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最新医療~夕刊からだ面より

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乳がんの分子標的薬…新たに2剤 選択肢増加

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 治りにくい種類の乳がんの治療成績を向上させた分子標的薬。昨年秋以降、新たに2剤が加わり、選択肢が広がった。今年4月に発売された薬は分子標的薬と抗がん剤を組み合わせた新しいタイプで、副作用の少なさも注目される。


 乳がんの15~20%は、がん細胞の表面に特殊なたんぱく質HER2ハーツーが過剰に現れ、がんを増殖させる「HER2陽性」乳がん。抗がん剤で治療しても、すぐに再発・転移する手ごわいがんだった。

 このHER2と結びつき、がん細胞を増殖させる信号の伝達を防ぐ分子標的薬「ハーセプチン(一般名・トラスツズマブ)」が1998年に生まれ、治療成績は格段に向上した(日本では2001年に発売)。がんが再び増大するまでの期間(無増悪むぞうあく生存期間)の平均値が、抗がん剤のみの治療より2倍に延びた。

 その後、「タイケルブ(同ラパチニブ)」も09年に発売。がんの縮小効果ではハーセプチンが勝ったものの、飲み薬で、脳転移に効くことがあるなどの特徴を持つ。ただ、皮膚などへの副作用が強い。

 昨年9月、新たに加わったのが、再発患者を対象に発売された「パージェタ(ペルツズマブ)」だ。HER2は仲間のHER3と結合し、ハーセプチンだけでは抑えきれないがん増殖信号を出すが、これを抑える作用も持つ。

 国立がん研究センター東病院の乳腺・腫瘍内科医長、向井博文さんは「パージェタはハーセプチンとの併用で無増悪生存期間を約6か月延ばした上、患者の全生存期間も延ばしており、効果の高さが魅力」と語る。

 さらに今年4月には、分子標的薬に抗がん剤を組み合わせた新しい形の薬「カドサイラ(同・トラスツズマブエムタンシン)」が発売された。ハーセプチンの効果がなくなった再発患者が対象だ。

 この薬は、ハーセプチンに抗がん剤DM1を組み合わせている。HER2を目標にがん細胞に到達すると、結合が外れ、抗がん剤が効果を発揮し始める。従来の抗がん剤のように正常細胞を攻撃することが減り、副作用が少ない。

 再発後にカドサイラを使って効果が出ている女性患者は「爪が軟らかくなり、点滴直後に少し熱が出る以外は何もない。大事な日々を滞りなく過ごせ、選択肢が増えたのはうれしい」と語る。

 ハーセプチンと抗がん剤を使った経験のある再発患者に対する研究では、カドサイラを使った人の生存期間が、「タイケルブと抗がん剤」より約5・8か月延びた。副作用として血小板減少が約3割の患者で出たものの、入院を検討すべきレベルの副作用は、タイケルブと抗がん剤が57%だったのに対し、カドサイラは40・8%だった。脱毛もほとんどない。

 ただ、ハーセプチンは、体重50キロ・グラムの女性で1回当たりの費用が約11・5万円、パージェタは約23・8万円なのに対し、カドサイラは約47万円(患者負担はこの1~3割)。3週間ごとに1回、効果がある限り投与することが必要で、患者や医療財政への負担が課題となる。

 パージェタもカドサイラも、現在進められている臨床試験で効果が証明されれば、初発の患者の再発防止にも使えるようになる。向井さんは「HER2陽性乳がん患者が戦える武器は増えている。これらの武器で乳がんの進行をずっと抑えられれば、本来の寿命まで生きられる可能性も出てきた」と期待している。(医療部・岩永直子)

 
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