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石井苗子の健康術

yomiDr.記事アーカイブ

誤診されないためにすべきこと

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(正しい診断を受けるために「自分」を知ろう)

 飲酒も喫煙もしない、持病もないし「家族に特別な病気がある人」もいないという65歳の男性が、息切れと眩暈めまいを訴え、救急外来に来ました。ひとりで歩いて来院し、順番も待っていられるぐらいだから、たいしたことはなかろうと本人は思っていたそうです。

 ところが医師から「緊急入院」と言われ、ストレッチャーで運ばれ、一命を取りとめました。本人の顔面が蒼白そうはくで、脂汗があり、くちびるが紫色でバイタルサインが「高度の徐脈」と出たためですが、これが鋭敏な処置だったと後にわかることになります。

 眩暈や息切れがストレス性のものか、体の異常から起こっているのかについては検査をしてみないとわかりません。高齢だからとか、ストレスがたまっているからと勝手に思い込まないことが大切です。

 この方は、息切れを感じた2日後に10mも歩けないほどになり、眩暈を感じるようになった。これらを「自覚症状」といいます。その他は…と首をかしげられてから、「そういえば、以前、不安定狭心症と言われました」とおっしゃいました。これを「既往歴」と言います。

バイタルサインとは…

 バイタルサインとは体温、血圧、心拍数、呼吸数、脈拍、心拍数といった「バイタル=人が生きている」を「サイン=値」で表すものです。この男性は正常値より「高度の徐脈」に加え、手足が異常に冷たく、網状皮斑(酸素含有量の少ない血液が皮膚に赤紫色の網目状の斑を作っている)というバイタルの異常が見られました。

 初診は「ショック状態」と判断され、「急性冠症候群」(心電図で確認)や、「高カリウム血症」などを調べるうちに、血清生化学検査から「急性の腎機能障害」と結果が出され、足底の黒色の腫瘍が「皮疹」と判明されたため生検をしたところ「コレステロール塞栓症」であるという最終診断がくだされました。粥状じゅくじょうに硬化した巣のようなものが血管内にでき、それを覆う防衛的血栓が損傷されることによってコレステロール血症が全身に飛散し、末梢小血管を塞いでしまうもので、息切れや眩暈が自覚されるのです。この男性はさらに腎臓疾患もあることがわかりました。

 ご本人にしてみれば、色々検査をされ「一時的なものではなく、腎臓が悪く、高齢と共に悪くなってきています」で治療と予防が開始するのですから、内心「やれやれ」というお気持ちだったことでしょう。

隠れた病因を見つけるためにも

 医師側も次から次へと鑑別を変えて考えていかなければならず、ショック状態だろうという「推測」で終わらせていたら、のちに誤診だったということになりかねませんでした。あらゆる検査結果を見て憶測をしながら判断していかないと、隠れた病因が見つからないからです。

 ところが、予防にはいった途端、患者側と医師との間にへだたりが始まります。現在の医療問題は、ここにあります。予防をするかしないかまでは個人の責任だからです。

 腹囲(男性85㎝以上)でダイエットや食事制限。高血圧、高脂血症、糖尿病に注意をし、脂肪肝・中性脂肪・朝の血圧が135/85以上だったり、いびきが多く昼間は眠い人は「睡眠時無呼吸」の検査や、禁煙の決行、年に1回の健康検査、有料の尿検査でわかる進行性の腎障害をチェックしたり、こうしたことを果たして懸命にやるでしょうか。

 慢性腎不全になれば透析をしないとなりませんが、ある年齢以上には透析を受けさせないと政府が決定した国まで出てきているほど、腎疾患は高齢者に多いのが特徴です。症状も様々で、食事制限しても高血圧になり下肢がむくみ、体内の老廃物を尿から出すことができなくなり、息切れがでて、食欲低下、いらいら、集中力の低下 倦怠けんたい感が顕著になります。どれも高齢者の自然な傾向だと思われがちですし、ストレス症状とよく似たものがあるのに気が付きます。症状が先の男性のように顕著だった場合は、検査をして原因不明から原因明確に変えていくまで医師との付き合いが必要なのですが、残念ながら詳しい検査をあまりしないのです。

60歳になってからの「20年プラン」

 私は高齢になったら完治することより、自分の状態を知っていることの方が大切だと思います。いずれはどうなるのかをよく知っておくことです。

 生活習慣の見直しを怠らないか、それとは真逆に、やりたい放題やって周囲に迷惑をかけるだけかけて死んでいくか。60歳になってからの「20年プラン」を考える時代になりました。

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石井苗子さん顔87

石井苗子(いしい・みつこ)

誕生日: 1954年2月25日

出身地: 東京都

職業:女優・ヘルスケアカウンセラー

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4件 のコメント

科学的視点と予防 種々のアプローチ 体幹

元放射線科医 寺田次郎 六甲学院56期

ペインクリニック学会に来ています。変形性質関節症の治療ひとつとっても、薬物、手術のほか物理療法、運動療法、装具治療など様々なアプローチがあります...

ペインクリニック学会に来ています。
変形性質関節症の治療ひとつとっても、薬物、手術のほか物理療法、運動療法、装具治療など様々なアプローチがありますが運動療法や装具はリハビリだけでなく、予防にもあたりますが、知らない人も多いのではないでしょうか?

女性はO脚が多く、体重が増えれば、自然と関節へのダメージも大きくなります。
病状が進んでからだと、治療も大掛かりになって、全身への影響も大きくなります。

しかし、予防目的でも、流行のものになんとなく手を出して終了している人は多いのではないでしょうか?
スポーツの現場でよく見る体幹トレーニングは体幹の弱い子にはかなり有効ですが、単純に続ければ体が強くなり続けるものでもありません。
メカニズムの理解を伴わない宗教的盲信は危険です。

怪我や病気のもたらす痛みを感じるまでには様々なプロセスがあります。
局所の怪我や炎症のシグナルが遡って脳が痛みとして認知します。
(脊髄反射的な話は割愛)


例えば、足首の捻挫に対して、テーピング、冷却、局所の鎮痛剤、全身の鎮痛剤といった一般的な治療もあれば、神経ブロックや抗鬱剤といった治療もあり得ないわけではありません。
程度と頻度の問題です。

スポーツ選手であれば、プレースタイルの変更も有効です。

ただ、個人や周囲の思い入れや願望ともリンクしているため、難しい問題です。
変化を受け入れられるか否か?
だから心理カウンセリングも治療になります。

誤診か否かの判断がしばしば短期的視点でなされることも問題で、それを防ぐためにも患者さんの学習が良い医療に大事です。
心理的側面も一面としてありますが、基本は科学的視点だと思います。

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予防は治療にまさる

人生それぞれ

予防医療には予防接種・検診・生活習慣改善があります。おぎゃあと生まれてから義務教育終了までの子供時代、そして、40代以降が特に重要です。大人の検...

予防医療には予防接種・検診・生活習慣改善があります。おぎゃあと生まれてから義務教育終了までの子供時代、そして、40代以降が特に重要です。
大人の検診は、自営業なら自治体から案内が届くはずですし、会社勤めなら雇用主は従業員に検診を提供する義務がありますので、それらをきちんと受けるかどうかは個々人の自覚に任されています。
医療機関では何らかの訴えをもとに診断するわけですが、検診を受けていることを大前提としています。健康保険料を使って予防検診をすることは日本の制度では許されていないないからです。たとえば、高血圧でどんな大病院の名医の定期受診を受けて完璧にコントロールしていても、大腸癌の検診(年1回の便潜血または何年かに1回(頻度はリスクによる)の大腸内視鏡)を受けていなければ進行癌で手遅れという事態もあり得ます。
ワクチン後進国の日本では、子供に麻疹・風疹・B型肝炎などのワクチンも義務化していません。高齢者への肺炎球菌ワクチンはようやくこの10月から定期接種に組み入れられましたが、国際的には接種が望ましいとされているさまざまなワクチンがいまだに「任意」接種のままで、主治医の熱心さと個々人の自覚・懐具合にゆだねられています。
また、タバコや過量飲酒は最も健康を害する習慣であり、それぞれ「ニコチン依存症」「アルコール依存症」という立派な疾患であるにもかかわらず、主治医の介入は遠慮がちな態度であることが多く、「個人の自由」ということにされてしまっています。
さらには、HIV感染症など性感染症の予防教育はほぼゼロ、いまだに患者の同意なしにHIV検査をしてはならない規則なので、日本は先進国で唯一、HIV新規感染者数が増加している国なのです。
予防に力を入れても「命を救っていただき有難うございました」と感謝されることはまずありません。しかし、予防は治療に勝るのです。

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プラン倒れの反省もない.

ドキ

 楽観的だろうと,悲観的だろうとまあこの国はプランでその効果を期待していることが多い.介護予防プラン,ケアマネプラン,リハビリプラン・・一体どの...

 楽観的だろうと,悲観的だろうとまあこの国はプランでその効果を期待していることが多い.介護予防プラン,ケアマネプラン,リハビリプラン・・一体どのようにすれば健康で自立した老後を送れるというのであろうか.寿命が延びた分認知症が増加することは予測の範ちゅうにあったのだが,ここにきて認知症がクローズアップされても,である.
 誤診問題は確かにあるが,その後になされる誤治療こそがその範囲たるや半端ではなかろう.投薬や入院はそこそこに,後は介護保険サービスに委ねるという方向性はすでに固定化してしまい,それもこれも疾病予防の自覚の有無が招いたことと結論づけられるのである.
 医学の進歩は誤診をなくし,救命の手段が格段に上がったことは間違いないが救命といえどもピンキリ.だが,そのことを医師には問えない.大切なのはキリとなろう患者や高齢者にもっとも望ましい施策は何か!ということなのである.
 箱物を整備しようともそのことを考えもせずして運営している事業所は残念ながら少なくない.デイサービスやデイケアの最終の目標は,利用者や運営側それぞれのコミニュティ―である筈なのだが,肝心の会話や互いの労いという基本的な姿勢はなんら確立されてはいない.
 誤診は医師のみに課せられるワードではなく,この分野に携わる者が共有すべきものである.プランを安易に扱う事なきようじっくりと検証もふくめ吟味願いたい.

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