立てられることに触れました。

 看護職員の配置が手厚い病棟(看護ランクの高い病棟)ほど、診療報酬上の「平均在院日数」のシバリが厳しく、もしも患者全体の平均在院日数がそのランクの上限を超えてしまうと、低い点数の入院基本料しか取れなくなるからです。

 実は、入院患者を追い立てる診療点数上の仕組みは、もう一つあります。

 個々の患者の1日あたりの入院基本料も、入院期間が長くなるほど、階段のように下がっていくのです。これは「入院基本料の逓減制ていげんせい」と呼ばれます。


階段のように点数が下がる

 今年度の診療点数表をもとに、具体的に説明しましょう。

 一般病棟で、看護ランクが10対1(入院患者10人につき看護職員1人)の場合、平均在院日数のシバリは21日以内。入院基本料のベースは、1332点です(1点は10円)。

 それに、入院期間に応じた加算があり、合計点数は次のようになります。

入院期間加算合計
初日~14日目450点1782点
15~30日目192点1524点
31日目以降なし1332点


 入院してまもない時期の患者に比べ、31日目以降の患者は、病院にとって、1日あたりの収入が4500円も少なくなります。

 そのことと、平均在院日数のシバリの二つの理由から、病院は、入院期間の長くなった患者を早く出そうとするわけです。

 看護ランクの低い病院だと、平均在院日数のシバリはもう少しゆるく、一般病棟の場合、13対1のランクなら24日以内、15対1のランクなら60日以内ですが、入院基本料の逓減制は同じようにあります。

 背景には、(1)医療費のかさむ入院の期間をできるだけ短くしたい(2)急性期向けかそうでないのか、病院ごとに機能(役割)を分けたい――という政策目的があります。そうなるように、厚生労働省が診療点数を決めているのです。

 つまり、患者が追い立てられるのは、病院がいじわるしているのではなく、経営上の理由です。病院としては、ずっと面倒をみたくても背に腹は代えられないし、次の患者のためにベッドも空けないといけない、というわけです。


行き場に困り、病院を転々

 現場では、どんなことが起きているか。

 「うちの病院に入院できるのは、原則として3週間までです」

 「もうすぐ2か月たつから、ほかの行き先を探してください」

 そんなふうに病院のスタッフから言われ、たとえ、病気やけがが治っていなくても、自宅や介護施設などに退院するか、ほかの病院に転院するよう求められます。

 患者・家族にとって、たいへん深刻な問題で、行き場に困る人が少なくありません。病院のソーシャルワーカーが受け入れ先を探すこともありますが、退院できない状態で、次の病院、そのまた次の病院と移っていくこともしばしば。転院を重ねるにつれて、だんだんレベルの低い病院になります。

 入院基本料のほうは、転院すれば、入院日数がリセットされてゼロに戻るので、ふたたび加算のある状態からスタートします。

 ただし、そのために病院の都合で転院を繰り返すケースが目立ったため、2002年度から「180日ルール」が設けられています。同じ病気やけがで別の病院へ移っても、最初の病院から通算した入院日数が180日を超えると、入院基本料は本来の85%しか保険の対象にならず、残り15%は患者の自費負担になります(難病、がん、重症、小児などは除外)。通常の入院より、患者負担が格段に重くなるのです。

 といっても、生活保護の場合は、その15%も公費負担になるので、長年にわたって病院を転々とさせられている患者が、大都市圏を中心にけっこういます。


療養病棟の入院基本料は変わらない

 では、長く入院せざるをえないときは、どうすればいいのか。

 長期入院向けの「療養病棟」なら、入院期間によって入院基本料が変わることはありません。通算入院日数の180日ルールも適用されません。

 そのかわり、「医療区分」と「ADL(日常生活動作)区分」の組み合わせによって、入院基本料が違ってきます。病状が重くて、寝たきり状態の人は、入院基本料が高くなります。

 病状の軽い患者は、入院を受け入れてもらえないかもしれません。また、療養病棟を持つ病院にも、よしあしの差はあります。

 なお、精神病棟では、入院基本料の下がり方の階段は、一般病棟よりゆるやかで、あまり追い立てられません。むしろ長期入院が多すぎることが問題になっています。

 平均在院日数、入院基本料の逓減制の話は、こみいった内容になりました。もうすこし患者が行き場に困らないような制度を設計できないものか、と思いますが、自分や家族が実際に入院するときには、とても影響の大きいことなので、ぜひ頭に入れておいてください。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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