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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

医療のかかり方(15)医療費の明細書は必ずもらおう

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 現在、ほとんどの医療機関では、会計で領収書とともに、医療費の明細書が渡されます。

 領収書には「初・再診料」「検査」「画像診断」といった分野別の小計と、保険外の費用、総額が書かれていますが、それだけでは詳しいことはわかりません。

 明細書には、「外来診療料 73点」「生化学的検査(Ⅰ)判断料 144点」「胸部単純撮影(デジタル撮影)・画像記録用フィルム半切1枚 173点」「処方せん料 68点」といった具合に、個別の算定項目と点数(単価)が示されています。「AST」「γ-GTP」「HbA1c」といった血液検査の対象項目や、使った薬の名前も記載されています。薬局で薬を受け取った場合は、調剤報酬の明細書が出ます。保険診療の1点は10円です。

 スーパーで買い物をしたとき、食料品○○円、日用品△△円、なんて大ざっぱなレシートはありません。ニンジン50円、牛乳188円といった品目ごとの明細があってこそ、納得できますよね。それと同じです。


長年の運動で実現した発行

 具体的な算定項目のわかる明細書は、「レセプト並み明細書」と呼ばれます。

 レセプトというのは、医療機関が毎月、保険者(公的医療保険の運営者)に診療報酬を請求するときに提出する明細書です。そもそも患者に自己負担分を請求する段階で計算しているのだから、患者にも明細を渡すのは当然でしょう。

 ところが昔は、総額だけの領収書しか出さない医療機関が普通でした。個々の診療行為の単価も一般の患者にはわからないため、値段表示がない高級なすし屋のようなものだったわけです。保険者の手元にあるレセプトも、患者側には開示されませんでした。

 それはおかしい、と声を上げた患者側の市民団体による長年の運動の結果、1997年、保険者が保管しているレセプトは、請求手続きを取れば、開示されるようになりました。そして2010年度から、レセプト並み明細書をすべての患者に医療機関の窓口で無料発行することが、原則として義務化されたのです。

 400床以上の病院すべてと、診療報酬を電子的手段で請求している病院・診療所・薬局は、無料で発行しないといけません(機器が発行に対応していない例外的な施設を除く)。

 なかには、明細書が必要か不要かと尋ねてくる医療機関や、自動支払機で「明細書が必要」をわざわざ選ばないと発行されない病院もありますが、ぜひ「必要」と答えて、受け取っておきましょう。

 診療所もたいてい、明細書の無料発行義務の対象になっています。その場合は再診料に「明細書発行体制等加算」(1点)が付いています。たとえ患者が受け取らなくても、医療機関は10円の収入になるのです。

 生活保護をはじめ、自己負担のない患者にも、情報提供などの観点から、明細書の発行に努めるよう、厚生労働省は医療機関に求めています。


明細書に目を通す意味

 さて、明細書を受け取る意味はどこにあるのでしょうか。

 第一に、自分がどんな医療を受けたのか、理解することです。明細書には、行われた診療行為の要点がコンパクトに記されています。記号や若干の専門用語はあるものの、カルテを読み解くのとは違い、詳しい医学知識がなくても、だいたいわかるはずです。もし意味がわからなければ、窓口で尋ねてもいいし、ネットでも調べられます。細かい検査項目や使った薬の名前を医師から説明されなかった場合でも、明細書を見れば載っています。

 第二に、医療の記録です。あとになって医療被害や薬害の可能性が出てきたときに、どんな診療や薬剤の投与を受けたのかを確認する材料になります。薬害肝炎のように長い年月を経て問題になる被害もあるのです。保険者のレセプト保管期間は5年、医療機関のカルテ保存義務も診療終結から5年。それ以上たっていると、手元に残していた明細書が決め手になるかもしれません。できればファイルや袋に入れて、ずっと保存しておきましょう。

 第三に、患者がコスト意識を持つことです。どういう検査や治療にいくらかかったのかがわかれば、医療費の実情がわかり、必要性の乏しい検査や薬を減らそうと考えるでしょう。

 第四に、医療機関による算定ミスや不正の防止です。領収書の金額だけでは、そうしたことがあってもわかりません。明細書を見て、身に覚えのない診療行為が記載されていたら、算定の間違いか水増し請求ではないか、と気づくはずです。


「包括払い」の明細書に課題

 明細書の内容には、課題も残っています。「包括払い」と言って、一般的な検査、画像診断、処置、点滴、投薬などをいくらやっても点数が変わらない診療報酬の算定方式だと、それらの診療行為は点数に関係しないからです。

 包括払いのうち、DPC(診断群分類包括評価)適用病院の入院料については、検査と薬剤の内容を明細書に記載することになっています。しかし救命救急センター、集中治療室、療養病棟、回復期リハビリ病棟、小児の入院といった「特定入院料」の多くは、包括払いの入院料の記載だけで、個々の診療行為が明細書に示されないのが一般的です。

 明細書の内容は、医療費だけの問題ではなく、情報提供や記録の意味もあるわけですから、早急に改善されるべきでしょう。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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