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ネット断食…安らぎ戻るオフライン

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人と会って五感の活用

業務連絡は長引かないよう立ったまま、顔をつきあわせて円滑な意思疎通を図る(宮城県角田市のアイリスオーヤマで)

 通勤・通学電車でスマートフォンに没頭し、会社ではメールや検索。自宅でもネットにつないでいないと落ち着かない。

 そんな「ネット依存症」の状態に疑問を持ち、ネットにつながらない時間を意識的に作る「ネット断食」が広がっている。

 「デジタルデトックスのすすめ」(PHP研究所)の著書がある編集者、米田智彦さん(41)は昨秋に1か月間、「ネット断食」をした。それまでは毎日12時間ネットにつながる日々だった。「病気で寝込んでネットができなかった時、気持ちが楽なのに気づいた。人にうけようと発信し続けることに疲れていたし、集中力や熟考力が薄れ、本を1冊読み通せなくなっていたことにも危機感がありました」

 ネットの使用時間を洗い出し、ネット上のつながりを整理。メールチェックは1日2回にし、人と会うことを増やした。すると、時間や集中力が戻っただけでなく、心の持ちようも変わってきた。

 「ネットの情報と違い、実体験は五感をフル活用し、自分の身となる。それに、他者の承認をよりどころにすると、いつまでたっても自分に満足できない。ネットに振り回されていた人生のかじ取りを、自分の手に取り戻した気分」と語る。

 子どもの世界でも、「ネット依存症」が約52万人と報告されている。文部科学省は今夏から、自然の中で人と触れ合う合宿「ネット断食」を実施する。

 ネット依存症の専門外来を作り、国のネット断食の計画作りに携わる久里浜医療センター長の樋口進さんは「実生活での経験値が少ない子どもは、ネットの世界が全てだと錯覚してしまう。生身の世界で心を動かす体験をし、世界にはネット以外にも色々な選択肢が広がっているのだと気づいてもらいたい」と語る。

 パソコン断食を行う企業もある。宮城県角田市に本部を置く生活用品の製造卸会社「アイリスオーヤマ」は2007年、個人の机からパソコンを一掃。購買部では、タイマーで1回45分に制限して別の机でパソコン作業をし、メールでの連絡を極力減らして、顔を合わせての打ち合わせを増やした。

 購買部部長の会田祐一さんは「パソコンに向かっていれば仕事をしている気になるが、本質的な仕事ができず、無駄な時間も多い。意思疎通も希薄になるため、強制的な環境作りが必要だった」と狙いを語る。

 企業でのIT断食を勧める早稲田大教授の遠藤功さんは「ネット検索で得られるのは2次、3次情報。現場に行かないとわからない1次情報をもとに、自分の頭で考える力を取り戻さないと、変化のスピードの速い国際競争に負ける」と警告する。

 自身もネット断食を行い、「ネットで『つながる』ことの耐えられない軽さ」(文芸春秋)の著書がある作家の藤原智美さんは「瞬間的に受け渡され、消費され、忘れ去られるネット言葉は、自身との対話や社会的な深まりに結びつかない。政治でも軽い話し言葉が人を動かし、目の前にいる家族や友人との対話ではなく、スマホの仮想空間のつながりに没頭して対人関係が薄くなっている。危機感を抱いた方がいい」と訴える。(岩永直子)

ネット断食
  インターネットに没頭し、ネットが使えないといらだちを感じたり、対人関係を煩わしく感じたり、健康を害したりなど、心身に支障をきたしている状態を「ネット依存症」という。ネット断食は一時的にネット使用を制限することで、生活を見直し、適切な使用法を身につけるための行動を指す。
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