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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

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鎮静(3)呼べば起きる程度の「浅い」状態も

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 ご本人からもご家族からも「眠ること」の承諾を得た後、私はミダゾラムという鎮静薬を使って、その60歳代女性の終末期肺がん患者さんに鎮静を行いました。

 そして……十数年前の私には驚くべきことでしたが、患者さんはうとうとと眠り、しかし、ご家族の呼びかけには反応しながら、最期まで苦しそうではなく過ごされて逝かれたのです。

 それまでモルヒネで最期まで呼吸困難の改善を図っていた身としては、その効果の違いには驚くばかりでした。

 モルヒネ中心の対応では、患者さんに苦しい顔や目立つ体動など苦しみが続いているサインがずっと残って、自然に意識が低下するまで苦しそうな時間が続いていました。しかし、鎮静が効くと同時に、それらの苦しみのサインは消え、最期まで大きな苦痛はなく過ごされたのです。

 画像で診れば、ほとんど両肺で異常陰影がないところはないほどの状況です。普通だったら息が苦しくて仕方のない状況でしょう。しかし、うとうとと気持ち良く眠っているように見える患者さんは、息こそ速かったものの、穏やかなお顔で最期の時間を過ごされたのでした。

 ご家族もご本人が楽そうであったので、安心して最期まで見守ることができたとおっしゃってくださいました。ご家族は身体をさすり、穏やかに語りかけ、ご家族に囲まれながら患者さんは最期の息をし、逝かれました。

 まさに鎮静は、(1)耐え難い苦痛があり、(2)他の症状緩和策が無効で、(2)余命が短く(一般にあと数日と判断される)、(4)ご本人とご家族の希望がある時、苦しむ患者さんにとって大きな力となる処置なのです。

 この(1)~(4)が正しい鎮静のために必要な要素となっています。

 とりわけ重要なのは、「必要十分な情報を知らされたうえでの明確な意思表示がある」ことです。

 一方でデメリットもあります。それは鎮静施行以後のご家族などとのコミュニケーションが、眠るために難しくなることです。もっとも鎮静を行うくらい苦しい状況ですから鎮静を行うのであって、起きていてもコミュニケーションが円滑にできるかというと難しいことも多いでしょう。

 しかし、なるべくコミュニケーションができつつ苦痛を取ることを目指して、最近の鎮静は「間欠的に」(必要な時だけに)あるいは「浅く」(呼べば起きるくらいの状態を目指す)行うことから始めることとされています。持続的鎮静だけの施設がまだあることは少々残念なことで、より正しい鎮静の知識の普及が望まれています。

 詳しい鎮静法は緩和医療学会が出している『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン』や拙著『間違いだらけの緩和薬選び』をご参照頂ければ幸いです。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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