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講演(4)昔話や散歩、昼寝…予防に効果?

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食べて防げる? ゲームは?

 最近、週刊誌で「○○を食べて認知症を防ぐ」なんていう記事を目にしました。「食べて治す」「食べて防ぐ」なんて、本当にそんなことができれば最高ですよ。でも、そんなに甘くはないのです。

 それでは、認知症を予防したり、進行を遅らせたりするにはどうしたらいいのでしょうか。

 そのために、先ほどの「なぜ認知症になるのか」の説明を思い出してください。

 一番の原因である加齢ですが、これは止めることができません。遺伝子の変異や遺伝的危険因子も、変えようがありません。

 まず、生活習慣病のある人は、生活習慣を改め、お薬で治療する。これが基本です。

 あとは、怠惰な生活をせず、運動をしっかりやって、頭を使っていろいろなことを考えることです。

 「ゲームをすると認知症を防げますか」とよく聞かれます。新しいゲームをする時には、いろいろ考えますよね。それなら効果があります。だから、「今日はこのゲーム、明日はこのゲーム、明後日はこのゲーム」というふうに、毎日毎日、新しいゲームをするのであれば、頭を使うので効果があるのですが、いったんゲームを覚えると楽しくなります。でも、楽しくなってドーパミンが分泌されるようになると、よくないのです。


認知症リスクを上げる生活習慣病

 それでは生活習慣病の改善について具体的に説明していきます。

 まず糖尿病です。確かに、糖尿病になると認知症のリスクが上がります。基本的には、糖尿病治療は食事のカロリーを抑えることと、運動することが大事です。

 次に高血圧です。アミロイド線維を脳の外に排出するために脳血流が大切な役割を果たしています。抗高血圧薬を服薬して血流の促進をはかることで、予防と進行を遅らせることに効果があるとされています。

 さらに、高脂血症ですが、アミロイド線維でできた「老人斑」はコレステロールがあると出来やすいので、抗高脂血症の服用で血中脂肪を少なくする必要があります。


効果的な精神療法、「回想法」とは?

 ここで「回想法」という予防法を紹介します。これは、数ある認知症の精神療法の一つなんですが、「昔はあんなことがあったな」などといった昔話や井戸端会議をするのが、いいのです。これは一人ではやりにくいですよね。だから、家の外に出てよくしゃべる人の方が、あまり出歩かない人よりも認知症になりにくいのです。

 精神療法にはこの他、絵画療法、音楽療法、犬療法などがあって、病気の進行を遅らせるとされています。

 さらに、効果的な予防法が運動です。特に散歩。ウォーキングです。走っては駄目です。危ないから。大体週に2、3回程度、20分以上の連続歩行してください。足の不自由な人は、その人なりの歩き方でいいんです。15分連続して歩いていると汗がジワーッと出て来ますから、そこを我慢してもう少し歩いてください。かなり効果があります。

 ほかには、ダンスなどの軽い運動も効果があります。

 最近、体を動かしたり頭を使ったりする時の神経活動が体内の毒素の排出に作用するということがわかってきました。

 さらに、ちょっと意外に思われるかも知れませんが、脳神経を少し休めるということで、昼寝も効果があります。30分以内の短い睡眠が有効で、1時間以上寝てしまうと駄目なのです。寝過ぎはよくないですよ。起きている時に、体内の悪い毒素を体外に排出しているのですから。


「いかに手を抜くか」が介護のコツ

 認知症を発症した場合の、「家族、介護者の奥義」について四つ挙げてみます。

1.後悔しない介護

2.残された能力は活用する
 できることは何でもしてもらうということです。服を片付けるだとか、犬の散歩だとか、そんなちょっとしたことでも、頭は使っているんですから。

3.症状やBPSD(周辺症状)の理由を考える
 困ったことをするからといって怒らずに、その理由を考えてあげましょう。

4.手を抜く
 これが究極の奥義になるのですが、介護は「いかに手を抜くか」がコツなのです。


昼夜逆転、妄想、拒否、徘徊…周辺症状への対応

 認知症の周辺症状にどう対処したらいいのかについて説明します。

 まず、昼夜逆転と睡眠障害ですが、夜に寝てくれないと困ります。日中に体を動かしてもらったり、午前中に外出するようにして、生活リズムを修正したり、騒音や不安、心配事などを取り除いてあげてください。部屋の温度やお風呂のタイミングにも工夫してください。最後の手段として、入眠剤や睡眠剤がありますが、医者と相談して服薬してください。

 続いて、妄想とせん妄(意識レベルが低下して興奮状態になったりすること)についてですが、「もの取られ妄想」や「嫉妬妄想」などの妄想は、いつも身近で一番世話をしている介護者が犯人扱いされます。「味方」として話を合わせ、距離を取ることも大切です。せん妄というものは、長時間続きません。10分から15分で終わってしまいます。過度に驚かずに対応すると落ち着くことが多いです。

 さらに、介護への抵抗。着替えるのを嫌がるとか、お風呂に入ってくれないような場合にはちょっと譲って、相手のペースを尊重することです。もしくは、介護する人を代えるなどしてください。 

 あとは徘徊はいかいです。これは交通事故を起こしたりすることもあるので、無理やり止めずに、自分の散歩だと思って同行してあげてください。服に氏名、電話番号などを書いた紙やGPS(全地球測位システム)端末を入れるのも効果があります。玄関などに人の出入りを感知するチャイムを設置して外出した時にはわかるようにして、玄関に履物や服をたくさん置いたりしないでください。

 「目を合わせる」「話を聞き、相づちを打つ」「声をかけ、体に触れる」「時々、好きなものを与える」ということが大事です。これはいずれも、うっとうしくて、疲れるし、面倒くさいことばかりです。でも、そんなに難しいことだと思わずに取り組んでください。

森 啓(もり・ひろし)さん

 大阪市立大学医学部教授(脳神経科学)。1974年、大阪大学理学部卒。79年、東京大学大学院博士課程修了。87年、ハーバード大学ブリガム婦人病院研究員。91年に東京大学医学部脳神経病理学教室助教授、92年に東京都精神医学総合研究所分子生物学室長。98年から現職。2009年から日本認知症学会理事長

 
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