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石井苗子の健康術

yomiDr.記事アーカイブ

天馬が空を駆けるように…

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(九十九里浜を駆ける姿を目にして、乗馬をやってみたいと思いました)

 私は、乗馬をする方をうらやましく思います。

 フィットネスジムにくらの形をした機械が置いてあって、1人15分までとか書いてあったりしますが、あれでは乗馬の気分は味わえません。

 以前一度だけ馬に乗ったことがあります。またがると馬のおなかが温かく、走るともっと温かくなっていく感覚を忘れることができません。考えてみたら、動物に乗って走る機会なんて馬の他にはめったにありません。

 先日、人生で二度目の乗馬を体験しました

 まるで天馬が空を駆けてくるような風景でした。

 私は千葉県・九十九里浜の海岸にビニールを敷いて、座りながら友人の相談話を受けていました。お店に入るとお金がかかるし人に聞こえるので、海水浴場で話をしていたのです。海水浴場の監視は4時で終了し、人々が帰り始めると、浜辺は急にさびしくなります。

 風が吹き、砂が飛び、砂漠に座っているような感覚になりかけた時、遠くに馬が見えたのです。波打ち際を馬が歩いているのです。目を疑いました。さっきまで人が泳いでいたのですから。

 陽炎かげろうのようなその姿は、尻尾を左右に振り、なんとも優雅に見えました。それがこちらに向かって走り始めたのです。私は「蹴飛ばされたらどうしよう」と思わず腰を半分浮かしていました。しばらくすると、髪の長い女性が乗っているのが見えたのです。その女性は、砂だらけになって立っている私たちの10mほど前で馬を止め、優しく馬の首をなでていました。まるで散歩をしているかのようでしたが、その光景の美しかったこと。夢なのではないかと思ったほどです。

 近くに乗馬倶楽部があって、夕方になるとたまに海岸を走っていることがあると友人から聞かされ、口が開いたままになってしまいました。そんなすてきなことが今の日本にあるのかと思ったからです。

 再び走り出す馬を見送りながら、実に現実離れした思いがこみ上げてきました。夕方の海辺の波打ち際を馬に乗って歩くことができる高齢者施設があったらどんなにいいだろう。馬に乗れるような体力と、動物に愛される自分がまだそこにいたらどんなに幸せだろうかと。でも、そんな夢のような計画は、今さら間に合わないという思いもありました。

 小さな点になるまで馬を見ている隣の友人に、「我々もさ、あと10年ぐらいの人生なのだから、よく考えながら生きていこうよ、いつか馬に乗れるようになる日なんてのがあるかもよ」と声をかけ、砂の上を歩いて家路を急ぎながら、夏のよい思い出になりました。

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石井苗子さん顔87

石井苗子(いしい・みつこ)

誕生日: 1954年2月25日

出身地: 東京都

職業:女優・ヘルスケアカウンセラー

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